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ALONES  作者: 旅がらす
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11/14

2-6 Ren 病院にて

やっと更新できました……。

一応、これで第二話が終了です。

「これは、作戦失敗だわね」


 レンが『霧』の能力を解除した途端、黒いパーカーの少女とぼろぼろのゴスロリファッションの少女が、モニター室に現れた。二人は、あちこちに血が飛び散ったモニター室の惨状を見ても、特に表情を崩さなかった。


「こりゃ早く退散しなくちゃだわよ。あーあ、めんどくさいわ。『強固なる神』は『扉』を開いちゃうわ、『禁書目録』は奪えないわ。ついてなさ過ぎだわよ」


 パーカー少女はそう言うと、ゴスロリ少女の背中を叩いた。少女は一瞬だけ体を強ばらせたが、すぐに両手を前に出す。すると、黒ずくめたちや彼らの切断された腕が、二人の少女へと近づいていった。

 パーカー少女は、全員の身体が自分たちの近くに集まったのを確認すると、今度はレンに視線を移した。


「『禁書目録』、これで終わったと思わないことだわよ。私たちはまたいずれ、アンタを奪いに来てあげるわ」


 パーカー少女はそれだけ言い残すと、他の黒ずくめたちを連れて、モニター室から消え去った。




   ◆




 あの後、ユウトが見知らぬ三人組と一緒にモニター室に駆けつけ、イツキやヒカルなどの負傷者をこの病院へと運び込んだ。

 どうやら、左腕を骨折したイツキが最も重傷だったらしい。ヒカルやトウマも命に別状はないと聞いて、レンは胸を撫で下ろした。

 キッカはというと、ユウト以外の人間に触られるのを極端に嫌がり、まるで小さな子供に戻ってしまったかのように、ユウトの腕にしがみついて離れようとしなかった。今は一足早く、シェアハウスにユウトと二人で戻っている。


 そして、レンは支援事務局に隣接する、大学附属病院の一室にいた。レンの目の前で、小さな寝息を立てているのは、イツキだ。隣では、トウマが八等分にされたリンゴを頬張っている。


「……イツキ、なかなか起きないなぁ」


 トウマはそう言いながら、また一つ、リンゴを頬張った。トウマは電流を浴びた以外に目立った怪我もなく、能力の使い過ぎでしばらく安静しなければいけないとのことだが、見た感じは元気そのものだった。

 トウマの言葉に、レンはただ静かに頷いた。あれから、イツキはずっと眠り続けたままだ。時折、苦しそうに何かを呟いている。しかし、その声はあまりにも小さくて、うまく聞き取れなかった。レンはイツキの布団をギュッと握りしめた。

 トウマが心配そうにこちらを見つめ、リンゴを差し出してくれたが、レンは丁重に断った。イツキの目が覚めるまでは、イツキが大丈夫だと実感できるまでは、何もする気にはなれなかった。


「あ、トウマっち。俺っちはリンゴ欲しいにゃー」


 しかし、ベッドから乗り出してリンゴを頬張るこの男からは、何としてでもイツキを守らなければ。とは思っていた。


「うにー。レンちゃん頬っぺたプックプクー。美少女が台無しだにゃー」


 そう言いながらレンの頬をつつく男は、兼村ヒロ。

 話を聞く――というか、一方的に話してきた――と、彼は元々この近隣で悪さをしていた不良グループの所謂『用心棒』だったのだが、ある日地下街で仲の悪かった別のグループと抗争中に、偶然地下街に来ていたイツキの能力に全員が捩じ伏せられたのだと言う。その後、イツキは不良たちをまとめあげ、一躍リーダーとなって彼らを見事に更正させて、町を脅かしていた不良グループは、一転して町を綺麗にする清掃ボランティアグループになったとか。そして自分は彼のカリスマ性に惹かれ、更に能力者として虐げられた自分にココを教えてくれたイツキを愛しちゃっている……らしい。


「だから俺っち、いっきーの看病するにゃー。今ならぴかっちもいないから邪魔されないしにゃー」


 ぴかっちとは、恐らくヒカルのことだろう。なるほど、イツキは結構モテモテのようだ。


(って、私、何考えてるんだろ……)


