表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

教会の優しい音

 小さな教会の扉が開く音がした。

「!」

 振り返るエバスと、神父の男。


「ただいま、エバス」

 セロットとタノスが、再び教会に戻って来た。


 驚いたような表情のエバスは、目の前の景色を目を凝らして見た。


 数秒後、彼の顔の筋肉は力を失った。

(そう、なん……だ)


(そう……)

 教会に入ってきたのは、2人だけ。


 母の姿は……無い。

 隣に居る神父の男は、必死に表情に出すまいと耐えながらも苦悶の表情を浮かべた。


(……違う?)


(今、ここに居ないだけ?)

 エバスの思考が回転し始める。

(教会の裏に……

 いや、ここに来れなくて……まだあの城に……

 いや……けれど……っ)

 セロットは、エバスの表情が変わったことに気付いている。


「エバス、ごめん」

「!」



「君のお母さんはもう……この世には居ない」



 固まったまま、エバスは動かない。

 わかっていたはずの事実を突きつけられたエバスの頭の中は真っ白になった。

「この……世……に……」

 うわごとのようにセロットの言葉を繰り返すエバス。

 真っ白になって何も無かった頭の中に、母との思い出がめまぐるしく溢れそうになった瞬間だった。

「でもね」


「亡くなる直前、僕にあるものを託したんだ」

 セロットは、懐から一つの笛を取り出した。

 薄黄色くて、やや光沢を帯びた石で出来た、持ち手のある穴がいくつも空いた小さな楽器を取り出した。

「これはね、よく"オカリナ"って呼ばれることが多い楽器なんだ」

「……?」

 セロットは歩いていき、エバスの前まで来る。

「さ、手を出して」

 言われるがままにゆっくりと両手を出したエバス。

 エバスの両手に、そっとセロットがオカリナを置いた。

「これを……母さんが……?」

「いいや、違うよ」


「たった1度しか流せないけれど、このオカリナに……君のお母さんから託されたものを封印した」


「よく聞くんだよ、エバス」

 セロットは右手の人差し指でオカリナを指差す。

 指に溜まった小さな魔力が弾けた瞬間――



 オカリナから、声が聞こえ始めた。


『さよなら光よ』


(母さん)

 オカリナから聞こえた母の声。

 耳を澄ませ、その続きを聴くことだけに意識を集中させる。


『おかえり夜よ』


 死に際のはずだった母の声は、エバスがいつも聞いていたものと変わらぬ声量。


『やさしい闇よ』


 囁くようにしながらも、通る声。


『我が子を包んで』


 聴く者の心を解かすような、優しい声色。


『溶けてくように 眠ってしまおう』


 頬を伝う温かい感触で、エバスは自分の眼から涙が零れ始めたことに気付いた。


『あなたの顔を この目の中に』


 歪みそうな表情で、神父の男も両目から涙を流す。


『目を開けたなら明日もまた』



『あなたの顔を 撫でましょう』


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 母の子守歌を聴き終わり、眠気に誘われながらもエバスは母に訊いた。

「母さんが歌ってくれるこの歌って、母さんが考えて作ったの……?」

「ん?ううん、私もお母さんに教えて貰ったの」

 ナリスは微笑みながら、自分の母の言葉を思い出す。


「昔、ずっと遠くの寒い地方では子供が連れ去られることが多かったみたいでね」


「盗賊達は夜目が効かないから、夜になったら彼らは動かなくて……

 寝てる時が一番安全だったんだって」

「怖い話だね……」

「うん、怖い事がたくさんあった時代」


「そんな中……子供と2人で生活してたお母さんが口ずさんでたのが、この歌」


「お母さんが自分の恐怖を鎮めるための歌だって、よく言われるんだけれど」


「そうだとは思えないぐらい、優しい歌」



「これを歌ってると、お母さんが隣で私を見てくれてるような気持ちになるんだ……」


「だから、たまに私が1人の時も歌ってる」

 温かい過去を思い出すかのように語るナリス。


 エバスは、そんなナリスを小さな身体で抱きしめた。

「じゃあ、母さんには今……おばあちゃんと、僕がついてるよ」

「……!」


 ニッコリ笑いながら、ナリスはエバスを抱きしめ返した。

「ふふ……ありがとう」


「大好きだよ……エバス」

「僕も大好き……母さん」

 ナリスの温もりが、眠気をゆっくりと強める。

 いつの間にか、母の腕の中で夢の中に落ちていたことにエバスは気付かなかった。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 エバスの泣き声が、教会内に響き渡る。


