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聖剣じゃない。どう見ても電動マッサージ機です本当にありがとうございました。 ――なのに異世界では“震界の魔杖”として最強認定された僕、恥ずかしすぎてもう無理なのに魔王軍だけはなぜか倒せる  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第32話 夜の摘発、初の合同作戦

 その夜、王都の空気は昼間とはまるで別物だった。


 昼の王都が噂でざわつく街なら、夜の王都はそれを売る街だ。


 新堂ユウトは、騎士団本部の中庭で黒布袋を肩にかけながら、心の底から嫌そうな顔をしていた。


「……ほんとにやるのか」


「やります」


 レティシアが即答する。


 銀青の軽装騎士服に外套、腰には剣。今日の彼女は完全に実戦用の顔だった。昼の会議で決まったばかりなのに、もう摘発作戦の段取りは整っている。王都の役所仕事は遅そうに見えて、火がつくと異様に早い。


 中庭には、見慣れた面子が揃っていた。


 レティシア率いる騎士団の小隊。

 学院側はセリーナと風紀委員二名。

 神殿からはフィアナと、呪具確認に長けた若い神官。

 魔導院からはミリスと補助研究員が一人。

 そして、“本物判定役”としてここに立たされているユウト。


「なんで俺まで夜回りみたいなことしなきゃいけないんだろうな」


 ユウトが本音を漏らすと、ミリスが腕を組んだまま言う。


「偽物の質が上がってるから」


「うん」


「“本物っぽい雰囲気”だけではなく、“本物に寄せた誤認”まで作られてるから」


「うん」


「だから、本物を実際に持ってる人間の感覚が必要」


「正論が嫌だなあ……」


 セリーナが補足する。


「学院側としても、現場で即時判断できるのは助かります」


「そう言われると弱いんだよ」


「知っています」


 この風紀委員長、最近ほんの少しだけ刺し方が柔らかくなった気がする。気のせいかもしれないが。


 フィアナは少し緊張した面持ちで言った。


「神殿でも、今夜の摘発を応援しています」


「応援っていうか、君も参加するんだけどな」


「はい……でも、ちゃんと役に立ちたいです」


 昨日までのフィアナなら、「困ってる人のために」で先に進んでいた。

 だが今日は違う。“偽物を止める”と自分で言ったあとだからか、目つきにいつもの柔らかさだけではない芯がある。


 レティシアが全員を見回す。


「本日の目的は三つです」


 声がきっぱりしていた。


「一、西区画から北区画にかけての販売地点の摘発。二、怪文書の配布元の確認。三、魔導加工入りの疑似品の押収と経路の特定」


 補助研究員が記録板へ書き込む。


「危険物は魔導院預かり。宗教的偽装品は神殿確認。学院流通が確認された場合は風紀委員会へ情報連携」


「役割分担まで完璧だな」


 ユウトが言うと、ミリスが肩をすくめた。


「こういう時だけはね」


「こういう時“だけ”なんだ」


「失礼ね」


 そこへ、王宮付き文官が最後の確認を持ってきた。


「王女殿下より。“必要なら遠慮なく大ごとにしなさい”とのことです」


「やっぱりあの人、面白がってない?」


 ユウトの問いに、誰もすぐには答えなかった。

 その沈黙がもう答えだった。


   ◇


 最初の摘発地点は、西区画の裏通りだった。


 以前、怪しい高級偽物が見つかった一帯である。夜になるとさらに雰囲気が変わる。昼は上品な顔をしていた路地が、夜は静かすぎて逆に不穏だ。薄い灯り、閉じかけた店、布で半分隠された看板。見るからに「知る人だけどうぞ」な空気が漂っている。


