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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第1章:Road of the Drop
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伝え過ぎ(言い過ぎ)注意

 迷いに迷ってから覚悟を決めて顔を上げたアリスを前に、手に付いたパンくずを舐めとるリトル・ジョン。真剣さなど欠片も見えない。つまり彼にとって、先ほどの質問自体が「ダメ元」だったのだ。

 となればもう、成功するか否かではない。リトル・ジョンには、本当のことだけ(・・)を伝えなくては……それが、「信頼することに絶望してしまった」彼に対して、アリスができる唯一絶対のケアだと思った。


「まだ、出してもらえないかも知れないです……ジョンさん」

「やっぱり。無策なんだね」

「いいえ。ペリノア王に出された条件が厳しくて……貴方を解放させるためには、私、貴方の仲間を迎え撃たなくちゃいけないんです。次の襲撃での被害をゼロにすること、それが条件なので」

「……腐ってんね、ホント」


 リトル・ジョンは、食べ終わった食器をお盆に乗せ、乱暴にアリスの方へスライドさせる。それを鉄格子の隙間から取り出すアリスの耳に、ジャララ…と鎖の音。見れば、リトル・ジョンはアリスに背を向けていて。


「俺がシャーウッドの仲間を売ると思う?」

「思いません。貴方と話してて、痛いほど分かりました。仲間思いで、故郷を大切にしてるって」

「話が早いね。あんたの想像通り、俺から話すことはないよ」


 帰れと言わんばかりの拒絶する態度。それでもアリスは言葉を再び投げかけることにした。

 何も聞き出せないまま引き下がり、ペリノア王にバカにされるのが嫌だったのもある。それもあるが……最大の理由は、確かめたいという一種の好奇心だった。


「けれど……ちょっと後悔してるようにも見えます。森に住むたくさんの仲間を、盗賊にしてしまったこと」

「……何の話?」

「ジョンさんの故郷や仲間を思う気持ちが強いのが分かって、同時に、おかしいなって思いました。私だったら、友達には犯罪に手を染めて欲しくないから」


 シャーウッドでの生活を語る彼の表情は穏やかで、溢れんばかりの親愛を示していた。だからこそ、アリスは違和感を覚えた。そんな大切な存在に、どうして盗賊などさせるのか。領主への反逆ほど危険なことはないだろうに。

 アリスの放った言葉が気に障ったようで、リトル・ジョンは鋭い眼光だけ向けてきた。


「言っただろ、あんたに話すことなんてない」

「ジョンさんは『義賊』って言ってましたけど、私から見れば盗みは盗み、『犯罪』です。どんな理由があっても、裁かれる罪です」

「……さい、」

「それとも、この世界では違うんですか? 私のいた世界だけの価値観なんでしょうか」

「黙れ!! 黙れよ!!」


 リトル・ジョンはぶんぶんっと首を横に振り、耳を(ふさ)ぐ。しかし石のブロックで固められた洞窟内、アリスの声は反響して、塞がれた耳にも幽かに届いてしまう。


「ペリノア王を出し抜く達成感とか、あったんだと思います。義賊の話をするジョンさん、誇らしげだったから。でもその反撃の仕方、間違ってると思うんです」


 これまで聞いた昔話から想像することしかできないが、リトル・ジョンはただ、シャーウッド住民の笑顔を取り戻したかっただけなのだろう。

 ロビン・フッドが義賊団を結成するときも、番兵の多い城に忍び込んで金品を強奪するときも、リトル・ジョンの中にはきっと、迷いがあった。迷ってはいたが、奪い返すことが「希望」になると信じた。


「あっち行け……もう、来るな……二度と来るなあああ!!!」


 核心に迫ろうとするアリスを拒絶するかのごとく、リトル・ジョンは叫ぶ。初めてアリスがロビン・フッドの名前を出した時と、同じように。

 彼の困惑と葛藤はどうやっても拭えないのかと、アリスはその背をしばし無言で見つめた。


「……また、夕食持ってきますね」


 それ以上のことは、言えなかった。



  ***



 お盆をさげてから、アリスは城の中を探索することにした。

 要塞のようなこの城は、アヴァロンと接する北側に高い城壁を持っていて、東・西・南にそれぞれ4階建ての棟が設けられている。それら3棟に囲われた中庭は大変広く、(木々や噴水や休憩所があるので目算になるが)サッカーのフィールドが2面作れそうな勢いだ。

