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PrototypeForce  作者:
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8

AM8:11 南校舎二階教室 向島あられ


「吉明ー!」

教室の扉を走ってきた勢いで開け放ち、件の男を目で探す

いた

最後列左端、うっすら目を細め、まるで憧れの人でも見つめるような熱い眼差しでこちらを見ている少年

彼こそ学校史記録部の副部長にして、現在私を除く唯一の部員、その名も半沢吉明である

「いたいた、いるんなら返事くらいしろって、毎回言ってるでしょー?」

歩み寄る私の迫力からか、周囲の人の波が自然と掻き分けられ、私と吉明への道を自然に作り出す

気分はモーセだ、実に悪くない

「……教室に来るときは、あんまり僕の名前を叫ばないでくださいって、毎回言ってますよね、向島先輩」

文句を言いながらも、崩していた姿勢を正す吉明

なんだかんだで話に付き合ってくれるあたり、彼を部員に選んで正解だったと常々思う

「うーん?そうだったかな?」

飛んできた言葉を手早く受け流し、そのまま隣の席へ

「そうですよ。先輩は何かと目立つんですから、特に僕みたいな日陰者とは違って」

「なんだ、まーだ引きずってたの?それ。私は別に気にしてないよ」

「……真面目に言ってるんですよ」

やや不貞腐れた表情は、彼なりの照れ隠しだということを、私は知っている

どうやら未だに私に名前を呼ばれることに気後れを感じているらしい

相変わらず可愛げに溢れる後輩だ

だからこそ、つい意地悪をしたくなってしまう

「さて吉明くん。早速ですが、一つ質問させていただきます」

「はぁ、唐突ですね、随分」

「私は一体どうして朝から辛気臭い顔の日陰者君に会いに来たのかな?」

「僕が聞くことです」

「違いないね」

「……」

押し黙ってしまった

本当に困っているとき、彼の口数が減ることも、私は知っている

少々早いかとも思ったか、ここは一つ助け舟を出すことにしよう

「今日の部活動停止の理由は知ってる?」

「……職員会議、と聞いてます」

本日八時に学生証に更新された行事連絡

午後からの職員会議に伴い、運動部以外の生徒は午前中、運動部の生徒も、午後三時までには帰宅すること、とされている

「随分急だなとは思いましたけど……それが何か?」

「うん、どうもその職員会議っていうのが、生徒の早期帰宅の為の口実だって話があってね?」

「……毎度毎度、どこからそんな話を仕入れてくるんですか」

訝しげな顔の吉明に笑顔を返し、言葉を続ける

「なんでも例の『学校の怪物』に関して、この学校が警察関係の調査を受けることになったらしいんだよ」

「警察……学校が、ですか?」

「ちょと信じられないよね」

最近この周辺で多発している行方不明事件

うち八件はこの学校の生徒のものであり、一部では学校に住む怪物の仕業だ、という噂が流れているという

「学校史記録部である以上、警察の捜査が入るのなら、記録を取らなきゃならないでしょう?」

「いや、でもそれただの噂で」

「そこでだね!こんなものを作ってみたんだよ!」

期待を込めた彼の眼差しに答える為、私は用意してきた『アレ』を彼の机に置いてみせる

「……これは、カメラ、ですね。ネームが入ってますけど、先輩の予備の奴ですか?」

「半分正解。でも半分は不正解かな」

もったいぶった答えに、しかめっ面をさらに色濃くする吉明

そう焦らずとも、ちゃんと説明はするつもりだよ?

「このカメラは私が独自にカスタムしたものでね。スイッチを入れると動体センサーが起動して、バッテリーが切れるまでの間、レンズに映った動く物体を自動で撮影できるんだ。撮影された写真はリアルタイムで自動的に私の自宅のパソコンと君の携帯端末に送信されることになっている。シャッター音と発光を極力抑えて作ってあるから、その辺りの棚に置いておいてもまず電源が入っているとは誰にも思われないだろうね。レンズのフレームにも多少の工夫がしてあって、一度対象物を捉えるとミリ単位ではあるけど追尾できる機能―――」

「先輩!先輩、先輩」

「なんだい?」

「……近い、です」

そう言われて初めて、彼と私との顔の距離が十センチ以下であることに気付く

どうやら仰け反った彼の上に、覆いかぶさるような形で話を進めていたらしい

「ん、これは失敬」

椅子を元の位置に戻して座り、ついでに吉明も起こしてやる

「……絶対、わざとやってますよね」

しかめっ面で姿勢を正す吉明

「んー、どうだろう。他の人と話す時は、意外と普通なんだけどなぁ」

その言葉に、しかめっ面の眉間のしわがいよいよ深くなる

いつまで経っても、女性に不慣れなところは変わらないようだ

「……しかしよく作れますよね、こういう物」

話を仕切り直すためか、あるいは照れ隠しからか、机の上のカメラを見つめて言う吉明

「まぁ、そういう訳で、今日これをどこかの教室に設置して、あわよくばその調査とやらの一部始終を撮影しようという魂胆なんだよ」

「……大丈夫なんですか、それ。もし本当に警察の捜査があったら、無断で撮影っていうのはちょっと……」

「大丈夫!偶然置き忘れたカメラの電源が、偶然入りっぱなしになってましたー、なんて言えば、どうとでもなるから」

「……」

「それでだねぇ、実はこのカメラをどの教室に設置するかをまだ決めていなくてね?自分でやりたいのは山々だけれど、生憎私には前科がある」

「……僕は今、とても恐ろしい想像をしています」

「そう?私は今、とっても素敵な想像をしているよ?」

「……」

「……」

「あ、場所は自分で決めていいから」

「……」

沈黙は了解と取るのが、私のポリシーだ

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