(母さん)


(母さん……っ)


 止まらない涙を流すエバスの顔から、絶望は消えていた。


「大丈夫。

 君はその歌を決して忘れない」


「……でも、そのオカリナの使い方を君は知らないでしょ?」

 エバスは、その言葉にゆっくりと顔を上げる。


 セロットは、人差し指を後ろの方に向けながら言った。

「そのオカリナの使い方を知ってて――」


「君のためにそのオカリナを譲ってくれた、僕の知り合いが外に居る」



「……すぐに教わってきな、エバス」



 エバスは、オカリナを両手で握りしめながらセロットの顔を見て一度だけ頷いた。

 そして、すぐに走り出し――


 教会の扉を開け、その右手に居たダクルと出会った。


「あなた……が……」

「……なんだ、あいつ自分が教えるって言ってなかったのか?

 結局俺に押し付けたなチクショウ」

 ため息をつきながら、ダクルは涙を拭きもせずオカリナを握りしめるエバスと向き合う。


「そのオカリナは……100年経っても壊れない素材で出来てる」

「!」

「あくまでも歌を響かせるための道具だ。

 それじゃなくても、歌を覚えていればどうにかなる」


「大事なのは記憶だ」

 エバスに近付き、しゃがみ込み目線を合わせるダクル。


「先に逝かれて……失った傷は戻らないと俺は思う」


「けど、残してくれたものがあるのなら……それを大切にしなさい」


「いつまでも、側に居てくれるような気がする」

「はい……っ」

「……さぁ、まずは持ち方から教えてやる。

 俺が教えた通りにやれば今日中には吹けるようになる、大丈夫だ」

 ダクルは、まだ泣きじゃくるエバスに微笑みかけながら……少しずつオカリナの吹き方を教え始めた。



 教会の中で、セロットは神父に話しかけた。

「オアド、君はなんでエバスを守ろうとするんだい?」

 オアドと呼ばれた背の高い神父。

 濃い茶色の短髪で、よく見ると首筋に傷が見えていた。


 オアドは、セロットが自分を見る眼と声のトーンから何故そんなことを聞くのか察する。

「疑ってくれるんだね、エバスのために」

「うん。

 僕はここにずっと居るわけにはいかないからね」

 まだ頬に残っている涙を拭きながら、微笑んだオアド。

「……ナリスを含めて、昔6人で異世界を旅したことがあったんだ」


「10年近く旅した6人の中に、俺の弟が居た。

 俺とあいつよりも仲の良い兄弟なんて、見たこと無かったんだ」


 教会の裏から聞こえる、ぎこちないオカリナの音を聞きながら笑うオアド。

「2年前に、弟の葬式にナリスとエバスが来てくれた」


「近しい誰かが死んだ時って……すぐに泣けないじゃないか。

 実感が、遅れてやってくる……いつまで遅れるかわからないんだ」


「本当は今すぐにでも泣きたいはずなのに」



「隣で、エバスが泣きじゃくってさ……あの子は人の死がどういうものかハッキリわかる子なんだ」


「それを見ていたら、すぐ涙が出て来た」


「同時に、『あぁ、この子は俺が死んだ時も同じように泣いてしまうんだろう』ってわかってね」


「……生きるのをやめようかって一瞬よぎってたんだけどね。

 エバスに生かされた」


 語り終えたオアドの眼は、覚悟に満ちていた。

「教団がここを見つけて襲撃してくるのなら……

 俺は迎え撃って道ずれにする手がある」


「エバスは殺させないよ」

「……要らぬ心配ってやつだったね」

 セロットはニヤリと笑う。


「大丈夫!君はここでゆっくり神父をやってるだけで済むよ」


「明日、僕とタノスは教団を潰しに行く」

「……!?」

「そして、君達のことは遠くからウギュウアに守らせることになった」

「ウギュウアだと?

