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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          4話 綺麗な人

 「イベリスには、わたしよりアン・ルーの方がふさわしいんだわ」

ベラが言った。


「アン・ルー? それはケネスの妹だね。

あの娘が、イベリスの何だって?」


 「アン・ルーは、長い間イベリスを想ってたの。

綺麗な人だし頭も良くて、わたしなんかよりずっとイベリスの役に立つわ」

「あの娘は、クロエの代わりのようなものじゃないか。

イベリスは、何とも思ってないはずだよ」


 ベラは、涙目になる。

「だって、二人でワインを飲みながら恋人みたいだったのよ」



 キラルは、ベラが戸惑っている問題はこれだったのかと思い、

そんなベラが可愛らしくて、笑ってしまいそうになる。


 「イベリスは、ただ妹に接するようにいていただけじゃないのかね」


 「違うわ!」

そのベラの声に、キラルはびっくりする。


 「イベリスは、屋敷の設計図をベラに見せて、二人でベッドルームの話をしていたの。

彼女の好みを聞いていたんだわ」


 キラルは、スピルからエルナトの様子を聞いていたので、

ベラとイベリスは、一緒に話し合っているものだと思っていた。


 「イベリスは、あんたにも設計図を見せたんだろう」


 ベラは、唇を震わせながら言った。

「あんな線や数字ばかり書かれたもの、全然意味が分からないわ!」

そして涙をぽろぽろ落とす。


 「わたし、イベリスの言ってる意味が半分も分からないの。

きっと、わたしは馬鹿なんだわ。

アン・ルーは、良く分かっているみたいだから、彼女の方がいいに決まってる。

ヘリの発着所を作ることだって、アン・ルーに相談していたのよ。

エルナトの屋敷は、別荘にしてウィリディスから通うんですって」


 「何だって!?」

キラルは、この問題が、思っていたより複雑になっているらしいと気付く。


 「アン・ルーが、あんたに何を言ったか知らないけれど、

イベリスが、エルナトの屋敷を別荘にするって言ったのかい?」

ベラはうつむいて、首を横に振った。

「ほらごらんよ、あんたの思い違いさ」


 キラルがそう言っても、ベラはうつむいたままだ。

「こんな山の中で、王の助言者を犠牲にすることは無いって・・・」


 キラルは、ため息を付く。

「『山の中』ね。

アン・ルーがそう言ったんだね。

まあ、それは彼女の考えで、イベリスはそう思ってないよ。

それなら、なぜ、セルーナとカシアは、エルナトのために命を落としたんだね?」

ベラは、顔を上げた。


 「あたしが言った、ミラ・ラスクだけれど、あれが何なのか今でも知らないのかい?」

ベラは、それはイベリスが湖の上に立つ奇跡のことだと思っていた。

「何故、イベリスが青い光の上に立っていたのか、それが何なのか知っているよね」

「ええ、要塞への入り口です」

「その要塞の中には、何があると思うかい?」


 ベラは今まで、バルナ艦隊を打ち滅ぼした兵器か何かが入っていると思っていた。

イベリスの話によると、それが問題らしいのだけれど、良くは分からない。

彼女は、兵器に関心がないと言うか、何も知らないと言った方がいい。


 「あの中には、科学の粋を集めたものが詰まっているんだ。

ただし、今のラーウス人はそれを扱いきれない。

たとえ、帝国の最高の頭脳人を使っても無理なほど、高度なものなんだ。

今の人間は、あれを知るべきではない。

知ったら、人類を滅ぼすかもしれないしね。

だからわたしたちの先祖は、この惑星に逃れ、エルナトの湖に封印したんだよ。

私たちが、それを役に立てる日が来るまでね。

そしてイベリスには、その責任があるんだ」


 「ミラ・ラスクって、先祖が残した未来への遺産だったってこと?

じゃあ、どうしてイベリスは、要塞に入るのを拒んだのかしら?」


 「そうだね・・・

イベリスが鍵を受け取った時は小さかったし、ラーウスで育たなかったからね。

それに、知識が多いということは、余計なことも色々考えてしまうってことさ」


 ベラは、イベリスが難しいことを言ったり考えたりしているのを思い出し、くすっと笑う。


 「あんたが始めてラーウスにきた時、お互いに好きあっているのは分かったんだよ。

だから湖にも連れて行ったんだ。

イベリスに、あんたは必要だと思ったからね。

大体、あの青い光を見たあんたを帝国に帰しちまうなんて、何を考えているのかと思ったね。

イベリスは、あんたをラーウスから出すべきじゃなかったんだ。

ここの秘密が知られたら、どうするつもりだったのかね。

まあ、わたしも悪かったんだけど。

あんたもあんただ。

あれを見て、科学的に高度な技術が埋もれているなんて気付かなかったんだからね」

とキラルは憤然として言う。


 ベラは、そう言われると、自然現象にしてはおかしかった。

あんな辺境の山の中で、そんな科学的なものがあると考える方に無理があるのだけれど、

それでも自分は不甲斐ないと思いつつ、おかしくも思う。


 「イベリスが、あんたを追いかけてエスペビオスへ行ったのは偉いと思ったのに、

手ぶらで戻ってきたのには呆れたよ。

まあ、それだけのことだったって思ったね」

キラルは、がっかりした調子で言った。

それはベラに笑みを戻らせる。


 「キラル、あなたは、ずっと、わたしを見ていたの?」


 キラルは優しく笑った。


 「ああ、ずっとね。

あんたが前に聞いたように、わたしはシャルム王を愛していたさ。

ただ、わたしたちは、あんたたちとは違う。

お互いに配偶者には死なれていたけど、

シャルム王はウィリディスを担っていたし、あたしにはラーウスに娘がいた。

それにあたしは、一人で生きていくことの出来る女だったんだ。

だからシャルム王には、王太子を生める王妃を迎えるように勧めたのさ。

丁度、療養中のハダサが回復していて、あの姫がいいってね。

シャルム王も気に入ったみたいだし、ハダサも王を愛するようになった。

あんたが、イベリスを他の女に譲るってのは分からないでもないけど、

あたしの時とは違うよ」


 「それでも、わたしは一度、結婚しているし・・・」

「そんなことは、どうでもいいよ。

イベリスも、全然、気にしてないさ」


 ベラは、自分の手を見る。

それはラーウス人が薬草を採る時に染まるその同じ色が彼女の指先に残っていた。

以前のように綺麗な手ではないけれど、ベラはそれを誇らしく思う。




 突然ドアが開き、キラルの娘が顔を出した。

「母さん、準備は出来たけど、もういいのかい?」

キラルは振り返った。

「ああ、いいよ。今、ベラを連れて行く」

そして、ベラの両腕を掴んで布団から引きずり出した。


 「さあ、気持ちを変えて、この手を綺麗にしよう。

あんた、肌がカサカサだよ。

前から思ってたんだけれど、あんたは自分をかまいなさ過ぎる。

だから自信がなくなって、余計な心配をするんだ。

女は、綺麗でなくっちゃね。

今日は特別に、あんたの体を癒してやるよ」


 二人は家の外へ出た。



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