13. 追いかけっこ
王宮関係者が勢揃いしている中、王と王妃、第一王女が現れ観客の熱気は一気に高まった。
私もカイも順調に勝ち進み、ついに決勝で2人が剣を交える。
体が大きい私に対する皆の戦い方は偏りがちだ。私を超えるスピードで懐に潜り込み攻撃を仕掛け、反撃されないうちに離れる。きっと私も、私より大きい相手と戦うならそうするだろう。
カイも予想通りの戦い方を仕掛けてきた。パッと走り出し体を屈め私の足元を剣で狙う。だが予想がついていた私は高く飛んだ。クルリと一回転し、逆にカイの背中を取る。
首元に剣を突きつけ、勝負はあっさりついた。観客たちの称賛の声の中、両者の検討を讃えるために握手をする。
「ありがとうございました。……カイ殿、今度また……お話出来ませんか?」
苦い顔をしたカイは何も言わずに手を離し私に背を向けた。もう私とは話したくもないか。私も立ち去ろうとした時、カイがぼそっと言葉を発した。
「……今までのこと……悪かった」
カイが謝ったことが衝撃で、私は数秒カイの去っていく背中を見つめた。一筋の光が見えたような、心の雲が晴れたような気がして今すぐにロナルトに話しに行きたい。
キョロキョロとロナルトの姿を探していた所に伝令の大きな声が響く。
「決勝戦が終了しましたが、ここで挑戦者が飛び入り参加です!」
今までに無い事態に会場がザワザワと騒がしくなった。飛び入り参加なんて許されるのか?と高い場所に座している王を見やったが、何だか楽しそうにニコニコしているので特に問題はないのだろう。
「挑戦者は!シドンズ家長男、ルトフリート・シドンズ!」
女性の黄色い声が一気に会場を満たす。甲高い声に耳鳴りがするほどだ。歓声が鳴り止まない内に、決闘場の真ん中にルトフリートがふわりと現れた。
「お久しぶりです、ロウサ殿」
華麗にお礼をされるが、私はすぐに反応できなかった。
「……お久しぶりです……。今回は何を企んでるんですか?」
「おやまた冷たい反応だなぁ。君が騎士団長みたいな人が好きだって聞いたから、僕が君に勝ったらどうにかなるかなぁって思ったんだけど」
どこから情報を仕入れたのだろう。もしかしてカイから聞いたのか。
「仮にそうだとしても、女性に勝ったからと言ってその人を征服できるとは考えないことですね」
「おぉ、良いねえその気迫。やっぱりアントン殿とフォルカー殿に似てるなぁ」
騎士団長に似てると言われるのは嬉しいが、アントンに似てるのは何だか複雑だ。
「僕が勝ったら王様にコーニッシュ家に入れてくださいってお願いしてみようかな」
「そんなこと私がさせませんよ」
そう啖呵を切ったは良かったが、やはり魔法使いにただのオークが叶うわけはなかった。
最初のうちは簡単な魔法で翻弄され、飽きたのだろうルトフリートに体の自由を完全に封じられ降参するしかなかった。
仰向けに倒れた私にルトフリートが手を差し出す。
「お手をどうぞ。それで、僕の事を好きになったかな?」
「なる訳無いでしょう」
彼が冗談を言っているのはわかっていた。圧倒的に負けた事で逆にスッキリしていたこともあって笑顔でルトフリートの手を取り立ち上がる。
「優勝者、ルトフリート・シドンズ!!」
勝者宣言と喝采が会場を震わせた。負けた事は多少悔しかったが、これも毎年のエンターテインメントのような物だ。問題なく無事盛り上がったことにホッとする気持ちの方が大きかった。
そういえば、と周りを見渡しロナルトを探す。騎士団関係者の席から少し離れた所に居たのを最初の方に見たのだが。
こうも人が多いと鼻も耳も頼りにはならない。
「あ、居た」
会場の端に立っているロナルトを見つけた。目が合ったので手を振ろうとした時、いきなりロナルトが駆け出した。
「……え?」
意味が分からずに数瞬思考が停止したが、本能的に駆け出していた。人に当たらない様に走るのは至難の技でなかなか追いつけない。
すみません、と声をかけながら進む。彼が曲がった方の廊下を進むと一気に人の流れが途絶えた。倉庫へと続く道なので人も通らずシンとしている。
人々の声が遠くから響いてはいるが、耳を澄まし匂いを辿れば人を探すのは容易い。
「見つけた」
木箱の裏に隠れていたロナルトを見つけ、声をかける。
「ロナルト殿……?」
