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養子のオーク  作者: 猫殿
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1. プロローグ


 私の1番古い記憶は父に高く抱えられていた日のものだ。柔らかい日光が背中を温めていたのを覚えている。


 優しく穏やかな母、家族を支える強い父。自分たちで作った食材で作る美味しい食事。


 だがその穏やかな生活は長くは続かなかった。私がまだ歩けるようになってからそう間を置かずに、私たちオークの村は魔獣に襲撃されてしまった。


 大人や子供の悲鳴。焦る両親の顔。今でも目を閉じると鮮明に思い出す。


 絶対に出てきてはいけないよ、と食糧棚に押し込められた。今すぐにでも飛び出して母の足に縋り付きたかったが、意思に反して体は弱く震えるばかり。しばらくして人々の叫び声が止んだ。私はまるで夢の中にいるような緩慢さで棚を出た。


 周りを見回すことはしなかった。出来なかったと言った方が正しい。頭が、地面に転がる物を認識することを拒んだのだ。大声で父と母を呼ぶ。思ったより大きい声が出て、自分の声にも怯んでしまった。


 しばらくどこを目指すでもなく歩き周り、何か白い物体が目に入った。木にもたれかかっている人間のようだ。少し動いているような気がして、恐る恐る近づく。


 「ねぇ……だいじょうぶ……?」


 自身の腕を抱え木に背を預けていたのは若い男性だった。白を基調とした服と鎧のような物を身につけている。村の人間ではない。そもそもこの村に人間はいないのだ。


 「……ふぅっ……君は……この村の子だね……」

 

 苦しそうに問われ、コクリと頷いた。こちらを気遣っているようだが、どう見ても苦しそうなのは目の前の男の人だ。私はゆっくりと近づき彼の体に触れようとした。私の力では彼を運ぶこともケガの手当てさえ出来はしないと分かっていたが、とりあえず側に居たかった。

                

 「……っ!にっ」


 ぐったりとしていた彼がビクリと体を起こして私の背後を見た。それだけで何が起こっているのか察しがついた。魔獣がまだ残っていたのだ。


 私だけ走り、彼を差し出せばきっと生き残れるだろう。そうしてしまえと一瞬本能が囁いたが、私はすぐに振り返り彼の前に立ちはだかった。突然の動きに身構えた魔獣が思ったより近くで私を威嚇する。私たちの村を襲ったのは犬に似た魔獣だ。だが体格は比べるまでもなく大きく、牙は鋭い。


 恐怖で足がガクガクと震える。叫び出したいのに、塊が喉に詰まったように息をするのも難しかった。


 自分でもなぜ魔獣の前に立ちはだかったのか分からない。きっともうお父さんとお母さんも生きてはいないだろう。これ以上誰かが死ぬのを見たくなかったのかもしれない。諦めに似た感情もあった。 


 魔獣が私の心の弱さを見透かしたように、軽く足を上げてからこちらに駆け出した。


 痛いことが終わればお父さんとお母さんに会えるだろうか。私はギュッと目を瞑った。


 ーズブッ


 何か柔らかい物が潰れるような音がしたのに、予想していた衝撃はやってこない。


 恐る恐る目を開く。地面には口を開けたまま転がる魔獣の首。


 「団長!」


 後ろに居た男性はいつの間にか私の体に腕を回していた。彼も私を庇おうとしてくれていたのだろう。背中に生暖かいものが伝うのがわかった。


 一度に色々なことが起きて私の脳みそは情報を処理しきれていない。


 「子供に庇われるとは、情けないぞ」

 「も、申し訳ありません……」


 高いところから低い声が響く。見上げると、怪我をしていた男の人と同じ服装をした、体の大きい男の人が立っていた。眼光は鋭く、今さっき使ったであろう剣から血をピッと振り落とす姿は、まるで絵本で見た魔王のようだった。


 「……油断したな。その怪我では歩けんだろう」


 魔王のような男の人が若い男の人に手を貸し立ち上がらせる。肩を貸さないと歩けないようで、若い男の人は申し訳なさそうに体重を預けた。


 「君も来なさい」


 大きな手を差し出される。私は躊躇いながらその手を取った。


 「……っ!ひっ……うえぇ、うぁあ〜〜〜ん!!」


 彼の手を握った瞬間、私は火が点いたように泣き出した。


 「団長……泣かせましたね」

 「……怪我人は黙ってろ」


 私たちの村を助けに来たのは隣国の騎士団だった。私たちオークや色々な種族が住む国ガベルと、人間が多く住む国ミダス。二つの国の間に大きな諍いは無く同盟国となっている。


 今回私たちの村が襲われているとの報告を受け助けに来てくれたのだ。


 私を救ってくれた団長が仲間たちの元に戻った際、片腕で部下を、片手で泣きじゃくるオークの子供を引きずっていった姿がなんとも印象に残ったらしく、しばらく騎士団の中で語り継がれたらしい。


 すぐに女性騎士たちが私を毛布で包み安全な場所に移動させてくれた。しきりに怖かったね、団長がごめんね、と声をかけられたが私は彼や魔獣が怖くて泣いたのではない。握られた手が暖かくて、力強くて、安心してしまったのだ。


ありがとうございました!

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