2-3 Kikka 襲撃
遅ればせながらの投稿です。かなり間が空いたなぁ(汗)
今回のお話は、これまで少し影の薄かったキッカ視点です。
『『禁書目録』を渡さなければ、本条トウマを殺します』
あまりにも理不尽な要望が、モニター室に響き渡った。
「ふざけんじゃないわよ……!」
キッカは、突如現れてきたテロ組織の要望に、拳を握りしめた。横目でレンを見ると、レンはイツキにしがみついて小さく震えていた。イツキは、そんなレンを黒ずくめたちから遠ざけようと、自分の背中側にレンを押して、黒ずくめたちと対峙する。
黒ずくめの一人が、二人に近寄った。ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。
「昨日はよくもやってくれたな、小僧」
「…………」
しかし、イツキは答えずに、黒ずくめを睨み付けた。それが面白くなかったようだ。黒ずくめはもっていた拳銃でイツキの頬を殴る。
「……っ!」
「いっちゃん!」
「イツキ!」
ヒカルとキッカはイツキに駆け寄ろうとした。
しかし、
「動いちゃ駄目だよ」
まだ年端も行かないような少年の声が、後ろから二人を“引き止めた”。
「え……?」
「うご、かない?」
キッカとヒカルは、指一本すら動かすことができなかった。何かに縛られているわけではない。まるで、金縛りにあっているように、二人の動きは封じられていた。
「大人しくしててくださいよ。ボクは戦うのってキライなんです」
二人の動きを封じたのは、黒ずくめのなかでも一際小柄な少年だった。レンと同い年くらいに見えるが、今のキッカたちに彼の姿は見えなかった。
「申し遅れました。ボクはメフィスト・コーポレーション所属の超能力者です。一応、遠隔念動力を持っています」
少年は淡々とした口調で話しながら、左右の指を鍵盤を弾くように動かした。
「ちゃんと手を後ろに回して大人しく座っててくださいな」
少年がそう言うと、キッカとヒカルは両手を後ろに回し、その場にゆっくりと腰を下ろした。少年が楽しそうに笑う。
「面白いでしょう? ボクはこの力を『人形劇』って呼んでます」
少年はそう言いながら、後ろからヒカルに近寄った。その手にはスタンガンが握られている。
「では、瞬間移動能力者のお姉さんには、ちょっと失礼しますね」
次の瞬間、キッカの隣でバチンという音が鳴り、紫電が散った。
「うぁっ!」
「ヒカル!」
隣でヒカルがその場に崩れる。意識はあるようだが、身体中をガクガクと痺れさせていた。
「『強固なる神』のところへ行かれては困りますからね。しばらく大人しくしててください」
少年は微笑みながらそういうと、次はキッカの両手に手錠を掛けた。いつの間にか、局員たちも部屋の角に集められ、反抗できないように拘束され、頭に銃を向けられていた。
「おら! 反撃してみろよ」
部屋のほぼ中央で、イツキが男に腹を蹴られ、咳き込んだ。男は更に後頭部を撲る。イツキはついに、床に倒れ伏した。
「イツキ、イツキ!」
イツキの後ろにいたレンが、しゃがみこんで倒れたイツキを揺さぶる。イツキは起き上がろうと体を浮かせたが、男に背中を踏まれ、また地面に伏した。
「……変だなぁ。どうしてあのお兄さんは反撃しないんです? お兄さんの能力なら楽勝じゃないんですか?」
キッカの隣で、黒ずくめの少年が首を傾げた。キッカはそれに対し、だんまりを決め込む。
イツキは反撃を“しない”のではない。反撃が“できない”のだ。
イツキの念動力は、空間を固定化したり、エネルギーの流れる方向を変えたりすることで、標的を押し潰したり、凄まじい勢いで風を起こしたりすることができる。
しかし、イツキは自分にはまだ強力すぎる能力を完全にコントロールする術を持っていない。全方位殲滅型の能力しか出せないイツキは、黒ずくめを倒すと同時にモニター室にいるキッカたちまで巻き込む危険性があったのだ。
『そのくらいにしときなさい。我々は殺しにきたのではないのですよ』
そこへ、それまで何も言わなかったモニターのコウモリが、イツキを踏みつける男を止めた。男はモニターを見上げて小さく肩を竦める。