「嫌な感じだな」


 ユウトが言うと、レティシアが短く答える。


「ええ」


 セリーナは視線を左右へ走らせる。


「学院生が寄りそうな場所ではありませんが、年上の者に買わされて持ち込まれるならありえます」


「それもだいぶ嫌だな」


 ミリスが前方の店先を指した。


「あそこ」


 白布を垂らした、見覚えのある形式の小店。

 表には上品な札がぶら下がっている。


 《静夜布》

 《休息香》

 《肩養紐》


「合法寄りの顔してるやつか」


「ええ。でも今夜の狙いは、奥よ」


 ミリスが示したのは、店の脇にある細い路地だった。人ひとり通れるかどうかの隙間。その先に、さらに小さな灯りが見える。


 レティシアが騎士たちへ手で合図する。


「二手に分かれます。正面は通常確認。裏は静かに抑える」


 ユウトは半歩下がった。


「俺、どっち」


「裏です」


 レティシアが即答した。


「なんで!?」


「怪しい品を見せられた時、すぐ判定できるようにです」


「嫌な役回りすぎるだろ!」


「そうでしょうね」


 そこも否定しない。


 結局、裏手に回る組は、レティシア、ユウト、ミリス、フィアナ、騎士二名となった。

 セリーナは正面確認側へ回る。学院の腕章を見せる役には、彼女の方が向いている。


 路地を進む。

 湿った石の匂い。

 どこかで香油が焚かれている。

 やがて、小さな裏口の前に出た。


 中から聞こえるのは、小声のやり取り。


「……順番は守れ」

「王都上流でもそうしてる」

「静かに、恥じずに……」


「ほんとに最悪だな」


 ユウトが囁くと、ミリスが冷たく言った。


「ええ。分析したくもない」


 レティシアが扉の脇へ位置を取る。

 騎士たちも構える。

 フィアナは小さく祈りを重ねて、室内に呪紙反応がないか確かめていた。


「微弱です」


「中に入るわよ」


 レティシアの合図。


 扉が一気に開かれる。


「騎士団です!」


 怒声が飛ぶ。


 狭い裏部屋だった。

 机の上に、短棒や香袋や札が雑然と並んでいる。店の表で扱う“合法寄り”の商品ではない。もっとあからさまに、本物を匂わせる言葉が書かれた品ばかりだ。


「うわ」


 ユウトは思わず顔をしかめた。


 札には、


 《初級作法用》

 《静室専用》

 《一人用》

 《順守推奨》


「やめろおお……!」


 奥にいた男が、帳簿を抱えたまま凍りつく。

 その隣の女は、とっさに何かを布袋へ隠そうとした。


「動かないで!」


 レティシアの声が鋭い。

 騎士たちが一瞬で部屋を押さえる。


 ミリスは机の品を次々と確認し、フィアナは祈祷具を分類している。手際がよすぎて、ユウトだけが完全に場違いだった。


「……俺、ここにいる意味ある?」


「あります」


 レティシアが即答する。


 その時、女が隠しかけた布袋の中から、見覚えのある紙片がこぼれた。


 セリーナが正面から合流し、それを拾い上げる。


「これ……」


 彼女の顔が冷える。


 紙片には、今までの怪文書よりさらに露骨な文言が並んでいた。


 《風紀を恐れるな》

 《神殿が濁すのは真に効くから》

 《王宮が抱え込む理由を知れ》


「完全に煽りに来てるな」


 ユウトが言うと、セリーナは低く頷いた。


「ええ。学院、神殿、王宮。全部を敵に見せるよう設計している」


「しかも上手いのが腹立つんだよな」


 ミリスが、部屋の隅に積まれていた箱を開けた。

 その中には、例の粗悪品とは別種の品がぎっしり入っている。


「……来たわね」


「何」


「魔導加工入りの疑似品、まとまってる」


 ユウトが覗き込むと、そこには黒木と銀線の短棒が十本以上入っていた。先端の布巻きも、昼に見たものよりはるかに整っている。見た目だけなら、かなり“それっぽい”。


「うわ、完成度上がってる」


「そこが一番腹立つの」


 ミリスの怒りは継続中だった。


   ◇


 裏部屋の押収は成功した。

 だが、それで終わりではなかった。


「これだけじゃないはずです」


 セリーナが帳簿を見ながら言う。


 押さえた男は最初こそ黙っていたが、騎士団の圧と魔導院の確認と学院風紀委員長の冷たい視線の三重苦に耐えきれなかったらしい。


「北の宿場にも、同じ荷が……」


「来た」


 レティシアが短く言う。


「次へ移動します」


「夜回りってレベルじゃなくなってきたな……」


 ユウトが呻くと、フィアナが少しだけ気遣うように言った。


「疲れてきましたか」


「うん、精神が」


「でしょうね」


 そこへミリスが、押収した疑似品を見ながらぼそっと言った。


「でもこれ、思ったより大元に近いかも」


「え?」


「帳簿の印字。紙の質。加工の癖。ばらばらに見せてるけど、かなり管理されてる」


 つまり、手作りの寄せ集めではない。

 どこかでまとまって作られている。


「じゃあ、ほんとに流通元があるんだな」


「ええ。しかもそこまで遠くない」


 王都の中にあるかもしれない。

 そう思うと、背中が冷えた。


   ◇


 北区画の宿場通りは、西よりもさらに厄介だった。


 旅人。

