第21話:新たなる仲間ジェラート
(???)
「殺らせないっ!」
トリンの剣が当たるより早く何者かがその剣を弾いた。
(トリン)
「ぐっ!何者だっ!この俺様の剣を弾くとは……」
(ティラミス)
「名乗るほどの者ではない……だが、こいつを殺させるわけにはいかないっ!」
(レクトル)
「その声は……ティラミス様。どうして、このような場所に?」
(ティラミス)
「遅くなってすまなかったな……兄上との決着はついた。だから、戻ってきたのだ」
ティラミスは眼を覚ますとカナン達と合流すべく急いでペラルの砦を目指していた。
(ジェラート)
「やって来た死神はそいつだけではないぞ」
ジェラートはトリンの回りに集まってきた黒の狼団を一瞬で倒した。
(トリン)
「なっ!お前は……蒼の流星っ!どうしてこんな場所にいるのだっ!」
(ジェラート)
「まぁ、何と言うか……成り行きでな」
(トリン)
「くっ……お前が相手となるとこれは一筋縄ではいかないな……」
(ジェラート)
「勘違いするな。俺はお前と戦いに来た訳ではない」
(トリン)
「それじゃ、一体誰が俺様と戦うというのだ?」
(ティラミス)
「お主の相手は私だっ!」
ティラミスはトリンに向けて剣を構えた。
(トリン)
「俺の相手がお前だと……笑わせるなっ!お前の様な女になど負けわせぬっ!」
トリンは怒りに任せてティラミスに大剣を降り下ろした。
ティラミスは蝶のように舞うといとも簡単にトリンの攻撃をかわした。
(ティラミス)
「お主の相手になるかどうか……これを食らってみてから言いな」
ティラミスは呼吸を整えると静かに剣先を下げた。
その隙にトリンは攻撃を仕掛けたが、トリンの剣が当たるより早くティラミスはトリンの左肩に剣を命中させ、次にその反動で右の脇を斬り、そして、再び左の腕を斬って右足を斬った。それらの攻撃は瞬きをするほんの少しの出来事であった。
(トリン)
「ぐはっ!!!」
(ティラミス)
「……とどめだ」
ティラミスは最後に衝撃によって浮き上がるトリンの身体目掛けて剣を降り下ろした。
(トリン)
「なんという……早さだ……まさか……この黒き豹よりも……早く動く者が……いよう……とは……」
トリンは地面に叩きつけられるとそのまま動かなくなった。それを見た他の兵士や傭兵達は蜘蛛の子を散らすがごとく散り散りに逃げていった。
その頃、砦の地下牢ではカナン達が囚われていた。
(ペラル兵)
「本当にお前達も馬鹿な奴等だ。アサシンギルドを潰したぐらいで将軍が晩餐に招待するはずがなかろう……うがっ!」
(クルー)
「命中したでやんす」
クルーは武器庫から盗んできたカナン達の武器を天井から落としてペラル兵に命中させた。
(カナン)
「よく来てくれたね、クルー」
(クルー)
「旦那の為なら例え、火の中、水の中だって行くでやんすよ」
クルーはカナン達の牢屋の鍵をちょちょいのちょいで開けた。
(レイチェル)
「ちょっとクルー……来るのが遅いんじゃないの?早くこっちの扉も開けておくれよ」
(クルー)
「おやおや……これは、これは姉御様。そのような所で何をおふざけになってるでやんすか?」
クルーは嫌味たっぷりな台詞を吐きながらレイチェルのことをからかった。
レイチェルは怒りで肩を振るわせていたが、両腕を念入りに縄で縛られていたため自由がきかなかった。
(クルー)
「まさか盗賊が牢屋の鍵も開けられないなんて事はないでやんすよね?」
(レイチェル)
「ああ……分かった。分かったよ。あたいの負けだよ。あんたはあたいが抜け駆けしたからこうなったって皮肉を言いたいんでしょう?抜け駆けして悪かったわよ」
クルーはレイチェルが素直に負けを認めるとすぐに牢屋の鍵を開けた。そして、レイチェルの自由を奪っている縄を解いた。
(クルー)
「分かっていると思っているでやんすが……」
(レイチェル)
「ああ、その先は言わなくていいよ。義理には薄く、人情には厚い。
それがあたい等、盗賊ギルドの掟だろ?この恩は必ず返すわよ」
