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ロイヤルリリー  作者: violet
23/23

おしまいはハッピーエンド

「ごめん、ごめん、機嫌なおして」

百合の後始末を任せて、レッドフリートはディーヌを抱いて帰って来た。

山の道は足場が悪くお姫様抱っことはいかず、馬を繋いであるところまでは子供のようにである。

ディーヌを馬の背に乗せるとレッドフリートは後ろに乗った。


「王太子殿下ともあろう方が、あんな、みだりに」

真っ赤になるディーヌは言葉が続かない。



ディーヌは走って山に来たのだ、レッドフリートの為に。

それを思うと嬉しくて仕方ない。

ディーヌはレッドフリートにもたれている。

そっとディーヌの足に触ると、ディーヌがピクンとする。

たくさんの擦り傷、屋敷に着いたらすぐに治療だと思う。

屋敷から山までは馬で直ぐに着くが、走るとなるとかなり時間がかかる、しかも女の足だ。

そして山の奥に入ってきたのだ。

疲れはてるのは当然だろう。

振動を少なくするために、馬には歩かせている。



「王家には伝えられていることがある」

背後にいるレッドフリートの言葉に、ディーヌは緊張する。それは王家の秘密を言おうとしていると察したからだ。

「300年に一人、竜になる男子が生まれる。王子は腕に百合の紋章があり、20歳になると竜になり人から離れてしまう」

それはレッドフリートの事だとわかる。

「王子を人に繋ぎ止める方法は、百合の痣のある聖女と心通わす事。

百合の紋章を持つ王子が生まれると、王家は聖女を捜すのです。

ディーヌが知っているように、聖女候補達は神殿で育てられ、王子と交流を持つのです」

馬から落ちないように、後ろからディーヌに回しているレッドフリートの腕に力が込められる。


「幼い頃から、神殿に通っていましたが、そこで心惹かれる女性はいませんでした。

ここにいたのだから」

「殿下」

「さっきのようにレッドと呼んでください。嬉しかった。

ディーヌが聖女であろうとなかろうと、貴女がいいんです」

ディーヌの胸元に、自分と同じ百合の紋章があるのを見て、レッドフリートは感動に胸熱くなる。


とてもロマンチックな事を言われているのに、ディーヌの頭の隅に、コートの下は裸。

この言葉が離れない。


「レッド、申し訳ないのですが、続きは服を着てからでお願いします」

まさかのダメだしである。





半年後、王都では神殿の鐘が鳴り響いた。

王太子レッドフリートとエインズ伯爵令嬢ディーヌの結婚式だ。


病気療養から戻った王太子が婚約を発表してから、半年で結婚式というのは異例なことだが、婚約者が聖女であることで異を唱える者はいなかった。


「ねえ、おかしくないかしら?」

ウェディングドレスを鏡で見ながら、ディーヌが侍女に尋ねる。

「お嬢様、おきれいです。きっと殿下も感動されますわ」

ベールの裾を広げながら、自慢げに侍女が答えるが、ディーヌは首を振る。

「緊張して、足が震えてきたわ、どうしよう?」

きっととんでもない人数の貴族が集まっているのだ、群衆の数となると想像もつかない。

この半年で夜会や茶会、訓練をしたとはいえ、ディーヌは田舎でのんびり育ったのである。


「帰りたい」

ボソッと出る言葉は本心である。

どうして誰も反対しないのか、自分に未来の王妃が務まるはずもない。

王族からは反対どころか大歓迎され、期待が重い。


「絶対に帰さない」

どこから聞いていたのか、レッドフリートが部屋に入ってきた。

「ディーヌ、私の聖女」

(うやうや)しく、ベールを手に取るとキスをする。

軍服に身を包み、王子様然としたレッドフリートは眩いばかりの美貌だ。

「美しい、私は幸せ者だ。ディーヌは奇跡だ」

自分より美しい男が、自分をほめちぎる。

ディーヌが帰りたい一因でもある。

花嫁のディーヌは美しい、だが、王太子はもっと美しい。


飛獣の幼体は、ゲンが管理責任者として地方の研究施設にいる。

百合の群生地は焼かれ、数個の球根が持ち帰られた。王宮で次に咲くまで管理されるらしい。



「ずっとディーヌを見ていたいが、時間だ」

嬉しそうに微笑むレッドフリートに手を取られ、ディーヌも微笑む。


この王太子に抵抗しても逃れられないのはわかっている。

逃げたら竜になって追いかけてくるだろう。

なら、一緒に幸せになろう、覚悟するしかない。

竜つかいの人生も面白そうである。

クスクス笑うディーヌにレッドフリートが見とれる。


「落ち着いた?」

レッドフリートはディーヌが緊張しているのがわかっていたらしい。

「宰相はジャガイモだ。大神官はニンジンだ。話が長いからな、適当に聞いていればいい」

「それ、二人の秘密ね」

祭壇に続く道を、小声で話す二人。

「君だけを探してた。君に会いたかった。

ディーヌ、君を愛してる」


「探しに来てくれて、ありがとう」

花嫁の笑顔は幸せに(あふ)れている。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

普通の女の子のディーヌは、これからもレッドフリートを振り回していくのでしょう。

これで完結とさせていただきます。

violet

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