才能覚醒の儀式 {1}
ダミアンは今日という日がどれほど重要かを理解していた。
覚醒は、この世界における魔術師としての立ち位置を決める儀式だ。
そして彼は、すでに一度その出来事を経験している。
それでも今回は、やり方を変えるつもりだった。
ダミアンは手早く洗面所を済ませると、すぐに身支度を整えた。
クローゼットを開けると、ろくな服がほとんどないことに気づく。
それは、この人生がいかに貧しいところから始まったかを思い出させた。
そして今、それをもう一度やり直さなければならない。
だが悪くはない。
何もかもが白紙に戻るというのは、むしろ好都合だ。
深く考えず、目についた服を適当に身に着けると、ダミアンは家を出た。
道中、腹が鳴った。
まだ朝食も取っていないことを思い出す。
しかし家には食料もほとんど残っていない。
彼は途中でグラニー・メグの店に立ち寄ることにした。
隣家に住む老女だ。
いつものように屋台の準備を手伝い、その代わりに卵入りの団子をいくつかもらう。
それがダミアンの生活だった。
わずかな食事のために、あらゆる場所で働く日々。
「昔の人生も、こんなに酷かったか?」
ダミアンは小さくため息をつきながら、町の中心へ向かった。
早く着いたつもりだったが、すでに広場は人で溢れていた。
特に目立つのは若者たちだ。
これから“超常の世界”へ足を踏み入れる者たち。
ギルブルック。
ダミアンが幼少期を過ごしたこの町には、唯一機能している《神呼びの祭壇》がある。
周辺の町からも多くの人間が集まっていた。
中には丸一日かけてやって来た者もいる。
この機会を逃せば、次は三年後まで待たなければならない。
それに若いほど、優れた才能を得る確率は高い。
覚醒の最低年齢は十四歳。
ダミアンは現在、それより一歳上だった。
上限は二十五歳。
それを超えれば、どれほど才能があっても発現はほぼ不可能になる。
「静かにしろ」
しゃがれた声が広場に響いた。
人々の視線が一斉に中央の壇上へ向かう。
そこには円形の祭壇の上に立つ老人がいた。
頬はこけ、目はわずかに見開かれている。
白銀の髪が首元まで流れ、清潔な白い法衣を揺らしていた。
乾いた風がその衣をはためかせる。
手には精巧な杖。
先端には龍を模した彫刻が施されている。
老人は周囲を見渡し、完全に静まり返るのを待ってから口を開いた。
「なぜお前たちがここに集められたのかは分かっているだろう」
声は掠れており、話すだけでも負担がかかっているようだった。
「だが儀式の意味を理解していない者もいる。ゆえに説明する義務がある」
少し間を置き、場が落ち着くのを待つ。
「何度も耳にしているだろうが――人間は弱い」
その言葉に小さなざわめきが起きたが、すぐに収まった。
老人は続ける。
「エルフのように魔力を自在に操ることもできず、巨人のような不壊の肉体もない。ドワーフのように金属を操る機械知能も持たず、獣人や魔獣に比べれば、我々の闘争本能など火が消えかけた蝋燭に過ぎない」
風が止む。
広場は完全な静寂に包まれた。
ダミアンでさえ、この言葉に意識を引き込まれていた。
「しかし神は、人間が彼らの手によって滅ぼされることを良しとしなかった」
「ゆえに我々へ与えた。どの種族にも劣らぬ祝福を――《才能》を」
老人は杖を手放す。
杖は空中に浮かび上がった。
そして両手を組み、親指と人差し指で菱形の印を作る。
周囲の人間もそれに倣い、胸の前で同じ印を結ぶ。
老人は頭を垂れた。
「我らはそれに永遠の感謝を捧げる。ヘレルよ」
「ヘレル!」
全員が声を揃えた。
ダミアンはそれに加わらなかった。
彼は《光の子ら》――正統宗教の一員として育てられたが、その信仰には苦い記憶しかない。
もう二度と関わりたくない記憶だ。
周囲の数人が彼に視線を向けたが、何も言わなかった。
信者ではあっても、狂信者ではない。
やがて人々は再び老人の話に耳を傾ける。
「この才能は選ばれし者にしか現れない。そして、その中でも差がある。今日はお前たちが“選ばれし者”かどうかが分かる日だ」
「優秀であれば、《光導学院》への道も開かれるだろう」
老人が下がると、中年の男が壇上に上がった。
短く整えられた髭に、やや出た腹。
ギルブルックの現領主、アスコーンだ。
「皆、注目してくれ」
張りのある声が広場に響く。
「これより覚醒の手順を説明する。才能には階級がある。シンプル、レア、グランデ、レジェンド、ミシック、プライマル、そしてサクリッドだ」
「安心しろ。たとえシンプルでも名門学院に入ることはできる。才能がなくても王国騎士団に入る道もある」
ダミアンは内心で鼻で笑った。
真実は違う。
上層にとって、才能なき者は家畜と変わらない。
前世では彼もシンプルな才能を持っていた。
それでも十分役には立ったが、それだけでは足りなかった。
結局、別の力を求めることになったのだ。
しかし今回は違う。
ダミアンは、まったく新しい才能を得るつもりだった。
そして、その方法も知っている。
「シンプルとレアにはそれぞれ七段階の格がある。それ以上のものは単一階級だ」
「呼ばれた者は祭壇に上がり、この七つの円の中に立て」
アスコーンは壇上を退き、七つの円を示した。
「光った円の数が多いほど優秀だ。血は少量でいい、無理はするな」
言い終えると、彼は壇を降りた。
そして老人が再び前に出る。
「ナンシー・ブリュー」
呼ばれた少女が駆け足で壇上へ向かう。
「中央に立て」
少女は指示に従った。
老人が杖で祭壇を二度叩き、ナイフを手渡す。
少女はためらいなく手のひらを切り、血を祭壇へと落とした。
全員の視線が注がれる。
何も起こらない。
だが諦めかけたその時――最初の円が青く光った。
「おお……グレード5のシンプル才能か。なかなかのものだ」
少女は証明書を受け取り、次の者が呼ばれる。
「長い一日になりそうだな」
ダミアンは背中の痛みを感じながら呟いた。




