10
PM4:30 自宅 向島ゆき
最近、うちの娘の様子がおかしい
「んー……こんなものかなー……」
うっすらと開いた扉の隙間から見えるのは、ベッドまで広がった何かの部品やケーブル、大量のダンボールとビニール袋、放り出された教科書類
中央の回転椅子に陣取る娘は、いつものようにドライバーやらニッパーやらを取っ替え引っ替えし、何かを弄りまわしている
窓を開けていない、ということは、今のところハンダごてを使う予定はないらしい
いたって普通の女子高生の部屋
しかし最近、やはりどうも様子が違うのだ
例えば洋服
以前までなら、普段着はおろか、制服ですらその辺に脱ぎ捨ててあるのが普通であった
別にそれを悪いと咎めるつもりもなかったし、実際一度も咎めたことはない
健全な女子学生であるならば、それくらいのことは普通であろう
しかしここ最近の愛娘の部屋はどうだ
雑巾や手拭いこそ散乱しているものの、その中に袖を通すものは一枚たりとも見当たらない
また、クローゼットと姿見の周りだけは、おかしなことに溢れかえった物の侵食を受け付けないのだ
ほんの数ヶ月前までは、シャツがアイスピックで天井に串刺しにされていたというのに
ここ最近では、とうとう下着類を自分で買いに行くようになる始末
最初にそんなことを言い出した時には、悪い病気にかかったのではないかと、人間ドックに連れて行こうとさえしたりもした
『お母さんの方がいいセンスしてるでしょ。任せるよ』とは、もう二度と言ってくれないのだろうか
他にも気付かないうちにシャンプーの種類が増えていたり、可愛げのあるハンカチがこっそり干されていたり、夜更かしの回数が極端に減っていたり……
そして何より不可解なのが―――
「……そろそろ来てもいい頃なんだけどなー、一体どこに仕掛けたんだろう、吉明の奴……」
『ヨシアキ』という謎の単語を頻繁に発するようになったこと
思えばこの言葉を口にし始めてから、娘の様子がおかしくなり始めたようなのだ
『ヨシアキ』
これは一体、何を意味しているの?
この先娘は、一体どうなってしまうの―――?
「……なーにをくねくねしてるの、人の部屋の前で」
「……え?」
目を開けると、なんと私の娘が、私の前に立っているではないか
きっと今に彼女はこう言うのだ
『今まで隠してきたけど、実は私、私じゃないの』
『本物の私はもういないわ。こんな狭い世界とはおさらばして、もっと広い世界を見て回ってるの』
『今の私はただの代用品。残念だけど、偽物なのよ』
「あああなんてことをっ!!」
「……はい?」
は
私としたことが、娘の前でこうも取り乱すなんて
「おほン……ねェあられさん。ちょっとお話があるのだけれど、イイかしら……?」
「……なんだか昨日も一昨日もその前も、その芝居がかった口調と咳払いを聞いた覚えが……」
「あああ何てこと!母さんとはもう話もしたくないってことなの?!そうなのね!」
「……なんだかそんな調子で、結局毎回話をしていないような……」
「今まで嫌々私に話しかけていたの?御免なさい、そうとも知らずに私ったら……今までさぞ辛かったでしょう、苦しかったでしょう」
「……」
「こんな母さんをどうか許してね。ううん許してくれなんておこがましいことは言わないわ、どうか母さんを殴って頂戴。強く殴って、たくさん殴って。なんなら蹴ってくれても構わないわ!ああでもどうしましょう、殴ったら手が痛くなるし、蹴ったら足が痛くなってしまうわよね。待ってて、今からお父さんの部屋に行って、乗馬用の鞭を……………