 レンは一瞬頭を過った黒いもやもやとしたものを振り払った。イツキは自分の恩人なのだ。一度ならず、二度も自分を助けてくれた。だから、レンはイツキを看病したいのだと、自分に言い聞かせる。


 コンコン。


「……?」


 ドアをノックする音に、レンは顔を上げた。続けて、ドアの向こうから女の人の声が聴こえてくる。


「入っても構わないか?」


 その声に反応したのは、トウマだった。


「支部長! どうぞ入ってください」

「うむ。では、失礼するぞ」


 トウマの了承を得て、ドアの向こうから妙齢の女性と筋肉質の中年男性、それにイツキと同い年くらいの少女の三人組が病室に入ってきた。確か、あの騒動の後でユウトと一緒にモニター室にやってきた人たちだ。 妙齢の女性は、レンの隣まで軽やかな足取りで歩いてくると、腰を落としてレンと目線を合わせた。アップに結われたロングヘアに真っ赤なルージュがよく映えていて、とても綺麗な人だとレンは思った。


「はじめまして。私は超能力者特別支援事務局、南中央支部支部長の古賀埜という。よろしく」


 妙齢の女性――古賀埜は、自己紹介をしながらレンに右手を差し出した。レンはおどおどしながらトウマを見る。トウマは声を出さずに「大丈夫だよ」と言ったので、レンはゆっくりと、自分の右手を古賀埜に差し出した。古賀埜の右手が優しくレンの右手を握る。強気な感じの口調とは違って、古賀埜の手の感触は柔らかく、とても温かかった。


 二人が手を離すと、今度は首にチョーカーを巻いた少女が、レンに手を差し出してきた。


『えっと、はじめましてですの。私は古賀埜アズリといいますの! お姉さまともども、よろしくお願いしますですの!』


 不思議なことに、アズリと名乗った少女は、口を全く開いていなかった。しかし、彼女の『声』は、確かにレンの頭に響いている。

 レンが面食らったように目をぱちくりと瞬かせていると、アズリは『あのあの』とまた『喋り』ながら、両手をブンブンと上下に振った。


『申し遅れましたですの。私、遠隔知覚能力者テレパスなんですの。ちょっと、昔いろいろありまして、今は声が出せないんですの』

「声が……?」


 そう言って、レンはハッと口をつぐんだ。アズリのチョーカーの端から、青黒い傷痕がほんの少しはみ出しているのが見えたからだ。おそらく、それが原因なのだろう。一瞬、病室に沈黙が走る。


「にゃはーん。でも、あずっちの能力は便利だにゃー。離れててもきちんと聞き取れるから、俺っちは好きにゃー」


 そこへ、ヒロが満面の笑顔をアズリに向けた。アズリは顔を真っ赤に染めて『ありがとうございますですの』とヒロに笑顔で答えた。


「あ、それで、支部長、一体どうしたんです?」


 ヒロが空気を和らげたのを察知し、直ぐ様トウマが話題を切り替える。支部長もそれを察し、うむ。と口元に手を当てながら頷いた。


「いや、『禁書目録』の能力者を保護した、と篠山から聞いてな。一目会いたかったのだよ」

「私に……ですか?」


 レンが尋ねると、古賀埜はニッコリと微笑んだ。


「あぁ、君にだよ。確か、小檜山レンくん、だったかな?」

「は、はい……」

「ちょっと失礼するよ」


 古賀埜はそう言うと、レンの頬に触れてきた。レンを見つめる瞳はとても深く、レンは吸い込まれそうだった。

 古賀埜はしばらくの間レンを見つめていると、頬から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう。君は『合格』だ」