 ……何を考えたらそうなるんだ」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 1日前、ウギュウアの元へ訪れたセロットとタノス。



「……!!」

 濃い口髭と顎鬚をたくわえ、髪が無い代わりにゴツゴツした突起がいくつも生えている。

 肥えたような見た目こそすれど、筋肉質な身体を持ちスーツを着たウギュウアは、震える手でナリスの遺書を読んでいた。


『もしもこれからも私の事を想ってくれるのなら、代わりに私はあなたを信じようと思う』


『私の心残りはエバスのこと。

 私の古い友人であるオアドが守ってくれるけれど、きっと全部は難しいかも知れない』


『大魔法使いさんが教団を終わらせる。

 教団が果たしてきた役目をあなたたちが継ぎながら、その力でエバスとオアドを守って欲しい』


『2人にわからないように、気付かれないように』


『エバスには普通の、幸せな人生を歩んで欲しいの』


『あなた自身が叶えられなかった夢を、エバスに託してあげて』


『お願いね』



 読み終えたウギュウアは、涙を両目から流しながら狼狽する。

「ナリ……ス……っ」

「ウギュウア。

 僕は最初、教団も君達も全部潰すつもりだったんだ」


「それを読んで君がどう答えを出すかで……僕はこの怒りをここでぶちまけるかどうか選ぶ。

 どうする?」

 怒りを滲ませながら聞くセロット。

 ウギュウア以外の構成員達のほとんどは、セロットがじわりと発している魔力に冷や汗を垂らしていた。

(いい加減その圧解いてくれねぇかな)

 ナンバー2の男は、肌でセロットの圧を感じつつもそれが演技であることをわかっている。


 震えていたウギュウアの手が、止まっていた。

「どうするだと?」


 ウギュウアは、ナリスの遺書を丁寧に、ゆっくりとたたみ……左手に持った。


「選択肢など無い」



 目の前の大魔法使いが放つ圧など感じていないかのように、ウギュウアは叫んだ。

「俺はナリスの願いに応える!!

 これは俺の生きる意味!俺の宝そのものだ!!」


「力を貸してくれ、お前達……!」

 構成員達に向けられた、ボスの意思。



 構成員達は、皆同じようにウギュウアに向かって頭を下げ――


 皆の意思を代弁するかのように、ナンバー2の男が微笑みながら言った。

「喜んで、ボス」


「我々はどこまでもついていきます」



 セロットは、魔力の圧を放つのをやめた。

「思ったよりも骨の太そうな奴だね、君」

「セロット。

 今までの非礼を詫びる……すまなかった」

「いいよ、ナリスの意思を汲んでくれるならチャラにしてあげる」

 そう言いながら、セロットは振り向いて部屋を出て行こうとする。

「待て!」

「なーに?」


「俺も行かせてくれ。

 教団の元に行くんだろう」

「そう言うと思った。

 普通はじゃあお願い!って言う所なんだけど」


「君らじゃ足手まといだ。

 報告に上がってきた僕の情報よりも僕は500倍ぐらい強い」

「……っ!

