深き森 自愛に満ちた 聖女様 最終話
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
長様に帰るよう告げられた私は、こうじさんが心配なので長様の客室に泊めてもらうことにしました。
アスクさんも、心配ということで隣室に泊まったのですが、夜間アスクさんの襲撃を受け、由香ちゃん直伝アイアンクローで、撃退出来ました。
そして、長様のお話です。
大変難しい顔をしておりますね。こうじさんの力は一体どんななのでしょうか?
心配です。
「結論から言うとじゃな?こうじの力は非常に弱い。じゃが、非常に柔軟で強い。訳が分からん。
しかも、その数、種類、支配下になるその分野はあまりにも多い。その気になれば…生物は簡単に死滅させられる…」
あぁ、菌ですしね。生物に敵意を持てば、確かに大変ですね。
「長?弱いんですよね?他属性の精霊の様に、お互いがそれぞれ力を持ちすぎないよう、牽制も出来るなら、それは無理なのでは?」
「それがの、成長するんじゃよ!例えばの?」
長様がマッチよりも細い木の枝を出してその先に火を着けます。小さな小指程の火。
「この火。これに水を浸けると消えるじゃろ?
頭おかしくなっとらんわ!熱もない!」
アスクさんが、長様の頭がおかしくなった?熱あるの?という雰囲気で額に手を置きます。
「これは、この火に外から力を与えない限り、永遠に水で消える。じゃがのぅ、こうじの力となる菌は、外から力を与えずともこれ自体が成長するんじゃ。その反する力を克服するのじゃよ!」
あ!耐性菌。成る程!
確か、故郷では特定の薬剤に弱かった菌が、使い続けた結果、その薬剤に対して耐性がついたとか。
まさかファンタジーの世界は、全ての力に耐性が出来てしまう…?
その考えに底知れないものを感じ、薄ら寒いものが走ります。
「…それは、対抗出来ていた力も越えるという事ですか?長。バランスをとるため、精霊には弱点がありますよね?
それぞれの力が牽制し合い、どれか1つだけの力が大きすぎないようにする。その抑える力を越えてしまうんですか?」
「そうじゃ。一つ一つは本当に弱い。じゃがの、その数や、成長進化出来る事、種類は違えど場所を全く選ばず何処にでもいる。ふとした事で、生ける者への悪意が出た場合、世界のバランスを崩しかねん」
そうですね。菌ですからね…。
やだ、私を見ないで下さい。
「救いは、こうじの存在はこの世界の者。森の意向に逆らうような事は無いが…森や世界にそんなに影響が無いと判断してしまえば、簡単に種族を潰すじゃろう」
アスクさんが、あちゃ~という顔をしています。
長様も、同様にあちゃ~顔ですね。
「……アキ」
「はい?」
「知っておったか?」
「…全ての菌を司るのだとしたら、それは驚異かもしれませんが…」
「全ての菌じゃ」
「わぁ…」
「森の深部から生まれたからには、意味があるのだと思うのじゃが…いかんせん、規模が大きすぎてのぉ」
「そうですね。この空中にも漂ってますしね」
「…精霊族なんじゃが…異質じゃ。こうじはまだ、森とエルフの村しか知らんし、自分の力の規模も恐ろしさも把握しきれていない」
「…」
「幸い、お主らと共におると安定する。じゃから、お前らで世界各地の森を訪ね、こうじの成長を助けてやってくれ」
「はい?」
長様が、いつもより真剣に話します。
「今こうじの中で、アキやアスクの敵となるものは排除対象という認識じゃ。それではいけない。この世界の精霊は、一つの族に肩入れしては駄目なんじゃ。それを教えるためにも、アスク、アキ頼む。
各地の森を訪ね、深部におるもの達と接し己の力と存在理由を教え、学ばせてくれ。
もし暴走するようなら、アキ、お前が止めてやってくれ」
「私が?」
「お前の言葉しか聞かんから」
「そんなことは…」
「あるんじゃ。母の様なものだからの」
そんなに幼いと感じる事は無いのですが、精神はまだまだ生まれたてなんでしょうか。
そんな大役、私に務まるのか…いえ、深部から引っ張り出して、進化までしてくれたこうじさんのためになるのだったら…
「分かりました」
「長、アキが外に出るのは反対です。俺とこうじだけで行きます」
「こうじはお前よりも、アキが抑止力となった方がいい。本意ではないが、もう決定じゃ。森もそれを望んでおる」
「森まで…」
「アキよ」
「はい」
「お主は、こうじが暴走する場合は止め、深部のもの達に会わせる事が仕事じゃ」
「はい。暴走とは具体的にどんな?」
長様は、渋い顔をなさり、
「それは分からんが、何処にでも存在しうるものじゃ。暴走してしまえば、どんな恐ろしい事になるか想像は容易いじゃろう?」
例えば、パンデミック。
衛生面が整ってないこの世界では、それはとても大規模になるやもしれません。
生き物にとっては、体内やそこら中にいる菌が、悪意を持てば…本当に怖いですね。