「へ……?」


 突然、訳の分からないことを言われ、レンは戸惑った。しかし、古賀埜はそれ以上『合格』に関して何も言わない。


「さて、第一の目的は終了だな。次の目的に移ろう」


 古賀埜はそう言うと、スーツの内側からチアリーディングで使うバトンを取り出した。今度は、トウマの頭の方に移動する。

 皆が黙ってその光景を見つめる中、


「この、馬鹿者が!」

「どわあっ!」


 トウマの頭部に向けて、バトンを勢い良く降り下ろした。トウマは直ぐに反応して両手をクロスしてそれを受け止める。

 トウマは冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべ、古賀埜に震える声で話しかける。


「し、支部長。バトンって、凶器じゃないっすよ?」

「だからどうした?」

「いや、普通、これで人は殴らないっしょ」

「ふむ。可笑しなことを言うな。私はこの為に常にコレを持ち歩いているのだが」

「おかしいのはアンタの頭だ!」


 先程の優しげな笑みとは打って変わって、妖艶に微笑む古賀埜に対し、トウマは警戒を解かない。両手はずっとクロスしてバトンを防いだままだ。二人は互いに決して引こうとしない。さすがにヒロも驚いたのか、呆気にとられた表情で二人を見ている。


「……支部長。本題に入ってください」


 数秒ほど両者が睨み合っていると、収集がつかないと判断したのか、先ほどまで口を開かなかった中年男性が、小さくため息をつきながら二人を引き離した。

 古賀埜は小さく、しかし確実に舌打ちをして、トウマから離れて近くの椅子に腰かけて足を組む。トウマはそれを確認してから、ゆっくりと両手を下ろした。服を整え、古賀埜を軽く睨みながら、トウマは尋ねる。


「……何すか、本題って?」

「『扉』を開いたというのは本当か?」


 ――ドクンッ


 『扉』という言葉を聞いた瞬間、レンの心臓が大きく脈動した。はじめて聞いたはずの言葉なのに、随分と懐かしい響きに聞こえた。


 一方トウマは、古賀埜の言葉に眉を潜めていた。


「何でそのことを知ってるんですか?」

「黒いパーカーを着た少女が、そう言っていたと、モニター室の局員たちから聞いたのだ。『強固なる神』が『扉』を開いた、とな」


 古賀埜がそう言うと、トウマはむぅ。と唸った。何かを迷っているように、考え込む。一人話を飲み込めないヒロが、おちゃらけた表情で首を傾げる。


「何の話をしてるにゃー?」

「兼村。お前は口にチャックをしていろ」

「……にゃ」


 古賀埜の真剣な声に、ヒロは素直に従った。そして、皆でトウマが口を開くのを待つ。トウマはまだ黙っていたが、話すことに決めたのか、慎重に言葉を紡ぎ始めた。


「俺も正確なことは分かんないです。ただ、力が欲しいと思った瞬間、突然目の前が真っ暗になって、その中に、ポツンと両開きの白い『扉』が存在していて……」


 ――白い、扉……。


 トウマが言葉を紡ぎ出す度に、レンの脳裏に闇の中、静かに浮かぶ荘厳な白い扉の映像が現れた。どうして、こんなものが見えるのか、レンには見当もつかなかった。


 ――なぜ? はじめて見るのに、私はこれを、『知っている』……。


「そのとき、扉の向こうから声が聞こえました。声は、自分が俺の『真の能力』だと名乗ってました。他にも、コインの裏表とか、鏡の向こう側とかとも言ってました」


 ――コインの裏側、鏡の向こう側……。


 トウマの話を聞く度、レンの意識はどんどんと『扉』の方へと吸い込まれていく。


 トウマの話を聞き終え、古賀埜は足を組み直して考える仕草をした。アズリが、先ほどとは打って変わって真剣な眼差しで自分の姉を見つめる。


『お姉さま……』

「……うむ」


 妹の呼び掛けに、古賀埜はゆっくりと頷いた。そして、先ほどよりもずっと真剣な目付きでトウマを見据える。


「トウマ、おそらくお前が見たのは、『真名の扉』だろう」

「『真名の扉』?」


 ――『真名の扉』……


 古賀埜の声を聞いた瞬間、レンの目の前に佇む扉から、少年の声が聞こえた。まるで、探し続けていた『何か』を遂に見つけ、歓喜に打ち震えているようだ。


 トウマが不思議そうに古賀埜の言葉を反復させると、古賀埜はアズリに目を向けた。

 アズリはコクリと頷くと、文庫本サイズの黒い板のようなものを取り出した。それを二つ折りに開くと、板の脇から黒いペン状の棒を出して開いた板の内側を操作する。どうやら、携帯用パソコンのようだ。

