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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          4話 イベリスの心配り

 イベリスはほっとしていた。

ベラは無事に戻ってきたし、ふらふらと歩き回ったことも反省していると思ったのだ。


 これでやっと自分の仕事に専念できると思ったイベリスは、

彼女が就ける仕事を考えなければならない。

また不機嫌になって、ふっと消えてしまう恐れもある。


 イベリスは、ベラが不機嫌になるのが苦手なのだけれど、

どうして彼女がそうなるのか分からないでいた。

彼女の望んでいる「エルナトの復興」をこんなに頑張っているのに、

なぜそれを共に喜んでくれないのかと、寂しく思ったりする。


 とにかく彼女は、「復興を始めたのは自分だ」との自負があるから、

それなりの仕事をさせなければならない。

「まあそれは、彼女に何が出来るのかを見てからだ」とも思う。



 ところが、夕食時に現れたベラに、皆が感嘆の声を上げるという騒動が起こった。

彼女は、洗練されたドレスを着て、結った髪を髪留めで留め、

温泉の湯で洗われた肌はつるつるになって美しく、顔にはクリームを塗り化粧をしている。

それは汗臭い工事現場の男たちの中、掃き溜めに鶴のようだった。


 テーブルに屯していた男たちは一斉に立ち上がり、彼女を席に促す。

その夜のキッチンは、華やいだ雰囲気になり、喜んだのはイベリス意外の男たちで、

スピルは嬉しさ半分、心配半分だった。


 イベリスが喜べなかったのは、ベラの周りに群がる男たちに憤慨したからで、

ベラが彼らの注目を集めようとしているのにもイライラしていた。

彼女にはそんなつもりがなかったので、イベリスの考え過ぎなのだけれど、

彼の方から、リビングルームに続くドアが見えるのだ。

そのドアは開いていて、向こうには男たちのベッドがある。



 さてベラは、男たちの反応に、場違いのことをしているのではないかと心配していた。

彼女は、職業婦人としての尊敬を得たいと思っているのに、彼らの態度は違うような気がする。


 彼女には、理想としている職業婦人のイメージがあるのだけれど、そんな女性に接した経験はない。

彼女が知っている職業婦人は教師、侍女や召使いで、あとはキラルとプリシラだ。


 それに、プリオベール男爵が、彼女に職業婦人の服を贈るはずはない。

彼が送ったのは、ベラが帝国を恋しく思うような品物で、

ドレスも品があるとは言え男爵の見立てだから、男性から見て魅力的なものだった。


 とにかく、わいわい騒ぐ男たちに耐え切れなくなったイベリスは、

ベラを外へ呼び出したのだけれど、彼女に何と言っていいのか分からずに困っていた。



 目の前のベラは、本当に美しい。

イベリスは、そう言いたいのだけれど、

こんな格好を続けられ、他の男にちょっかいを出されては困る。

彼女が自分の妻か恋人だったら、胸を張って自慢したいところだけれど、自分たちはまだそんな関係ではない。

うっかりしていたら別の男に取られてしまうかもしれない。


 大体、ここは、男の数に対し女が少なすぎる。

僻地の工事現場だから仕方が無いのだけれど、ラーウス人でない独身の女性と言ったらベラだけだ。

彼らはベラが異国人だと知ったら、怒涛のように押し寄せてくるに違いない。

いや、情熱的なラーウスの女を好む異国人もいるので、油断はできない。



 イベリスが何も言わないので、緊張したベラは、

「もうこんな格好はしません。申し訳ありませんでした」と言った。


 ベラは、男たちの反応は違うし、イベリスにも呼び出されたので、また失敗したのだと思っていた。

ドレスは上品で控えめの方だから大丈夫だと思ったのだけれど、華やか過ぎたらしい。


 素敵なレストランならまなしも、

埃だらけの男たちたちが、キッチンの隣のリビングルームで寝泊りしているような状況ではふさわしいとは言えない。

つまり、彼女の考えは、ちょっとずれていたのだ。



 イベリスは、自分が何か言う前に彼女が誤ってくれたのでほっとするのだけれど、

彼女の装いが悪いと思っていた訳ではない。

それに彼女が素敵な格好をするのはかまわない、と言うか、自分のためなら大歓迎なのだ。


 ベラが「もうこんな格好はしません」と言うのは、いささか残念なのだけれど、

「自分のために装うのであればいい」とも言えない。

それで、「今後は気をつけるように」とだけ言ったので、

結果的に、彼女に注意したことになってしまった。


 ということで、ベラの勝負服はあっさりと負けを言い渡され、

彼女は再びイベリスに怒られたと思ったのだ。

しかもエルナトに戻って来た初日で、二度目だった。



 がっかりしたベラは、ドレスをセイリンにやってしまい、彼女は切り刻んで別の服に作り変える。

結局、ベラがこのドレスを着たのは、一回きりだった。

こうして次の朝が来ると、ベラの服は、キラル婆さんのお下がりに戻ってしまっていた。



 おまけにベラは、あの新しいナイフも取り上げられそうになる。

今のエルナトは、人の出入りが多い。

それでイベリスに、

「ナイフを持つのは危ないし、必要ないから預かる」

と言われてしまった。


 ベラは、「気に入ったナイフだし、使いこなしたい」と懇願したところ、

「キッチンでなら」と言うことで、彼女の仕事は料理手伝いになってしまった。

主任コックはいるので、その下で働くことになる。


 エルナトでは堰止湖の工事の男たちも寝泊りしているので、男たちの数は多く食事の量も多い。

薬草採取を終えたサイシア村の女たちも手伝いに来ており、

復興責任を自負していたベラが、女たちの先頭に立つのは当然なのだけれど、

料理が得意でなかった彼女は違う仕事をしたかった。

それで、気象観測や無線をしているスピルの助手なら料理の合間に出来ると言うことで、

こうしてベラの仕事は落ち着いたのだ。


 イベリスはベラに、「自分のナイフが使えるのだから、良かったじゃないか」と言う。

ベラの方としては、何となく腑に落ちないのだけれど、何の技術も持ってないし、

復興とは関係のない薬草採りが得意、と言うだけでは贅沢も言えない。



 ベラは毎日のように、巨大な鍋に入ったスープやシチューをかき回す。

時々、若い大工のリオンが手伝ってくれる。


 夕食が終わり、洗い物がすむと、ベラはリオンを岩のテラスへ誘うことが多い。

月のない夜は、星がきれいだったりする。

二人は、星を見ながら話をするのが好きなのだ。


 リオンは、惑星リアマの生まれで十八歳。

リアマに行ったことのあるベラは、この優しい青年を弟のように可愛がっていた。

リオンには兄がおり、ウィリディスの王宮で賢者になっているのだけれど、

自分は兄のように優秀ではなくシャイなので、ここへも兄の勧めで来たのだと言っていた。


 エルナトの復興に係わるものは、素性のはっきりした人に限られており、賢者によって推薦された者たちが多い。

ベラは、イベリスのことで賢者をあまり良く思っていなかったので、

「そんなことを気にすることはない」とリオンに言った。

そして、自分が、リアマでバルナの騎士と一緒だったことも話す。


 「ラーウス人が、バルナの騎士とですか!?」とリオンは驚く。


 「彼は、私のことをラーウス人じゃないと思っていたけれど、

そうね、エルナトの女王とでも思ってくれたのかもしれないわ」と言って、

騎士が、別れの時に跪いた話もした。


 それは、満天の星が降ってくるような、美しい夜にふさわしい話だった。



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