しゃがみ込んだロナルトは顔を上げない。具合が悪いのだろうか。
「大丈夫ですか……?医局に運びましょうか」
「だ、大丈夫です。ロウサさんは戻ってください」
どう見ても大丈夫ではない。声も震えて弱々しかった。
「ロナルト殿、何かあったんですか?話してください」
「話したら、僕の事嫌いになりますよ」
「そうなんですか?でもまず話してもらわないと、嫌いになりようが無いです」
ロナルトがそろりと顔を上げる。目に涙が滲んでいた。
「それも……そうですね……?」
走ったせいだろう、汗で前髪がおでこに張り付いてしまっている。私は怖がらせないように髪の毛を直してやった。
「さっきの試合……ルトフリートさんが勝ちましたよね……」
「えぇ、負けてしまいました。情けないです」
「ロウサさんは凄くカッコよかったです!でも、優勝した人は王様がお願いを聞いてくれるんですよね……?」
王宮関係者や一般の人の間でそんなような噂が流れているのは知っていたが、特に王が優勝者の願いを聞くことはない。何か褒賞のような物がもらえる程度だろう。
「……ルトフリート殿が何か願い事をすると思ったんですか?」
「はい……ロウサさんとの結婚を、またお願いするんじゃないかと……」
まぁ近からずも遠からずだ。
「それが嫌で逃げたんですか?」
「違います……ルトフリートさんの手を取ってるロウサさんを見てたら、ロウサさんはあの人と一緒になった方が幸せなんじゃないかと……思ってしまって」
ロナルトの瞳から涙が一粒ポロリと溢れた。
「僕は弱いし、家の強い後ろ盾も無い。いざという時ロウサさんを守れません……」
ーーバン!!
私は怒りに任せロナルトを壁へと追い詰めた。彼の体に腕を回し、逃すまいと強く抱きしめる。
「っ!?ろ、ロウサさん……?」
「私から離れないと言いましたよねロナルト殿?」
「は、はい……」
「それなのに、私のためを思って、なんて私の気持ちを無視して勝手に離れようとしてたんですか?」
怖さからなのか、ポロポロと溢れてくるロナルトの涙を唸りながら舐めとる。
「貴方は弱くありません」
喋りながら彼の頭や首筋に何度もキスを落としていく。きっと牙が当たって痛いだろうが構ってはいられなかった。
「貴方のまっすぐな所が好きです。柔らかくふにゃふにゃに笑う所も。貴方の目が好きです。私の心を温めてくれる。すぐに真っ赤になってしまう所も、全部可愛い」
キスをする度にロナルトの体温が上がっていくのがわかる。
「まっ、待ってくださいっ……と、止まってロウサさん!」
ロナルトが私の体をグイと押し返し距離をとる。彼は耳まで真っ赤にして震えていた。
流石にここまでしたら嫌がられるのも当然か。もう離してやろう、と緩めた腕をロナルトがガシリと掴んだ。
「……ぼ、僕だってロウサさんの好きな所いっぱい言えます!!!」
予想外の叫びに私は体の熱さも忘れてロナルトの顔を見つめた。
「ブフッ……くっ……やっぱりロナルト殿は強いですよ……」
「え……?」
なぜ笑われているのか分からないのか、呆けているロナルトの口に軽くキスをする。
「今度私から離れていっても、また捕まえます。もう逃げられないですよ」
こんなオークに捕まってしまって残念でしたね、と微笑んだ。
「……はい……すみませんでし……た……?」
何故か疑問系で答えるロナルトの腰を掴み自分の膝に跨らせる。
「ちょ、ロウサさん!?この体勢は、流石にっ……!」
「体調が悪そうなので抱えようとしてるだけです」
「も、もう逃げませんから勘弁してくださいぃ……」
「本当ですか?約束ですからね」
私の肩に掴まるロナルトに顔を近づけると、目を閉じた彼が私の口に控えめなキスをした。
「あ、ヤバ」
ロナルトはそれが限界だったようでそのままクタリとしてしまい、結局私は医局に走ったのだった。
その後、騎士を続けたいと言った私のためにロナルトは辺境伯の籍から抜け、私と同じ平民となった。元々弟が後を継ぎたいと言っていたので心配することはないらしい。
私とロナルトの小さな結婚式にはハッセル家とコーニッシュ家、騎士団の仲間たちが数人集まった。
結婚式ではアントンの意外にも情に厚い所が発覚したり、カイの新しい恋が始まったりするのだが、それはまた別のお話だ。
最後まで読んで頂きありがとうございました!