話のスケールが大きすぎて、頭の整理がつきません。こうじさんは、力を放出を続けぐったりして縮んでしまいました。
掌に乗る、光るこうじさん。
家で、アスクさんと今後について話し合います。
「こうじさんをこんなに疲れさせてしまって…外に出られたのは嬉しいと言ってました。私も、会えて嬉しいですが、進化は私のせいです。こんなに負担を強いられて…」
「アキ。全てこうじの意思だ。深部での事覚えているか?こうじがお前と会ってから、全てこうじが決めた。
長より永い時を存在しているから、知識はある。が、実感が出来ないんだ。死も命を奪う事も。
自立してからは、森の意思ではなく自ら考えて力を奮わなければならない。自らが力を持つことがどういう事なのか、それを自覚させるための旅だ」
「自覚させる…」
「大丈夫。こうじは優秀だろう?」
「そう、です…そうですね。とても優秀だから」
「大丈夫」
「はい。私頑張ります!」
「いい子。大丈夫だ。必ず俺が守るから、傍から離れるな?」
「はい。宜しくお願いします」
せっかく開いたら定食屋が、残念ながら即休業となってしまいました。畑のものは、ご近所に御裾分け。また必ず戻ってくるので、綺麗に掃除して鍵を閉めます。少し残念。
一週間程で旅支度を整え、明日出発という日。
封印した光る鰹節味噌汁を味わいました。
「こうじさん、本当に美味しいです!この味噌汁」
『嬉しいです。凄く頑張ったから。もう効力は殆んど無いからいっぱい飲んで下さい』
「はい、それにちゃっかり持っていきます。旅先でも、日本食広めようかなぁ」
「それは良いな。帰ってくる頃には、普通の店で食べられるようになるかもしれない」
「ただし、元祖日本食は、我がエルフの村ですからね!これは、譲れません」
『明希の料理もっと教えて下さいね』
「はい。宜しくお願いします」
「良いのぅ。ワシも付いていきたい。カツ丼は惜しい!」
長様を交えて、こうじさん、アスクさんと私で夕飯です。とても美味しく楽しい食事でした。
その夜、ベッドに入りましたが、これからが少し不安になり眠れません。月が2つ煌々と輝くのを見ています。
こうじさんの力を思うと、食べ物方面だけでなく、全ての菌を司るなんて…菌。
菌と聞いても、そんなに驚異と感じた事もない日常でしたが、こうじさんをあそこから連れ出した私には責任があります。しっかりしなくては。
「願わくばどうか、この旅がこうじさんにも良い影響があり、世界が恙無く歩めますように」
月明かりが強いせいで、星があまり見えないのですが、珍しく流れ星が見えて思いを口にします。
「×3回。なんちゃって…」
コンコン。
「ふぁい!?」
聞こえるとは思えなかったノックが聞こえて思わず、声が上擦ります。
入ってきたのは、アスクさんでした。
「アスクさん?どうしましたか?」
「…」
「?大丈夫ですか?」
反応の無いアスクさんに近寄って、尋ねます。部屋の灯りをつけようとした手を取られ、告げられます。
「アキを抱きに来た」
「…………ほわ?」
「アキを全部貰う。明日から村を出る。俺のものにしておかないと、不安だから。
……というのは、どうでもよくて……ただアキに触りたい。全部俺のものにしたい」
「あ、」
「もう、耐えられない。欲しくて、触りたくて…気が狂う。ただただアキが欲しい」
「あす、くさんぅ!」
反論は許さないとでも言うように、いきなり深くキスされ、更に後頭部を掴まれ、動けなくなります。
唇が触れると直ぐに、肉厚な柔らかいものが私の口腔に入り込み、縦横無尽に舐め啜るそれに、絡められ、擦られ、擽られて、濡れた音と荒い息が部屋に響きます。
どれくらい経ったのか、脚には力が入らず完全に体重はアスクさんにかかっています。
「はっぁ…アキ可愛い。蕩けた顔して…そんなにキスが気持ち良かった?」
コクリ。はい。
「―…っ!可愛い。本当に凄く、愛しい。俺のものになって?もっと、気持ち良くしてあげる」
…コクリ。お手柔らかに願います。
「嬉し、い…たくさん気持ち良くしてあげる。俺から離れられないように」
…もう既にそうなってる気が…。
「可愛い。アキ」
「…アスクさん、好き」
「ッッ!!どこで覚えた?そんな誘う表情して。加減出来なくなった、覚悟して」
「へ?」
アスクさんに横抱きにされ、ベッドに降ろされます。アスクさんが覆い被さってきて……――。
こうじさん、もしかしてあの味噌汁…?と思えるほど、素直にアスクさんに答えてしまいます。まぁ、素直になる分ならいいやと、思いました。
そこから、ガッツリ食べられました。
完全に肉食獣に変化したアスクさんに食い尽くされた私は、次の日など出発出来る訳もなく…その4日後にやっと出発しました。
では、行ってまいります!!
定食屋【こうじさん】
誠に勝手ながら、世界平和のために暫く休業とさせて頂きます。
申し訳ありません。
終わり。
(実は、カタリナさんはこうじさんに……)
お読み下さりありがとうございました。
こちらで終了となります。