レイチェルはカナンにこれからよろしくと挨拶をかわした。
カナン達は完全に油断していたベルガー将軍の裏をついて一気にペラルの砦を制圧していった。そして、砦に残っているのはベルガー将軍だけになった。
(ベルガー将軍)
「そんな馬鹿なっ!罠にはめたつもりが逆に罠にはまるとは……わしの負けのようだな……」
ベルガー将軍は観念したように俯くと剣先を下の方へと向けたのだが……武器を奪おうとカナンが近づいた瞬間、急に剣を振り上げてきた。
(アースティア)
「……危ないっ!」
アースティアは間一髪のところでベルガー将軍の攻撃からカナンを庇ったが、その代わりに腕へ手傷を負った。
(カナン)
「ティアっ!なんて事をするんだ……傷は大丈夫かっ!」
カナンは慌てて自らの服の一部を破るとアースティアの傷口を塞いだ。
(カナン)
「ティア……無茶な事はするな。君を失ったら僕は……」
カナンは動揺するあまりベルガー将軍のことをすっかりと忘れていた。
その隙にベルガー将軍は再び攻撃を加えようとしたが、レイ二ードがそれを許さなかった。
(レイニード)
「させるかよっ!」
レイ二ードはベルガー将軍の持っていた剣を矢で弾いた。
(ベルガー将軍)
「くっ!わしはまだ死にたくはないっ!死ねないのだっ!!」
ベルガー将軍は落ちた剣を拾い上げるとカナンに反撃しようとした。
(カナン)
「よくも……よくもっ!ティアに傷つけたなっ!」
カナンは剣を抜くと渾身の力でベルガー将軍を斬った。
(ベルガー将軍)
「わしは……わしはまだ死にたくは……な……かった……」
ベルガー将軍は豪快な音を立ててその場に倒れた。そして、お腹から大量の血を垂れ流した。
カナンはアースティアの腕を治療してもらうために急いで別れた部隊の下へと戻った。そして、カナンが自分の部屋でアースティアの治療が終わるのを待っているとフィリルが部屋の中へと入ってきた。
(カナン)
「アースティアの容態は?」
(フィリル)
「……もう大丈夫よ。今、杖の力で傷口を塞いだところよ」
(カナン)
「そうか……それは良かった」
(フィリル)
「それより……カナン君っ!アースティアちゃんの事で少し動じ過ぎではないの?気持ちは分からなくないけど……もう少しで敵将に討たれるところだったのでしょう?本当にそんなことでこれから先も大丈夫なの?」
(カナン)
「分かっているつもりだった。だけど……駄目だった。アースティアが僕の代わりに怪我をしてしまった瞬間、僕は自分のことが見えなくなってしまった……」
(フィリル)
「きつい事を言うようだけど……カナン君っ!あなたがここで死んでしまったら、あなたを慕って付いてきた人達をどうする気なの?あなたは皆の思いを背負っているのよ。もっと大将らしくしっかりとしなさい」
(カナン)
「……」
カナンはフィリルに対して何も言い返すことができなかった。
(レイニード)
「邪魔するぜ……カナン。ティラミスさんがさっきお前の事を捜していたぞ」
(カナン)
「そうなのかい?」
(レイニード)
「急ぎの用じゃないみたいだが……一応ティラミスさんの所へ行ってみたらどうだ」
(カナン)
「……分かった。そうしてみるよ」
カナンは部屋の外へとティラミスのことを捜しに向かった。
カナンが出ていくのを見届けるとレイニードは強めに扉を閉めてフィリルのことを睨んだ。
(レイニード)
「フィリルっ!一体どう言うつもりだ?何であんなきつい事をカナンに言ったんだ?」
(フィリル)
「……ごめんなさい、レイニード。それは……カナン君がアースティアちゃんに夢中になるあまり彼女の身に何か起きた時にカナン君も一緒に死んでしまうのではないかと思ってしまって……」
(レイニード)
「そうならない様にするために俺達がここにいるんじゃないのか?あんなにカナンだけを責める必要はなかったんじゃないのか?」
(フィリル)
「それは充分に分かっているわ。だけど、私には……」
フィリルは急に口を閉じると沈黙した。
(レイニード)