 だが!」

「その代わり、教団側についてる人達の数十人は路頭に迷う事になる。

 君達が受け入れてあげて」


「その用意をして、待っていな」

 一瞬だけ、先程とは比べ物にならない魔力を解放したセロット。

 すぐにそれを抑え、タノスと共に部屋を出ていく。


 数秒後、力が抜けたようにその場に座り込んでしまう構成員達。

 今まで感じたことのない圧に気を失いかけている者も居る。


 ウギュウアは、セロットに手助けが要らないことを理解させられた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ナリスに僕がやることと計画を伝えてから遺書を書いて貰った」


「やれることは全部やっておきたくてね」

「……わかった」


「教団の件、頼んだよ」

「ふふ。

 任せてよ」


 教会の裏から聞こえてくるオカリナの音は、気付けばメロディの形になりかけていた。


 ――――――――――――――――


 街を出て数キロは離れた林の中。

「よし。

 いいよ、もう動いて大丈夫」

 四方を石で囲み作った魔法陣の中から出るダクル。

「さて、よーく聞いてねダクル。

 今僕は君の能力を変更した」


「その1!

 商品が全て買われた場合、今までは"能力の強制終了"だった。

 それを"あらかじめ用意した非売品1つをターゲットに渡す"に変えた」


「その2!

 この能力の発動条件は"店でターゲットが1度目の買い物を完了する"、

 そして"ダクル自身が非売品を手元に用意している"。この2つに変更!」

(今回俺が受けることになったリスクの代替策だな。

 俺もあれから同じことを考えていた)

「その3!

 "店"の耐久力を上回る攻撃を受けそうになった場合、商品と非売品をその場に置いてダクルは強制的に元の場所へ転送される」

「……!?」

「いやさ、ダクルはたまたま出会って無かっただけだから!

 もっと強い魔力の持ち主に攻撃されたら、店の無力化も貫通されちゃうよ」

「なる、ほどな……」

「はいはい、それからその4!

 攻撃を受けて強制的に転送された場合、攻撃してきたターゲットは"ブラックリスト"に入る!

 ブラックリストに入ってる対象は、今後ダクルの"店"で買い物は出来ないし、近付けば対象が別の場所へランダムに転送される」

「……効果がいくらなんでも強すぎないか?

 どうやってそれを成立させるんだ」

「ダクルってなんだかんだ能力の効力と代償のバランスわかってるよね~、流石は商人!」


「大丈夫、その5があるからさ」

 ニヤリと笑うセロット。


「その5!

 "店"で買い物をする客には能力の全容を説明しなければならない!」

「!!」

 ダクルは驚き冷や汗をかく。


 だが、数秒後には目を細めながら納得したように言った。

「いや……それが最善、か?」

「そう!

 これで効力と代償のバランスは取れて能力は成立する!

 相手の了承とこちらの安全の確保、一番平和でいいでしょ?

 しかも能力外のメリット、信用がついてくるよ!」

「いやまて!本当にそうか?

 客が買えない分は俺の手元に来る、そんなこと知ったら――」

「あ、言い忘れてたけど君の安全性を高めた代わりに多分商品の数と質が減ると思うよ」

「なぁっ!?」

 想定していなかった内容に思わず声を上げたダクル。

「それで客も理不尽だとは思わないでしょ!

 あとねぇ、質が減るってのは危険な商品が手元に来るのを防ぐって意味もあるんだから忘れないでね?」

「危険な商品……」

 ダクルはほんの少し考える素振りを見せた後、僅かに眉間にしわを寄せた。

「あ!ほら!!

 思い当たることあったんでしょー!」

「いや確かにあった、ありはしたが……

 あんなの滅多に……」

「その万が一が身を滅ぼすことぐらいわかるでしょ!

 油断してふにゃふにゃした時がグサーッって刺されるんだよ!僕その手のアレに詳しいんだから!」

 いきなりあやふやな表現をするセロット。

 それでもダクルには十分過ぎる程その意味が伝わっていた。

「はーっ……

 大魔法使い、そう名乗っているわけだお前は」

「へへーん!もっと褒めていいよ!」

「おい、これ以上話を逸らすな」

 無言を貫いていたタノスがついに口を開いた。

「怒られちゃいました~。

 ってわけで、ハンカチを返す代わりの僕のお願いはこれで終わり!

