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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第1章:Road of the Drop
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55/258

一方通行 ―批判―

 リトル・ジョンにすみついていた絶望は、2種類あったのだ。1つは、「信頼することへの絶望」、そしてもう1つは……「やり直せないことへの絶望」。

 ただしアリスはカウンセラーではない。それらを取り除く術を知っているワケでもなければ、寄り添い続けられるワケでもない。ただ一つ言えることは……


「……蔑みません。貴方も、シャーウッドの皆さんも、変われるから」


 とりわけ自分のことにおいて、変えようと決心して変わるための行動を取り続ければ、変えることができるということ。社会制度や他人の性格に疑問を持ったり苛立っても、それは変わらなかったりする。

 だが自分のこととなれば別である。偏差値と同じだ。今まで答えられなかった問題に答えられるようになれば、おのずと数値は変わる。


「だからやめさせたいんです、絶対に。盗みはシャーウッドの皆さんを救えないんだってこと、分かってもらえるように説得します。今はまだ、次いつやって来るか、金品類がどこにあるかも分からないけど……私、諦めたくない」

「うるさい! うるさいうるさい!!」

「ロビン・フッドとジョンさんの影響でシャーウッドの人たちが盗賊を始めたなら、どちらかの呼びかけで引き返すこともできるはずです。仲間に悪事をさせたくなくなったら、ここから出て説得しに行きたくなったら、私を呼んでください。可能な限り待ちます。ジョンさんが、向き合ってくれるまで」

「出てけええええ!!!」


 野獣のような咆哮を放つリトル・ジョン。床や壁、空気から全身へと音の震えが伝わってくるような、鼓膜が破れてしまうような感覚に襲われて初めて、アリスは彼に恐怖した。同時に、言いたいことを一方的に言い過ぎたのではないかという後悔もよぎる。

 どうしてバランスよくできないのだろう。アグロヴァル卿に対しては、最終的に意見するのが面倒になって怠った結果、チェシャ猫に不快感を与えてしまった。そして今は、自分の意見を示し続けた結果、リトル・ジョンを不快にさせている。


「……ごめんなさい、失礼します」


 夕食のお盆を鉄格子の近くに寄せ、アリスはそっと立ち上がった。牢の中にいるリトル・ジョンは一体どんな表情をしているのか、何を思っているのか……一切の疑問を口にできずに。



 ***



「地響きのような叫びが聞こえましたが、大丈夫でしたか?」


 地下牢へと続く廊下の入り口に施錠をしながら、トー卿が尋ねた。「ええ、まぁ…」と曖昧な返事をしたアリスに、彼も視線を落とす。


「あ、夕食なんですけど、お盆ごと置いてきちゃったので、明日の朝回収します」

「それは構いませんが……アリスさん、私は貴女に先日の返答をしていませんでしたよね」

「返答?」


 首をかしげるアリスの目を真直ぐ見て、トー卿は自らの右手拳を左胸に当てた。


「どうか、私の言葉は信じてください。私は、その……貴女の力になりたいのです」


 力強さを感じさせるその訴えは、大草原を吹き抜けていく風のように、アリスに一種の衝撃を与えた。しかし同時に確信する。やはりこの人は、「話が通じる人」なのだと。


「実は先ほど、今日の昼頃に貴女とアグロヴァル兄さんとの間で衝突があったと伺いました。ご迷惑をおかけして……」

「いえ! あれは私が……おかしなこと考えてただけで……」


 自省の念からごにょごにょと口ごもるアリスを前に、胸ポケットから1枚の便箋(びんせん)を取り出し、差し出すトー卿。


「力になりたいと言っても、私にはこのくらいしか思いつかなかったのですが……差し上げます。ここ半年間におけるシャーウッドの盗賊侵入記録です」

「えっ…!?」

「取り急ぎ、侵入があった日付とおおよその時刻を転記しました。何分、時間がなかったもので。現在、書庫の管理はラモラック兄さんが担っているため、私もあまり入れてもらえないのです」

「あ、ありがとうございます!!」


 その瞬間、アリスは便箋を受け取る指が喜びで震えるのが分かった。この城にトー卿がいてくれて良かったと、心の底から思ったのだ。

 本来この程度の情報は提供されて然るべきなのだが、この際その類の文句は全て放り投げてしまおう。冷たく意地の悪い人間が多い中で、彼の存在はアリスにとって一筋の光であるに違いなかった。


「実は、侵入が何らかの規則に従って行われるようになったのはここ1年以内だと考えられています。それ以前は、シャーウッド村落内で事前に日取りや配置など打ち合わせが行われていたようなのです。初めはロビン・フッドを中心に、そして彼がアヴァロンへ居住し始めてからは、リトル・ジョンを中心に」

「なるほど……でも、どうして分かったんですか?」

「盗難被害に耐えかねた父上が、事前の打ち合わせを探れるようにと2年前、シャーウッドに間者を潜り込ませました。以来、何度か日取りをあらかじめ把握することができていたのですが……どうやらリトル・ジョンに勘付かれてしまったようで……それからは予測できず仕舞いです」

「分かりました、たくさん教えてもらえて、充分です。なんだか私、トー卿に助けられてばっかりですね」

「そ、そんな、私が勝手に動いただけなので……お気になさらず」


 頬をかきながらそう返すトー卿に、アリスは思わず微笑をこぼした。


「私が言うのもアレですけど、トー卿ってお人好しなんですね」

「いや、その、そういうワケでは……」


 今度はトー卿の方がごにょごにょと何か口ごもった。不思議に思いながらも、アリスは改めてお辞儀をする。


「本当にありがとうございます。これできっと、侵入日の規則性を見つけられます」


 折角ここまでしてくれたのだ、トー卿の善意を無駄にしたくない。この世界の住人でない自分だからこそ、違った観点で規則性にアプローチできたら、と思う。

 リトル・ジョンに夕食を届けに行った後は、ランスロットの部屋で情報を持ち寄って話し合うことになっている。帰り際もう一度だけお礼を言って、アリスは東棟へと駆け戻った。トー卿から受け取った、3月から9月にかけての盗賊侵入記録を握りしめて。


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