 ちなみにリトル・ジョンは西棟の地下牢に収容されている。アリスたちの客室は東棟にあり、ペリノア王や息子たちは南棟に寝室や書斎を持っているらしい。また、北の城壁付近には馬屋がある、と昨日マーチ・ヘアに教えてもらった。


「どこ行こう……あ、書庫探そうかな」


 この地方に関する重要な資料が置かれているはずの書庫、あるとすれば南棟だ。正直あまり気は進まないが、行ってみなければ色々と分からない。が、アリスはその行動をすぐさま後悔することになる。



「ここから上は立ち入り禁止だ」


 南棟の1階から2階に上がろうとしたアリスの前に、(よりにもよって一番アリス達を目の敵にしている)アグロヴァル卿が現れたのだ。


「えっと、盗賊対策で、これまでの資料とか、見せてもらえないかなって思って……」

「あの囚人に聞くがいい。我々の施す支援は囚人への食事提供のみに(とど)め、情報開示は行わない。貴殿もその条件で合意したはずだが?」

「そう、ですけど……」


 ダメだ。この種類の思考や言動とはどうにもそりが合わない。というか、合わせたくない。

 トー卿が協力的な言葉をかけてくれたのは、この城における一種の奇跡だったのだ。「盗賊の襲撃を防ぐ手伝いをする」と約束しているのに、どうしてここまで非協力的な態度を取れるのか、不思議でならない。


 元の世界で「冷めた子供だ」と言われ続けてきたアリスは、怒ることもあまりなかった。嫌なことがあっても、嫌なことをされても、「そういうこともあるものだ」で大抵済ませてきたからである。

 しかし……ここまで利己的になられると、怒りを通り越した呆れからさらに半周回って怒りがぶり返して来る。


「あの、そんなに書庫を見られたくないんですか? それとも、まともな記録してないから見せられるものじゃないってことですか?」

「何を無礼な」

「無礼なのはそちらだと思います。慇懃無礼(いんぎんぶれい)。私たちの厚意に対してどうしてそんな態度を取れるんですか?」

「何だと?」

「盗賊を追い払うって条件を呑んだ私たちの腕を、本気でそこまで見込んでくれてるってことですか? じゃなかったら、私たちの善意に甘え過ぎてるんじゃないですか?」

「き、貴様! 身の程を知れ! この城内で、領主の第一子である騎士アグロヴァルに向かってそのような口の利き方……許されると思うな!!」


 アグロヴァル卿が剣の()に手をかけたのを見て、アリスは正直「やってしまった」と思った。昔から、ちょっとカチンときて言い返すと、こうなってしまう。

 不本意ながら、人の神経を逆撫でするのが上手いらしい。チェシャ猫やランスロットに注意できないな、と思う。自覚して反省したところで、開き出した口は止まらないのだが。


「私の知ってる『騎士』は、丸腰の人間に剣を向けませんけど」

「今更だな。貴様が首から提げているのは強力な魔法石なのであろう?」


 どうやらもう、彼は斬りかからなければ満足しないようだ。

 襲撃から物資や金品を守ってもらう側としての態度じゃなかったから、少しだけ本当のことを言っただけなのに。どうして自分が攻撃対象になるのか。

 トー卿の方がまだ話の通じる人だった。この人は、プライドばかり高いだけだ……冷静に考えてその結論に至った瞬間、アリスは溜息まじりに言葉を吐き出していた。


「めんどくさ……」


 他人に対してここまで冷めたのは、アリスとしても久しぶりだった。


 小学生の時、よく意地悪をしてくる男子がいた。最初は「やめてよ」と嫌がったり、「何すんの」と追いかけまわしたり、先生に告げ口したり、可能な限り抵抗した。けれどそれが「終わらないちょっかい」なのだと気付いた時、相手がただ自分の反応を面白がっているだけなのだと理解した時、面倒くさくなった。「やめてよ」「何すんの」の代わりに、「何か用?」とだけ返した。その瞬間、相手の男子の表情が凍りついたのが分かって、言い知れぬ爽快感に満たされたのを覚えている。


 だからきっとこの人も、同じだ。怒り狂って斬りかかって、「世界の勇者を殺した罪人」というレッテルを貼られればいい。もしかしたら自分も、大量出血のショックで元の世界に戻れるかも知れないし……――

 

 何か(恐らく罵詈雑言の類)を叫びながら剣を抜くアグロヴァル卿を前に、アリスは肩の力を抜いた。

 この人と話すのは面倒くさい、だから斬らせて後悔させてやろう……そんな、悪意にも似た無気力思考のまま、その場に突っ立って。

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