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PM7:09 南校舎四階教室 逆神結
一瞬、何が起きたのか判らなかった
入口の扉を施錠して、縛られている少年―――半沢君の拘束を解くべく、歩いていたところまでははっきりとしている
彼が私に質問してきて、ひょっとしたら人違いだったのかもしれないと、そんな考えが頭に浮かんだところまでは記憶している
それからどうだろう、しゃがもうとして、気づいたら視界に彼がいなくて
解けたワイヤーが地面に落ちていて―――
「!!止まりなさい!!」
足音の方向に目をやる頃には、既に教室の扉は空いていた
速い
扉の開錠には少なくとも三秒はかかる筈
それ程までに速く彼が動いたのか、あるいはそれほど長く私がぼんやりとしていたのか
どちらにせよ迂闊だった
ただ名前が同じというだけで、勝手に昔の『彼』とあの少年を重ね合わせて
普通に考えたら、あの妙な冷静さ、監禁場所にも関わらず、これみよがしにつけられた電気
怪しいと、そう思えるタイミングはいくらでもあったのに……
ホルスターに手を伸ばして初めて、スタンガンすら奪われたことに気づく
「っ!このまま逃がす訳にはっ……!」
手持ちの端末の権限は教職員用、強制ロック機能を使えば、一般学生証での開錠は不能にできる
だが電子ロックはあくまで扉のみであり、窓は強制ロックの対象外
一階に降りられたら最後、運が悪ければ、二階から脱出される可能性も十分にある
教室を出ると、右側から足音
中央階段より距離の近い分階段を選んだのだろう
逃げ道の多さより一刻も早い視界からの離脱を選んだのか、あるいはただの偶然か
「ただ後を追うだけじゃ逃げ切られる……っ!」
逃走経路となるであろう一、二階の窓は、南校舎だけでも287枚
強制ロックで教室の中に入られないようにしても159枚は残る
階段を駆け下りながら端末を操作、ウエストポーチの希少金属を確認する
「数が足りない……!」
すべてを窓の閉鎖に使用しても、90枚以上カバーし切れない部分が出てくる
もし彼が『食人事件』の犯人、あるいは関係者だったとするなら、何らかの能力を保有している可能性が高い
おまけにスタンガンも奪われている
対抗手段として、ある程度の希少金属は取っておかなくては
そうなると、閉鎖できる窓は最高50枚
このままでは逃げ切られる
どうする
私は、一体どうすれば―――