 アズリは少しだけパソコンをペンで操作し、手を止めてモニターを見つめ、静かな声で話し始めた。


『……『真名の扉』、深淵に潜みしもの。

 闇に浮かび、『資格』を持ちし者を更なる高みへ導くもの。

 我、コインの裏。汝の影。汝の『真』の名。

 深淵に足を踏み入れし者よ、我が名を呼べ。さすれば我、更に深き混沌へ汝を導かん……』


 そこまで言い終えると、アズリはゆっくりとパソコンを閉じた。


『以上が、『真名の扉』についてのこちらで得られた情報ですの。これは六百年程前に超能力者と言われていた、ヨーロッパのフレデリック・マーチンという方が遺した文書の一節でして、実際にある時期を境に、彼の能力は数段上のものになったという研究結果も残っていますの』

「…………」

「トウマ、お前が見たと言う『扉』は、他にも何か言っていなかったか? それが『真名の扉』ならば、お前の能力には、『真』の名前があるはずだ」


 古賀埜が真剣な口調でトウマに問い詰める。トウマは、古賀埜の目を見つめ返し、ゆっくりと口を開いた。


「『炎纏いし蜥蜴サラマンダー』……」


 ――見つけた!


 その名を聞いた瞬間、レンの目の前の『扉』が、勢い良く開いた。


「……!?」

 ――替わりなさい、レン。どうやら、『僕』の出番のようだ……。


 急に、少年の声が、大人びたものに変化する。それと同時に、レンの意識は『扉』の向こうに吸い込まれた。


「ふふふ……」


 レンと入れ替わった『それ』は、思わず小さく吹き出してしまった。長年探し続けていたものを、遂に見つけたのだ。やっと、やっとだった。


「レンちゃん? どうしたんだい?」


 突然レンが笑いだしたのを不思議に思ったのか、トウマが表情を崩し、レンの体を借りた『それ』に柔らかい口調で話しかけてきた。

 しかし、『それ』の目を見た瞬間、トウマはサッと表情を真剣なものに戻す。それを見て、古賀埜たちも『それ』を見て先ほどよりも表情を固くする。


「あんた……誰だ?」

「……ふむ。レンくんではないようだな」


 トウマと古賀埜の言葉に、『それ』はいたく感心した。一目で見破られるとは、思っていなかったのだ。


「こんなに早くばれるなんて、思いにもよりませんでした。流石は『四大元素エレメント』の一角、『炎纏いし蜥蜴』ですね。いやしかし、支部長さんも素敵な勘の持ち主だ」


 『それ』はパチパチと小さく拍手をしたが、その場の空気は相変わらず固いまま変わらない。イツキはまだ眠ったままだ。


 沈黙を破ったのは、古賀埜だった。


「貴様、何者だ。さっきのテロ組織の能力者か?」


 古賀埜の言葉を聞いて、『それ』は肩を竦めた。どうやら、『憑依能力トランス』と勘違いされているようだ。


「違います。というか、メフィストとはどちらかというと、逃亡者と追跡者って間柄ですね」

「……もう一度聞く。あんた何者だ? レンちゃんはどうしたんだ?」


 『それ』を睨むトウマの目付きが、先ほどよりも鋭くなる。『それ』は、うーん、と唸るように腕を組んだ。久しぶりに『体を動かしている』せいか、何だか自分でも悪ふざけをしているように見えてしまう。


「説明すると難しいですね。簡潔に言うならば、レンは僕であり、僕はレンである、と言うのだと思います」

「……お前が、レンちゃん?」

「貴方もつい先ほど聞いたでしょう? 『コインの裏表、鏡の向こう側』……」


 それを聞いて、トウマたちは目を見開いた。『それ』は、レンの声と顔でクスリと笑う。そして、小さくお辞儀をした。やはり、芝居がかった動きに見えて、自分でも滑稽に感じてしまう。


「はじめまして。超能力者特別支援事務局、南中央支部の皆さん。僕の名前は『禁書目録』といいます」

遂にレンの能力、『禁書目録』が現れた。

果たして、レンの能力はいったい何なのか? そして、『禁書目録』の言った『四大元素』とは?


次回から第三話に入ります。


あと、次回から前書きにキャラクターの紹介をしていきたいな〜とも考えております。

能力の詳しい説明(現段階での)などを書いていこうと思います。

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