「だけど?だけどって何なんだ。その後の言葉は?」
(フィリル)
「私にはあなたとカナン君の姿が重なって見えたの。あなたはカナン君の為に命をはっている。それはいい事だと思う。だけどもし、あなたがカナン君の為に何時か命を落としてしまったら……私は一体どうすればいいのっ!あなた達は残された者の気持ちを考えた事があるの?この気持ちはアースティアちゃんも同じだと思うわ。だから……カナン君にアースティアちゃんのことであんなに動揺してほしくなかったの……」
(レイニード)
「フィリル……お前の気持ちは良く分かった。いきなり、きつい事を言って悪かったな……」
(フィリル)
「別にいいの……気にしなくても。あなたはカナン君の事を思って言っただけなのでしょう?」
(レイニード)
「そうだ……俺はやはりカナンのために死ぬつもりだ。この気持ちは何があろうと変わらないだろう。だけど……その代わりにその時が来るまでは俺がお前を全力で守り抜く……約束するぜっ!」
(フィリル)
「男って……本当に誰かのために死ぬ事が好きなのね。何だか妬けちゃうわ。どうして、私はあなたのような死にたがりをこんなにも好きになったのかしら……嫌いじゃはいけど……」
(レイニード)
「俺だってお前の事を死ぬほど愛してるぜ」
レイニードとフィリルはお互いに見つめ合うと熱いキスをかわした。
その頃、カナンはティラミスのことを捜していた。カナンはレクトルを見つけるとティラミスのことを尋ねた。
(カナン)
「ねぇ、レクトル?ティラミスさんのことを見なかったかい?」
(レクトル)
「えっ……ティラミス様ですか?先程、下の酒場の所におられましたが……」
(カナン)
「そうなのかい?分かったよ。そこに行ってみるよ」
カナンは下の酒場へと向かった。酒場に着くとそこにはティラミスとジェラートがいた。
(ティラミス)
「おお、カナン殿っ!丁度、良いところに来られた」
(カナン)
「僕のことを捜してるって聞いたから……」
(ティラミス)
「ああ……実はカナン殿に私の兄の事を紹介したいと思ってな」
(ジェラート)
「お初にお目にかかります、カナン皇子。私の名はジェラートと申します」
(カナン)
「これは丁寧なご挨拶ありがとうございます」
カナンはジェラートに頭を下げた。
(ジェラート)
「私はデザート国の第一皇子です。そして、ティラミスはデザート国の第一皇女でございます」
(カナン)
「……えっ!ティラミスさんって皇女だったのですか?」
(ジェラート)
「さようでございます。それなのにティラミスときたら……勝手に国を飛び出してしまい。私は王の命によりティラミスを国へ連れ戻すためにやって参りました」
(カナン)
「全然知りませんでした……」
(ティラミス)
「別に言う必要は無いと思ってな……別に隠していたわけではないぞ……」
(ジェラート)
「それで……ティラミスを我が国に連れて帰ろうと思ったのですが……」
(カナン)
「そんな……それじゃ、ティラミスさんは……」
カナンは不安な瞳でティラミスの方を見た。ティラミスは静かに首を横に振っていた。
(ジェラート)
「と……このようにティラミスはまだカナン皇子達と共に旅がしたいと申しておりまして……仕方なく私もこの部隊に同行したいと思っているのですが……構いませんか?」
(カナン)
「えぇ、僕は全然構いませんよ。今は一人でも多くの仲間を集めたいと思っています。だから……むしろこちらから協力をお願いします」
(ジェラート)
「……分かりました。何なりとお申しつけ下さい。それと私を呼ぶ際はティラミスと同じ様にさんづけでも呼び捨てで構いませんので好きなようにお呼びください。ただし、様づけだけはご勘弁ください。一応お忍びの旅ということになっておりますので……」
(カナン)
「……分かりました。それでは他の人と同様にお呼びしますね、ジェラートさん」
(ジェラート)
「はいっ!よろしくお願いします」
こうしてカナンの部隊に新たな仲間が加わった。




