それすらも愛。ーただ眺めていたいだけだったのにー③
「徹夜明けかな?いくら研究が楽しいからって無理しないようにね。寝ていていいよ。あぁ!添い寝希望かな?」
「結構です。おやすみなさい所長〜。」
僕の軽口にも慣れたもので、再び毛布にくるまってすぅすぅと寝てしまう。
各研究室につながる広間には、談話用に複数のソファーやミニテーブルが設置されており、先程話しかけてきた学者以外にもあちらこちらに毛布にくるまった人らしきかたまりがソファーの上や壁側で寝息を立てていた。
「相変わらずヘラヘラ生きてんな。ガキまで口説いてんじゃねーよ。チェラード。」
近くにあったテーブルに 学舎でもらった大量のチョコレートを置いていると、近くにあったソファーの上の毛布がばさりとめくれて、中から無精髭の男が顔を出した。
顎あたりまで伸ばした黒々とした前髪をくしゃりとかき上げる手は剣ダコや鍛錬でゴツゴツとしていていかにもかたそうだ。めくりあげた毛布がずり落ちて中から見えている胸板も厚く筋肉で引き締まっており見るからに学者とは思えない。それもそのはず、彼はここの研究員ではなく、学者達が発掘や歴史探索などに行く際に雇っている傭兵なのだ。
単発的に雇う傭兵達のために簡易ベッドや打ち合わせ用のソファーなどをおいた個室を用意してあるのに、彼はいつも何故か広間で寝ている。本人いわく狭い場所は苦手らしい。
「おや、もしかして拗ねちゃったかな?大丈夫。僕は君のこともちゃんと愛してるよ♡フィロン。」
名を呼んでつつつと顎をなぞってあげると、かなりのジト目で見てくるのが面白い。
「せっかく睡眠とって回復した体力がすり減りまくるからやめろ。」
「はいはい♡ 今回の発掘作業なかなか大変だったみたいだね。古文書を発掘したら呪術がかけられてて四方をいきなりモンスターに囲まれたとか。このあたりで1番の腕の君を雇って連れて行かせてよかったよ」
「礼やおだてはいらねぇよ。俺は金さえもらえりゃそれでいいんだ。」
「ふふふ。君は根っからの傭兵気質だよねぇ。もちろん危険手当は上乗せさせてもらうよ。それだけの仕事をしてもらったからね。」
僕の大事なあの子達が無事に帰ってこれたのだから。
毛布にくるまった若く意欲に満ちた学者達を目だけでそっと見回す。
「とても楽しみだよ。この国の未来は。」
「けっ。なーにジジ臭く他人ごとみてぇに言ってんだ。てめぇも俺に比べりゃまだまだひよっこだぜ。」
僕が並べたチョコレートの箱から、おおぶりのウィスキーボンボンをつまみ上げて、フィロンは自らの口にぽいと放り込んだ。
「お。うめぇな。だいたいなあ。お前はいつもてめぇ自身を歴史を傍観してるだのなんだの言ってるけどよ。歴史が傍観者なんて作んねぇのよ。俺らは全員歴史の主役だ。なんならそこらで歩いてる蟻1匹でさえな。」
その言葉を聞いたからか、ぱくぱくと勢いよくチョコレートを食べるフィロンに圧倒されたのか、僕は一瞬かたまってしまった。
「てめぇなんてなおさらよ。あの無愛想でいけすかん王子サンと学舎作ったり、このでかい研究所だってだ。こんだけの功績作っといて、僕は関係ありませんってしれっとしてるその顔見たら1発はっ倒したくなるぜ。まじでな。」




