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過去への帰還

ダミアンは弾かれたように目を見開いた。


まるで悪夢から叩き起こされたかのように身体が跳ね起き、慌てて上体を起こす。


その拍子に、ベッドのヘッドボードの上に不安定に置かれていた目覚まし時計が落ち、彼のすぐ横に転がった。


ダミアンはそれを手に取り、裏返して時刻を確認する。


午前六時三十四分。


中央の小さな表示には日付も映し出されていた。


――十一月五日。


年までは表示されていなかったが、そんなものは見るまでもない。彼にはすでに分かっていた。


彼は再びベッドに身を沈め、ゆっくりと呼吸を整える。


落ち着きを取り戻した今になって、衣服に染みついたおがくずの匂いが鼻をくすぐった。


懐かしい匂いだ。


五十年前の記憶を呼び起こす匂いでもあった。


まだ月は空に残っていたが、木製の窓の隙間からは朝日がわずかに差し込み始めている。


窓のすぐ外からは、肉体が木材を打つ鈍い音が聞こえてきた。


「ヤァッ! ウアァッ……ヤァ、カッ!」


誰かが朝稽古をしているらしい。


だが、ダミアンは少しも煩わしいとは思わなかった。


ひび割れた天井を見上げながら、彼は微笑む。


「生きている……」


だが次の瞬間、目覚める直前の出来事が脳裏によみがえった。


その笑みは静かに消える。


****


そこにいたのは、ただ一柱の天使。


光の天使だった。


彼女は重力など存在しないかのように空中へ立ち、眼下に広がる数百万もの人類を見下ろしていた。


鎧をまとった戦士たち。


法衣をまとった魔導士たち。


その大半はすでに死んでいる。


生き残った者たちも武器を握り締めていたが、それが何の意味も持たないことを理解していた。


空は赤く染まっていた。


凶兆でもなければ予兆でもない。


ただドラゴンキングの血だった。


光の天使が指を一度鳴らしただけで、彼は爆散し、その血が空を真紅に塗り替えたのだ。


天空すら引き裂く力を持つと謳われた至高の黄金巨人も、無残な肉塊へと変えられていた。


四肢は引き裂かれ、自らの黄金の槍によって串刺しにされている。


それだけではない。


ドワーフ王の無敵の機神は鉄屑と化し、


リッチモナークは細かな骨粉へと圧縮されていた。


生き残った者たちは誰一人として動けない。


再び攻撃を仕掛ける勇気を持つ者など存在しなかった。


ダミアンもまた戦場に立っていた。


だが、彼は他の者たちほど動揺していなかった。


なぜか。


それは、彼がこの結末を知っていたからだ。


六十七年前、この世界へやって来たその日から。


そう。


ダミアンは元々この世界の人間ではない。


彼は地球という世界の出身だった。


不運な事故によって命を落とし、この世界へ転生したのである。


その際、彼を送り込んだ存在は、この世界の《運命の書》を読むことを許してくれた。


もっとも、運命の書に全てが記されていたわけではない。


だが、この終末だけは例外だった。


運命の書が終わる最後の出来事だったからだ。


「だ……大魔導師様……ど、どうすれば……」


隣に立っていた若い兵士が震える声で尋ねる。


ダミアンは答えなかった。


代わりに、一人の男へ視線を向ける。


英雄――スカイラー・ソーンフィールド。


運命の書は彼をこの時代の主人公と記していた。


そして実際、その評価に偽りはなかった。


光の天使の直撃を受けてなお生き延びた唯一の存在。


しかも、まだ立ち上がり、戦おうとしている。


スカイラーはダミアンの視線に気づき、こちらを見た。


その瞳には涙が浮かんでいる。


空の光の天使――いや、この場にいる誰もが今は悪魔と呼ぶだろう――が再び手を掲げた。


無数の光の糸が天から降り注ぐ。


ダミアンは迷わず残り僅かな魔力を振り絞った。


《インヴィンシブル・バリア》。


周囲の者たちは間に合わない。


攻撃に気づくより早く命を落としていた。


戦場に残る者はもう僅か。


そしてダミアンは、今こそ使うべき時だと悟った。


彼は駆け出し、呆然と兵たちの死を見つめるスカイラーの肩を掴む。


「俺たちは死ぬ……ダミアン。みんな死ぬんだ……」


英雄は力なく呟いた。


「スカイラー、しっかりしろ」


スカイラーは顔を上げた。


だが、その目には光がない。


「俺を信じるか?」


その言葉に、砕けた英雄の意識がわずかに戻る。


「な、何を――」


「俺を信じるか?」


ダミアンはさらに強く問いかけた。


しばらくの沈黙の後、スカイラーは頷く。


「……ああ」


「よし。俺に一秒くれ。たった一秒でいい」


「何をするつもりだ?」


ダミアンは唇を噛み締める。


そして言った。


「全部やり直してみせる」


その言葉の後、一瞬だけ世界が静止したように感じられた。


スカイラーはそれ以上何も聞かなかった。


地面に突き立てていた剣を引き抜き、ダミアンの前へ立つ。


「一秒だな」


そう呟いた。


その瞬間、ダミアンは胸元のロケットへ手を伸ばした。


それは彼をこの世界へ送った存在から与えられた二つ目の贈り物だった。


ロケットを開くと、一粒の黄金の丸薬が掌へ転がり落ちる。


だが、それだけでは終わらない。


空にいた光の天使が攻撃を止めた。


何かがおかしいと察したのだ。


彼女の無機質な瞳がダミアンを捉える。


周囲の変化に気づいていた。


「まずい――」


ダミアンは呟く。


視線が交わったのはほんの一瞬。


だが次の瞬間、彼女の二対四枚の純白の翼が羽ばたき、その姿が消えた。


気づけば彼女は目の前にいた。


神々しい光を放ちながら。


スカイラーが叫び声を上げ、剣を振るう。


時間がゆっくりと流れ始める。


刃が振り下ろされる。


光の天使は首をわずかに傾けた。


その口元には、楽しげな笑みが浮かんでいる。


そして――動いた。


次の瞬間にはスカイラーの目前。


英雄は軌道を変えようとしたが間に合わない。


ダミアンが見た光景は、生涯忘れられないものとなった。


彼女の腕が伸びる。


その手がスカイラーの顔面を貫いた。


砕けた頭蓋の後方から脳漿が飛び散る。


桃色の肉片の一部がダミアンの頬へ飛んできた。


彼は震えた。


こんなはずではなかった。


彼女は本来、ここまで強くない。


何かがおかしい。


致命的に。


黄金の丸薬はすでに口の中にあった。


だが飲み込む前に殺される。


そう確信した。


それこそが天使の狙いだった。


しかし最後の最後。


ほんの刹那だけ。


黄金の障壁が彼を包み込んだ。


その一瞬が十分だった。


ダミアンは丸薬を飲み込む。


そして次の瞬間――


彼の姿は消えた。


****


ダミアンは身震いした。


あの天使の顔が、今も脳裏に焼き付いている。


だが彼はすぐに拳を握り締めた。


今度こそ――


今度こそ失敗しない。


なぜなら彼は知っている。


全てを。


「ダミアン、準備しなさい! 今日は覚醒の儀式がいつもより早く始まるかもしれないよ!」


隣の泥造りの家から、年老いた女性の声が響いた。

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