 かなり手を加えたけど、使う頻度は君次第だからよろしくね?」

「わかっている」


 ダクルは、息子の形見であるハンカチを大事そうに握りしめながら言う。

「……ありがとう、セロット、タノス。

 利用しようとした俺を助けてくれた上に、2人のおかげで一番欲しい物が返ってきた」

「もう無くしちゃダメだよ」

「ああ」

 朗らかな表情で礼を言ったダクルは、安心しきった様子だった。

 そして、再び険しい表情になり歩き出そうとする。

「では――」

「あーまって、今度は借りを返さないとね」

「へ?」

 セロットは、人差し指をダクルに向けて魔法を発動した。


 ダクルの身体が薄く光るベールで一瞬包まれたかと思うと、ベールは見えなくなっていった。

「!?」

「はい、じゃあ奥さんのとこまで行こうか。

 そこまで僕ら2人が護衛しま~す」

「な、なに!?

 いやまて、今俺にかけたのはっ」

 明らかに警戒するダクル。

「違う違う!それ守護の魔法だから!

 ほら、エバスにオカリナをくれた上に吹き方教えてくれたでしょ?

 その借りをさ!」

「そいつは自分が関わった奴が無事に家に帰れるか心配してるだけだ。

 俺達はこれからやることがある……早く進んでくれ」

 横やりを入れたタノス。

「おっ!ほらね~?タノスは僕のこと超わかってるの!」


 セロットはダクルの背中を押し始めた。

「うおっ!」

 ダクルは背中を押されながら早歩きし出す。

「ほらほら走って走って!

 君をちゃんと送り届けないと僕不安で夜も眠れなくなっちゃうからさぁ!」

「わ、わかったから!背中を押さなくていい!」

「あははは!」

 まるでセロットから逃げるように走り出すダクル。

 笑いながら追いかけるセロット。

 タノスは、少し距離を置きながら二人を追いかけていた。


 ――――――――――――――――


 薄暗くなりつつも、ランタンの明かりが照らす街道を歩き、教会へと帰る最中のオアド。

 右肩には布で出来た手提げ袋を持ち、袋の中には食料品が入っていた。

(セロットさん、タノスさん。……ダクルさん

 君達が去ってからまだ3日しか経っていない)


(俺はいつでも教団の襲撃に対応出来るように、信用出来る仲間達に教団の動向を把握してもらっていた)


(毎日情報を確認して、この街に入ってきた者も可能な限り調べていた……)



("教団は壊滅"。

 "激しい戦闘の跡、建物はほぼ全壊")



(……神の存在を、信じてしまいそうだ。

 奇跡が起きても君達に出会えただろうか?)

 時折吹く優しい夜風は、ほんの少しだけ寒く感じた。

(一番感謝しているのはエバスなんだ。

 でも、でもね……)


(俺も同じぐらい……君達に感謝している……)


 微笑みながらも、両目の端から涙が滲んだ。

(あの子を守ってくれて……あの子の心を救ってくれて……ありがとう……)


(ありがとう……)


 教会に辿り着いたオアド。

 教会は中から明かりが漏れており、誰かがそこに居ることがわかる。


 綺麗なオカリナの音色が聞こえてきた教会を後にし、教会裏にある家へと歩いていった。


 ――――――――――――――――


 教会の椅子に座りながら、オカリナを演奏するエバス。

 子守歌が、静かな教会の中に響く。


『さよなら光よ』


『おかえり夜よ』


『やさしい闇よ』


『我が子を包んで』


『溶けてくように 眠ってしまおう』


『あなたの顔を この目の中に』


『目を開けたなら明日もまた』


『あなたの顔を 撫でましょう』



(僕も今、同じ気持ちだよ)


(母さんが、すぐ隣に居てくれる気がする)


(……違うな)


(居るんでしょ?そこに――)



 脳裏に浮かぶのは、優しい笑顔を向ける母の顔。



(……ねぇ、母さん)


(僕、またオカリナを吹くから)



(また明日も……隣に来てね)


 優しく両手で握られたオカリナは、エバスの体温で温かくなっていた。



 この街の住人は知っている。

 小さな教会から、陽が落ちた頃に優しい子守歌が聞こえてくることを。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