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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          7話 結束

 アリアは、ラーウスの民族衣装を気に入っていた。

シンプルで機能的でありながら、美しかったからだ。


 上下服の生地は、伸縮性と通気性があり、体の線に沿いつつ、ゆったりと作られていた。

上の丈の長さは自由で、長ければ帯を結ぶこともある。

下はズボンなのだけれど、幅を広くしてスカートのようにもできるのだ。


 その上に、ひざ丈の外衣を羽織る。

温暖気候なので軽い素材の生地で作られていて、アリアが気に入ったのは、この外衣だった。


 色とりどりの糸で刺繍がなされており、パッチワークもある。

ラーウスの女性たちは、デザインと裁縫の腕で美しさを競うので、その技術は高い。

たくさんのポケットもあり、色々なものを持ち歩ける。

それを工夫するも、女たちの腕の見せ所だった。




 出発の朝となり、イベリスとアリア、そしてフィアマは、ウィリディス王国専用機に乗り込んだ。

アリアは、これでやっと惑星ラーウスへ行けるとほっとしながら、目の前に座っているイベリスを見る。

彼は、王宮でのやり残した仕事を終わらせようとしていた。


 イベリスも、ラーウス人の服を着ている。

それはアリアにとって、いくらか気が楽だった。

アリアは、この格好の方がイベリスには似合うのにと思った。

イベリスの長い髪は気に入らないのだけれど、それは仕方が無いので見ないことにする。


 アリアは、イベリスのエスペビオスにいた時の格好も思い出した。

それも彼に良く似合っていた。


 下を向いているイベリスの髪が、はらりと前に落ちてきたので、手でかき上げる。

彼は、髪が顔にかかるのが気に入らないらしく、短い髪の時も、こうしてかき上げていた。


 アリアは、フロースが、それを見ていたのを思い出す。

いいと思ったのに、フロースとお似合いだと思ったのに、と思うと切なくなる。



 イベリスは、仕事を終えても、そのまま考え込んでいた。

フロースが誘拐された時、キラルに問い合わせたのを思い出す。

キラルからの答えは無かったのだけれど、アリアにはその事を知らせないでいた。

そしてこの三日間、ラーウス人だというミラ・ラスクについて調べていたのだ。


 彼女が、ヴァルハイ号をリアマで降りたのは、簡単に調べられた。

ところが、その後は、忽然と消えてしまっている。

リアマからラーウスに向かったはずなのだけれど、

四年半も前の記録は、リアマにもラーウスにも残っていない。

彼女がラーウスへたどり着いたのかどうかさえ、確かめられないでいる。

サライでは、彼女を見た者などいないのだ。

分かっているのは、二日後、従者のバルナ人が同盟国から出たことだけだった。


 イベリスは、その同じ時期に、キラルがプリオベール男爵と契約を結んだこと、

それから密猟組織壊滅となり、

情報提供者によって、ミラが情報を流したとの疑いがあることから、

フロースが、この一連の事件に巻き込まれたのだと確信している。


 それにあのバルナ人。

フロースは、なぜバルナ人と一緒にいたのか。

そいつがフロースに何かしたのか。

それを考えると、イベリスは、いてもたってもいられなくなる。



 「イベリス、大丈夫ですか?」

アリアは、イベリスが厳しい顔をしているので、心配になって聞いた。


 イベリスは、アリアに笑顔を見せると、

「何でもありません」と答える。


 その時、フィアマが化粧室に行っていたので、アリアは思い切って、

「イベリス、あなたは、今でもフロースのことを思っているのですか?」と聞いた。


 イベリスは驚いたが、

「フロースが見つかればいいと思っています」と答える。


 「そうだけど・・・」とアリアは言って、言葉に詰まる。


 イベリスは、

「彼女のことを思っていたとしても、何も変わりません。

彼女を見つけたら、帝国へ帰すだけです」と言った。

彼の口調は、無味乾燥だ。


 アリアは、それにむかつくのだけれど、フロースが言ったことも思い出す。

フロースの結婚式の日、バーディがフロースに「逃げよう」と言った時だった。

「何も変わらない」