「一人くらいいいではないですか、ファウスト様。こいつらが如何に無力かを見せつけるくらいはさぁ」
『……まったく』
ファウストと呼ばれたコウモリは、小さくため息をついた。イツキを踏みつける男は、更に言葉を続ける。
「第一級の念動力能力者とか言いながら、まったく反撃しないガキとか、銃を奪われた程度で使い物にならない精神感応能力者なんか、無力と呼ばず、なんと呼ぶんです?」
「なんですって……!」
男の言葉を聞いて、キッカは男をキッと睨む。しかし、男は全く動じずにさらにキッカに追い打ちをかけるように笑った。
「あぁ、聞こえちまったか? でも本当のことだろう、木偶の坊さんよぉ」
「…………っ!」
言い返せなかった。
いや、もしかしたら何か言い返せたのかもしれない。けれども、キッカにはその言葉が見つからなかったし、声の言うことはあながち間違ってはいなかった。
精神感応
遠隔知覚
透視
予知
探知。
五種類の能力を保持していながら、そのすべてが精神干渉系のESPに属するキッカの能力は、戦闘では無力に等しい。何とか精神感応や探知などを応用して、銃を難なく扱えるようにはなっているが、それだって今のように銃を奪われてしまえば、結局無力と化してしまう。
これまで自分でも抑えていた、能力への劣等感が、男の言葉によって再び自身の心を脅かし始めていた。
「……私は、無力……」
(違う。違う違う違う違う違う違う違う違う!)
必死になって頭からその考えを消そうとしたが、一度甦ったことは、簡単には消えてくれなかった。
――菊花、君は無力だな。
脳裏に“あの男”の言葉が過る。
――お母さんに言うんじゃないよ。君だって、知られたくないだろ?
「……やめて……」
「……キッカ、さん……?」
向こうの方で、それまでイツキを揺さぶっていたレンが、心配そうにこちらを見てくる。イツキも、首だけを動かしてキッカを心配そうな眼差しで見る。
しかし、キッカの視界に二人は映らなかった。
――特に、あのユウトとかいう男には……。
「……いやぁ……」
記憶の中で、“あの男”が呪いの言葉を放つ。
――君が×××××なんてね……。
「いやあああああぁぁぁぁっ!」
耐えきれず、その場に崩れた。思い出したくないものを思い出してしまった。
自分が“こうなった”きっかけ。
自分の大切なものが、どんどん崩れていった瞬間。
その全てが、まるで鉄砲水のようにキッカに襲いかかった。
「……ん、“壊れ”ちまったか? がはははは!」
崩れるキッカを見て、男はまるでそれが愉快で堪らないかのように大声で笑った。キッカの隣で、少年がやれやれ。とでも言うように、小さく両手を上げている。
「この、外道が……!」
イツキが悪態をつくと、男は笑うのを止めて、イツキを見下ろした。
「あぁ? てめぇも壊してやろうか!」
男はそう言うと、レンの長い髪の毛を引っ張って自分の方へ寄せた。
「やぁっ、痛い! 離して!」
「レン!」
男はレンの胴体に腕を回すと、その体を易々と持ち上げた。
「触んないで。えっち!」
「けっ、未発達のガキが何ほざいてやがる」
男はレンに銃を突きつけながら、イツキを蹴って仰向けにした。
「う……」
「哀れだなぁ。第一級念動力能力者さんよぉ。能力が強すぎる故に、俺たちだけを倒せないなんてな」
「…………」
「昨日の礼、たっぷりしてやるぜ!」
男の足が、イツキの左腕に降り落とされた。ゴキ、と、骨が折れた音がモニター室に響き渡る。
「うああぁぁっ!」
成す術もなく、イツキが叫び声をあげる。レンはイツキのそばへ行こうと、必死になって男の腕の中で暴れた。
「イツキ、イツキ!」
「さて、次はドコにしようか?」
男はイツキの折れた左腕を爪先で突っつきながら、品定めをするかのようにイツキの体を見る。
「よし……頭だ!」
「やめてぇぇぇっ!」
男の楽しそうな声と、レンの絶叫が響き渡り、男の足がイツキの顔面に向けて降り落とされようとしたそのとき、
「そこまでです」
突如、モニター室の壁に扉が現れた。
視点をころころ帰るお話は難しいです。なかなか『ムシウタ』の岩井恭平先生のようにはいきません。
日々精進あるのみですね。頑張ります!(笑)