 商人。

 荷運び。

 宿泊客。

 人の出入りが多く、噂も物も流れやすい。


 夜でも明かりが絶えず、酔客の声が混じる。

 ここで怪しい物が動いていても、すぐには目立たない。


「いかにも、だな」


 ユウトが言うと、レティシアが頷く。


「ええ。混ざるには最適でしょう」


 宿場の一角、裏庭へ通じる木戸の前で、騎士団が一度足を止めた。

 中から聞こえる声が、どうにも嫌な感じだったからだ。


「……本物を見た者の話では」

「順を守れば、ただの疲れ取りでは終わらん」

「王宮が独占する理由がある」


「ほんとに最悪だな!」


 ユウトの声が少し大きくなってしまう。

 レティシアが手を上げて制し、そのまま一気に木戸を開いた。


 裏庭には、人が六人いた。


 荷運び役らしい男。

 商人風の女。

 そして、箱を開いて中身を確認している二人。

 さらに、その奥で紙を束ねている、細身の若い男。


 その男だけが、こちらを見てもあまり驚かなかった。


「騎士団です!」


 レティシアの声。

 騎士たちが散開する。


 男は、ほんのわずかに口元を歪めた。


「へえ」


 その一言に、ユウトの背中がぞくりとした。


 ただの売人じゃない。

 なんとなくだが、そう思った。


「荷と文書を押収します。抵抗しないでください」


 セリーナも正面から入ってくる。

 学院側の腕章が見えた瞬間、裏庭の若者たちがざわつく。


 だが、その細身の男だけは落ち着いたままだった。


「面白い」


「何がだよ」


 ユウトが反射で返す。


 男の目が、すっとこちらへ向いた。


「本人がいるとは」


 その視線の温度の低さに、ユウトは思わず肩の黒布袋へ手をやった。


 次の瞬間、男が指を鳴らした。


 ぱん、と乾いた音。


 裏庭の箱のひとつから、白煙が一気に吹き出した。


「煙幕!」


 レティシアが怒鳴る。

 騎士たちが動く。

 フィアナがとっさに祈りを重ね、ミリスが風圧で煙を吹き払おうとする。


 だが、ほんの数秒で十分だった。


 煙が晴れた時には、細身の男の姿だけが消えていた。


「逃げた……!」


 セリーナが悔しげに言う。


 レティシアの目が鋭くなる。


「追跡を」


「待って!」


 フィアナが、奥の箱を指差した。


 その箱の中に、ただの偽物ではないものがあった。


 黒い紙。

 細く刻まれた紋。

 微弱だが、見ただけで嫌な感じがする。


「呪紙です」


 フィアナの声が硬い。


「しかも、神殿で見たものよりずっと濃い」


 ミリスがすぐ近づき、表面を確認する。


「……魔王軍系」


 部屋の空気が、一気に冷える。


 騎士団の若い隊員が息を呑んだ。


「魔王軍……?」


 レティシアが低く言う。


「当たり、ですか」


「ええ」


 ミリスが頷く。


「流通も怪文書も、全部ただの王都の悪ノリじゃなかった」


 ユウトは、逃げた男がいた場所を見た。


 さっきの目。

 あの温度の低さ。

 まるで、こちらの反応を最初から知っていたみたいな落ち着き。


「……見られてたな、ずっと」


 ぼそりと呟く。


 セリーナも、珍しく強く頷いた。


「ええ。たぶん最初から」


 つまり、自分たちは追っていたつもりで、向こうにも観察されていたのだ。


   ◇


 その夜遅く、騎士団本部へ戻ったあとも、会議は短く済まなかった。


 西区画の疑似品拠点。

 北区画の宿場流通。

 そして魔王軍系呪紙。


 もう、笑って済ませる段階ではない。


「正式に敵性工作と見なします」


 王宮文官が、珍しく重い声で言った。


「学院、神殿、市場を横断して、人心と秩序を乱す目的が明白です」


 ユウトは椅子にもたれ、深く息を吐く。


「……やっぱり、ただ偽物を回収するだけじゃ足りないな」


「ええ」


 レティシアが答える。


「次は、流通そのものを断つ必要があります」


 ミリスは押収した呪紙を見ながら言う。


「そして、あの逃げた男。たぶん中核に近い」


「名前も分からないけどな」


「でも手応えはある」


 セリーナが紙束を机へ置いた。


「学院でも、怪文書の“調子”が今夜から変わりました」


「変わった?」


「“隠されている”から、“独占されている”へ」


 ユウトは、ああ、と呻く。


「次の段階か」


「ええ。たぶん、そろそろ王都全体へ“本物の証明を求める空気”を作るつもりです」


「嫌すぎるなあ……」


 だがもう、先送りはできない。


 敵は、こちらの反応を見ながら、言葉を変え、噂を育て、偽物を流し、善意にも風紀にも市場にも入り込んできている。


「……じゃあ次は、もっと大きくやるしかないな」


 ユウトがそう言うと、レティシア、ミリス、セリーナ、フィアナが、それぞれ違う顔で頷いた。


 嫌だ。

 恥ずかしい。

 面倒だ。

 でも、もう“俺には関係ない”とは言えない。


「次、何やるんだ」


 ユウトの問いに、文官が静かに答える。


「王宮主導の、大規模回収です」

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