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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          4話 アルスラン - 過去の者との対話 -

 イベリスは目が覚めた。

自分が、冷たい床の上に横たわっているのに気付く。

何が起こったのか、よく覚えていない。

覚えているのは、エルナト湖に行き、要塞に入ったことだ。

記憶が戻って来るようなのだけれど、混乱してしまっている。


 突然、声がした。

「お前は、三十六番目の鍵を持つ者、イベリス・ライーニア。

わたしは、二番目の鍵を持っていた者、アルスラン・ライーニアだ」

声のする方には男が立っていた。

イベリスは、跪こうとする。


 「跪く必要は無い。

わたしはホログラムで、すでに死んでいる。

お前に話しているのは、アルスランの姿をしたこの要塞のシステムだ」


 イベリスは、自分が要塞に入った理由を思い出した。

「堰止湖が決壊するかもしれない。

今は、何時なんだ?」


 「お前がここへ入って六時間が経つ」

「そんなに!?」


 アルスランのホログラムは、声の調子を穏やかにして言った。

「心配する必要はない。

ベラが、指示に従って村人たちを誘導している。

それが完了したら、決壊を防ぐための応急処置を行う」


 「ベラ・・・?」

イベリスは、記憶をたどる。

すると、今まで無かったはずの知識があるのに気付いた。



 「ベラ・フロース・ディフォーレスト。

五番目に記録された女の名前だ。

彼女の名前は、このシステムに取り入れられたのか?

ラーウス人ではないのに?」


「そうだ。

四番目、お前の母親、カシア・ライーニアも異国人だった。

目的を達成するためには、ラーウス人も異国人もない。

我々は、すでに、自分たちの名前を捨てている」


 イベリスは、自分たちをラーウス人と呼ぶようになる前、キトライン人と呼ばれていたのを思い出す。

それは忌み嫌われる名前だった。


 「良い名前を失えば人は貧しくなるが、擁護すれば人を富ませてくれる。

それに、親は自分の子供に良い名前を付けようとするではないか」

アルスランは笑い、そして続ける。


 「三番目の女の名は、キラル・バーニエ。

二番目は、」

「セフォラ・カッセル・ライーニアだ」

イベリスが答えると、アルスランは満足したように微笑む。


 イベリスは眉をひそめた。

「最初の女の名前は・・・無い」

「その情報は、消去されている」

「誰が消したんだ?」

「その情報もない」



 アルスランは、イベリスの記憶に満足すると言った。

「今のお前に必要な情報は、全て与えられた。

回復するまでに数日かかった者もいたが、早かったな。

では、自分の任務を遂行するように」


 「待ってくれ。

エルナトはどうなる? 復興しなければならないのか?」

「それは、お前次第だ。

お前の父、セルーナ・ライーニア、三十四番目の鍵を持っていた者も、お前の自由にするとしている」

「だが、ベラがそれを始めてしまっている」


 アルスランは、一瞬、データをチェックする。

そして答えた。

「彼女には、その自由が与えられている」


 「それはおかしい。

わたしはロセウスに残り、エルナトを復興しないと決めたのだ」

「では、お前がする必要はない。

自分の任務を遂行しろ」

「わたしの任務とは・・・ラーウスを守ることだ。

ちょっと待て・・・」


 イベリスは思い出す。

「王の助言者は、ラーウスのためにあったんだ!」

アルスランは、微笑する。


 「そうだ、それはわたしが作った。

一番目の鍵を持つ者、セイリオス・ライーニアは、わたしの兄であり、我々をラーウスに導いた者だ。

ラーウスを守るため、賢者たちはウィリディリス王国を助け、ハルアミナ家が栄えるようにした。

彼らは知識を供給するのであって、国政には携わらない。

よって、お前がエルナトに戻るかどうかも自由だ」


 「わたしは、アクィラ王と、王の助言者としての契約を結んでいる。

もうエルナトへは戻れない」


 アルスランは、それがどうした、と言う風に答える。

「イベリス、法は万能ではない。

それは、時代や体制によって変化するものであり、契約も修正されることがある。

だが、原則は変わらない。

原則に従え」

「原則とは・・・愛だ」


 アルスランは、うなずくと言った。

「ベラが、エルナトを復興するのも愛に基づいている」

「では、復興しようとしないわたしには、愛がなかったということか?」


 「そうではない。

お前は、知識を活用した。

王の助言者は、知識を活用し、知恵を働かせ、結果を出すように王を助けなければならない。

知識があっても、それを活用できなければ、無いも同然だからだ。

お前は、自分の知識に基づいて論理的に考え、エルナトを復興しないことにした。

ベラは、愛に基づいて復興しようとしている。

どちらも正しい」


 「では、わたしが持っている要塞の鍵はどうするのだ?

エルナトへ戻らないのであれば、鍵を持つ必要はない。

ベラに渡せばいいのか?」


 「いや、鍵の責任は女には荷が重すぎる。

鍵は、将来の子孫のために保存されなければならない。

エルナトを復興しようとするベラを守るのもお前の役目だ。

イベリス、時代は変わろうとしている。

その変化は、お前が生まれる前から始まっていた。

お前は、そのためにロセウスへ送られたのだ」

「それは分かっている。

だからわたしは、ロセウスにいてラーウスを守ろうとしている」


 アルスランは微笑する。

「そうだな。

お前の荷は重い。

一人で考えているだけでは駄目だ。

お前がラーウスへ戻れば、華やかさのない戦いをしなければならず、困難が待ち受けているだろう。

ラーウスを守るのをロセウスでするのか、エルナトでするのか、お前の自由だ。

自分の任務を遂行しろ」

それを言い終えると、アルスランの姿は消えた。


 イベリスは、そのままそこに立っていた。



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