第54話
先程鳥のように羽ばたく何かが飛び出した扉の前に来たが、辺りはしんと静まっており、耳を澄ましても、さっきの何かの羽ばたく音さえも聞こえない。
私は固く閉じられている扉をじっと見た。
たしか御者の話では、この魔道書の書庫は普段は結界が張られていて鍵もかかっているということだった。さっき扉が開いた時、その何かを掴む手が見えたから、きっといまは誰かが書庫の中にいるのだろう。
目をこらすと書庫の周りに結界が張られていた魔力の形跡があるが、今は解除されてるようだった。
ごくん、と喉をならして目の前の扉の取っ手に右手を伸ばす。
ーーさっきの鳥みたいに羽ばたくものは一体なんだったのだろう?
バンッ!!!
私の指が取っ手に触れる寸前、勢いよく扉が開いた。
「ひゃっ......!?」
バサバサバサバサッ!!
「な!?なにこれえぇぇっ!?」
書庫の中から飛び出してきた赤と白、青と白、そして茶色に白、他にも様々な色をしたツートンカラーの無数の何かが私の周りを羽ばたきながら通り過ぎる。
いきなりなことに両腕を目の前で交差させて顔をガードして、一瞬瞑った瞼を薄く開いてバタバタと羽音をさせている何かを見やった。
「本!?本が飛んでる!?」
そうなのよ。
私の周りを鳥のようにバッサバッサと飛んでいるのは.........『本』だった。
本って飛ぶの?
いや、レオンハルト様はいつものお茶会で本を王宮図書館から魔法で飛ばしていたけど......。でも、こんな飛び方ではなく、きちんと表紙が閉じられた姿で宙に浮いて彼の元にとんできていた。
目の前の本はそんな飛び方じゃない。
まるで本自身が、意思を持った鳥のように羽を羽ばたかせているのだもの。
背部分をまるで本物の鳥の背中のように空側に向け、表紙と背表紙を羽のようにして軽やかに空中を飛んでいるその姿にしばし唖然としていると、急にぐいっと後ろから腕を掴まれた。
「あれ?」
その言葉を発したのは私ではない。
「アル。僕はどうやら魔道書を可愛い女の子に変身させる魔法を編み出したみたいだよ。」
私ではない誰かに話しかけ、僕って天才じゃない?と目の前で微笑む明るい灰色の瞳の紳士には見覚えがあった。
「あなたは.........っ」
その人の名前を口から発しようとしたその時
『水の捕縛』
彼の後ろにいる誰かが水魔法を唱え、私の目の前一面が水でできた網に覆われたのだった。
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