第125話 ≪エルケ
カチコチに固まった鳥は、執事男が素早く回収し、王宮使用人達がもってきた厚手の皮袋に入れられ、どこかへと速やかに運ばれて行った。
皮袋に入れたあたりあの白い鳥はまだ生きているのだろう。王宮でのむやみな殺生は禁じられている。たぶん身体の表面を氷で覆い一時的に動けなくしたのだと思う。だからいつ魔法が解けて氷が溶け鳥が暴れだしてもいいように、持ち運ぶ人間が怪我をしないよう皮袋に入れられたのだろう。
カチコチな鳥を見送ったあと、視線を戻すとどうやらカチコチになったのは鳥だけじゃなかったらしく、氷の矢はかすりもしなかったはずなのにカチコチに固まっているアリシア嬢が目を見開いたまま動かなくなっていた。
「ガーラント公爵令嬢?大丈夫ですか...?」
ガタンと席を立ってテーブルに身を乗り出したレオンハルト殿下が心配そうにアリシア嬢を覗き込む。
しかし、アリシア嬢は真っ青な顔で固まったまま微動だにしなかった。
彼女の瞳は前を向いているはずなのに、目の前にいるレオンハルト殿下は映しておらず、見開いたままどこか遠くを凝視している。
「すまないっ。あんな近くで魔法を使ってしまい怖かったのでは...!?」
レオンハルト殿下は慌ててアイアンテーブルを横切りアリシア嬢の横へと駆けつけた。
すると真っ青な顔のままゆっくりとアリシア嬢が殿下を見上げた。
「 」
「......!?」
殿下にアリシア嬢が何か言った途端、レオンハルト殿下は目を見開き固まった。
アリシア嬢は一体何を殿下に話したのだろう。殿下は驚きととまどいの表情でアリシア嬢を見つめている。
カタンとアリシア嬢が席を立った。
そして優雅に。
優雅に最高のカーテシーをしてレオンハルト殿下へ自らの退出の挨拶をする。
真っ青な顔であきらかに体調や気分がすぐれていないのに 気力で最敬礼をするのは公爵令嬢としてのプライドだろうか。
「た、退出を許可する...っ。」
ハッとした殿下がまだとまどいの中、退出の許可を出した。まだ聞きたいことがありそうな表情をされていたが、アリシア嬢の体調が見るからに悪そうだと判断なされたのだろう。
アリシア嬢は殿下にいったい何を言ったのだろう?
困惑している殿下に礼をし、アリシア嬢の手を取り宮殿の客間へと下がり、公爵家の馬車に宮殿入り口に待つよう手配する。
その間もアリシア嬢は一言も喋らず、青い顔をしたまま どこか遠い目をしていた。
そしてタウンハウスに戻るとすぐにガーラント公爵の領地へと戻る馬車が用意されており、アリシア嬢とわたしは公爵様やテオドールより先に領地へと帰ることにになった。
どうやら 『響海の間』でのパーティーの時のアリシア嬢の様子を心配したガーラント公爵が、とにかく娘を一度領地へと返さなければガーラント家はもう王様支持しなーい!とか喚いたとかなんとか。
公爵様が床をジタバタと駄々っ子していたとかの情報(噂)も入ってきたが、うん、聞かなかったことにしましょう。
そして領地に着いた途端、アリシア嬢は高熱を出して何日も何日も目を覚まさなかった。
公爵夫人がお声をかけても誰が呼びかけても瞼を開けることはなく、熱にうなされイヤイヤと無意識に首をふる姿は、まるで現実に戻ることを拒否しているかのようにわたしには見えた。




