第9話 宇宙船
「寄り道は効率的じゃない」
ココナは効率厨だ。不要な時間、意味のない行動、余分な体力消費を特に嫌う。彼女は機械少女だが元は人間である。
多少影響はあるも元からココナは効率にうるさい。そのため説明不足が目立ち、依頼や仕事で疎遠されて孤立になることが多かった。
だからシトラの寄り道は何よりも苦痛に耐え難いものだった。
「あれ面白そ……」
「ふんぎ! こっちだ寄り道魔!」
冷静沈着のココナが普段は魅せない感情を剥き出しに引っ張る。
ちょっとでも油断したらいなくなり、腕を掴んでもいつの間にかするりと抜けて遠くに走っていく……傍から見たらしっかり者の姉と我儘な妹にも見えてくる。
そして普通なら十分のところ一時間かけて辿り着いた時は久しく忘れていた達成感を感じたココナであった。
「おお! 色んな宇宙船がいっぱい!」
シトラが夢にまで見た宇宙船が列をなして並んでいる。正方形や船のような宇宙船、円盤のザ・宇宙船もあって興奮止まず舐め回すように駆け回った。
「これいい! ココナ、これ見た目よくない!?」
「……性能面と費用面を考えるならあの正方形が」
「全然センスない! ココナ目は節穴なの!?」
「わ、私は効率を重視しただ」
「効率なんてクソだよクソ。世はロマン一択なんだよ!」
「く、クソ!? 効率がクソ!?」
ココナの効率論にヒビが入る。ここまで面と面で言われたことがなかった。それもそうだ。ココナは開拓者で尊敬と畏怖すべき気高い存在だから誰も強く言えなかったのだ。
師匠のオズマも仕事で効率重視していたため反論出来なかったのである。
シトラの良くも悪くも平等に接したことによりココナは自身を最適化するための意見を無下に出来なかった。
「ほらあれ見に行こ」
「うへぇ……」
今度はココナが逆に引っ張られる。
端から端まで宇宙船の説明をさせられ機械少女で肉体疲労はないものの精神的疲れが小波から津波に変わっていった。
「お、終わったタタァア」
ビリビリと小さな稲妻を走らせて寝そべるココナを他所にシトラは腕を組んで悩む。
「やっぱり安くても一千万以上するなぁ」
仕方ないと言えば仕方ないが宇宙船はどれも高品質な素材を使って作られている。そして様々な人の手を渡って血と汗が凝縮された一滴が零れ落ちて市場に出されるのだ。安価になるはずもない。あっても詐欺か泥船間違いなしだ。
「でも『開拓者なら契約で無料』が気になるなぁ」
宇宙船を見て八割が開拓者なら無料になるのが気になる。
「ココナ、なんで開拓者は無料なの?」
まだ喋らす気かと怒りが込み上げるも説明する。
「開拓者は色んな星に行くから宣伝しやすい」
「宣伝? なんのために?」
「買ってもらうため。宇宙船は高価だから買うのは金持ちかシェアで買う人達。中々売れないから他の惑星にいる金持ちに興味を持たせるのが狙い」
「ふーん、要は宣伝大使になれってことか」
「そう。効率的な言葉でグッジョブ」
つまるところ開拓者になれば無料で手に入れることができる。けど私は開拓者じゃないので無料で買うことが出来ない。視線をココナに向けて口元が緩んでしまう。
「ねぇココナ。これ買ってくれない?」
「へぇ?」
「ココナは開拓者だから無料になるでしょ。だから買って、ね?」
シトラの笑顔が圧力として襲いかかる。ココナからしたら隕石に直撃する恐怖を感じた。
「む、無理。私はもう契約で買ってる」
「なら新しく」
「それが無理。一度契約すると別の宇宙船を契約できない。つまり契約を裏切る形になって二度と宇宙船を売ってもらえなくなる」
最後に本当だよっと必死に訴える。
「じゃあ他の宇宙船を買いたいと思ったらどうするの?」
「自腹で買う。これなら個人で買ったってなるから企業も文句を言えない」
確かに自腹なら『自己責任』という形になって企業も手出しできない。昨日オルバスに学んだことだ。
「コツコツお金貯めないといけないのか」
「開拓者なれば」
「ならないよ。束縛されそうで嫌だもん」
「あ、それは誤解してる。開拓者は称号みたいなもので依頼を受けるのは自由。私はビシバシ受けてるけど全く受けない人もいる」
「じゃあ開拓者ってなんなの?」
「色々な分野を追求する人かな。財宝、文化、美食、生物、何から何まであるから一つに絞れない。で、何か功績を残すとコスモス・フロンティアからお金や称号が貰える」
ふーんと開拓者にちょっと気になっていると携帯から鳴って取り出す。
『シトラ殿、お時間大丈夫ですか?』
画面にオズマが映る。なぜ私の番号をと思ったが契約書に電話番号を書いたからだ。宇宙船を見終わって時間は充分にある。
「大丈夫ですよ」
『でしたら本題に入ります。シトラ殿、探索機の修理が終わりましたので、引き取りに来てください。私自ら直したので対消滅が起きない限り壊れることありませんよ』
物騒なキーワードが出たがシトラは元気よくはいと答える。
『ではお待ちしております。あと馬鹿弟子に先月の弾薬請求が明日までとお伝えください』
はーいとお気楽に返事を返し電話を切る。
シトラは絶望の宣告を告げるとココナは頭を抱えて夜空に向かって奇声を上げた。