この言葉は、アリアが彼らに対して抱いていた、ほのかな希望を打ち砕いてしまう。


 イベリスは、今でもフロースを受け入れるつもりはない。

彼は、仕事を選んだのであって、それは男として当たり前の事なのだ。

その仕事は、彼にとって挑戦的で、やりがいのある仕事だった。


 アリアは、そういう風にイベリスが思っているのであれば、

彼の言うとおり、フロースを捜し出し、連れて帰るまでだと思う。

「イベリス、あなたなんかにフロースを渡すものですか」と決心するのだった。



 フィアマが戻ってきたので、ムカムカしていたアリアは、話題を変えることにして言った。

「アクィラ王が、『ラーウスから早く帰って来い』って言ったのだけれど、

コンテストがどうのこうのって、いったい何のことかしら?」


 イベリスは、「ああ・・・」と心でため息をつきながら、

「今度、新製品のコンテストがあるので、

姫様にも参加してもらい、何か良い案があったら、ということです」と答える。


 「そうなの? 何か、面白いことをするからですって。

面白いって、何なのかしら・・・」

「姫様」とイベリスは言って、その『良い案』の内容には触れないことにする。

「そんなことより、今は、ラーウスです」


 アリアも、「そうだわ」と思いなおす。

フロースを見つけるために、イベリスやアクィラにかまっている場合ではないと思う。


 それでアリアは、

「では、これからわたしを『姫様』と呼ぶのは止めてください。

ラーウスで、帝国の権威が通用しないのであれば、わたしはもう姫ではありません。

普通の人として接して欲しいのです。

ですから、どうか、『アリア』と呼んでください」と言った。


 イベリスは困惑し、「アリア・・・ですか?」と聞く。

アリアは、その大きな目の焦点を、しっかりとイベリスに合わせ、

「そうです。アリアです」と言った。



 この時イベリスは、

ウィリディスにいようと、ラーウスにいようと、

自分の問題は変わらないのかもしれない、と思ってしまった。

状況は、アクィラ王から、プリンセス・アリアに移行しただけではないかと。


 実際に、そういうことになるのだけれど、彼には想像もつかない。

さらには、イベリス自身が撒く種もあり、

そっちは彼が生きているうちには明らかにならなかったので、

本人がその騒動を知ることはなかった。


 とにかくイベリスは、アリアが来るまで、フロースのことを考えなかったはずだと思った。

今、彼は、フロースに何が起こったのかを知りたいと、強く願うようになっている。


 そしてイベリスは、プリオベール男爵との問題があった時、

キラルに会おうとしなかったのは失敗だったと思っている。

彼女に会っていたら、フロースのことを聞いていたはずで、それをアリアに伝えられたからだ。

キラルが、「フロースのことは知らない」と言ってくれればそれで良かったのだ。


 いや、キラルが、ミラ・ラスクの名前で同盟国へ入ったフロースを知らないはずは無い。

知っているのだ。

それなのに、ミラ・ラスクは、ラーウスにはいない。


 ミラは死んだのかもしれないし、そうであれば、フロースも死んでいる可能性はある。

だからキラルは知らせなかったのだろうか。 


 それとも、ラーウスとは関係のなくなった自分に、知らせる必要などないと言うのか。

だとしたら、理由は分かっている。

プリオベール男爵だ。

そして、どんなに考えても、

「ベラに会わなければ答えは出ない」という振り出しに戻っていく。


 イベリスは、「何が何でもベラに会わねば」と心を新たにし、

「キラルにも対面しよう」と思った。

ウィリディスが、どれだけ損失を被ったかを考えれば、

いつまでも、キラルの思うようにさせておけない。

こちらが主導権を握るのだ。



 「では、これから姫様をアリアと呼びましょう」とイベリスは答える。

アリアは、横で驚いているフィアマを無視し、にっこりしてイベリスに手を差し出すと言った。

「ラーウスで、一緒にフロースを探しましょう」

イベリスも微笑み、二人は握手する。


 こうしてアリアとイベリスは、それぞれの思惑はあったけれど、

結束することにしたのだ。



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