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AM8:26 南校舎二階教室 半沢吉明
「よぉ半沢、今朝はいつも以上に死にそうな顔だなぁ」
疲労困憊のまま机に突っ伏していると、そんな声と共に頭に衝撃を感じた
「っ……!」
痛い
伏せたままの姿勢で顔を上げると、なんとも溌剌とした笑顔の男が一人
「……岸、か」
「何だその面倒な奴が来たー、みたいな反応」
岸龍之介
クラス随一の純粋さを持つ男
悪く言えば単純な男
彼も向島先輩同様、何かと目立つ存在である為、少々付き合い方には苦労している
「お前はやけに生き生きとしてるな……何か旨いものでも食べてきたのか」
彼が目をか輝かせる時は、大抵人間の三大欲求である食欲、性欲、睡眠欲のどれかを多く取れた時だと認識している
実に単純明快、悪く言っても単純明快
「いやまぁ今朝は確かに旨いものを食べたけど……そんなことよりだ!今日ウチの学年に転校生が来るらしいんだよ!」
興奮した様子で、熱っぽい話し方をする岸
どうやらあてが外れたらしい
というか、鼻息が凄くかかるから、近くで話すのは止めてほしい
「……転校生は女子か」
「すごいな半沢!何で分かったんだ?」
前言撤回しよう
彼の三大欲求は色欲、性欲、異性欲だ
実に単純明快、目指すべき場所はただ一つ
「ああ、言ってなかったか。実は僕、お前の双子の弟なんだ」
説明してもきっと理解してもらえないので、とりあえず適当にあしらってみる
「なっ!俺はお前の兄貴だったのか?!」
「双子ってのは、行動やら思考やらが、何かと似るって言うだろ?つまりお前の考えてることは、僕の考えてることでもあるってことなんだ」
「そんなッ!俺の心が筒抜けなのかッ?!い、一体今まで何程俺の心を……!」
「別に何もかもお見通しって訳じゃない。ただお前が授業中、特に体育と金曜日の数学の時間に考えてることくらいは分かるかな」
「は……半沢っ……俺達、友達……だよな……?」
「……ああ、勿論だ」
少し口元を釣り上げてそう言うと、岸は真っ青な顔で走っていった
叫んでいた言葉は、何でだよお袋、だろうか
「えー、既に知っている者も何人か居るみたいだが、実は今日、この学年に転校生が来ることになった」
おおおおお、と
教卓に立つ森永先生の声と共に、辺りから湧き上がる歓声の渦
「女の子だ」
おおおおお、と
更に熱を増す、主に男子の歓声の渦
「しかも超可愛い!!」
おおおおお!、と
いよいよ教室から溢れ出んばかりの、主に男子の歓声の渦
皆さーん、女子が若干引いてますよー
「しかーも巨乳!」
うおおおおお!、と
最高潮に達する主に男子と先生の歓声の渦
いや先生、あんたは駄目だろう
「この話を生徒諸君にしたということは……賢い君達にはもうお分かりだろう」
ゴクリと
誰ともつかず生唾を飲み込む音が、急に静まりかえった教室の中に響く
「転校生が来るのは」
不気味な緊張の最中
「来るのは……!」
森永先生は静かに口を開く
「このクラス―――」
喝采
飛び交う歓喜の雄叫び
鳴り止まぬスタンディングオベーション
さながらそれは百年に一度の素晴らしいコンサートに立ち会った聴衆の如く、それこそフロア全体に響き渡る程の規模で――
「―――の隣のクラスだ」
え
沈黙
静寂
教室に据え付けられた時計の秒針が、静かに時を刻んでいる
しばらくして始まる、ブーイングの嵐
暴徒と化した生徒達、主に男子をよそに、森永先生はどこか寂しげな様子で教室を後にしてゆく
「転校生、か……」
何故か教室中央で始まった乱闘を尻目に、改めてそう口にしてみる
まぁ、僕にはあまり縁のない話だろうが
去りゆく森永先生の背中に、誰かが生卵を投げつけた




