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Eternal Illusion  作者: 七塚 蓮
第一章 新時代到来
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1-14 『神に最も近いと呼ばれた男』

 時刻は日本時刻で午後七時半。

 街ではガス灯がぽつぽつと付け始めた頃、魔術都市の第五聖区の一角にあるとある廃工場に、彼らは居た。

 廃工場の中は人気がなく、作業道具が散乱している有様だ。さらにここは不良ーーつまり魔術適正が極めて低い人たちの、反社会的勢力と似たような奴の溜まり場なので、滅多に人は来ない。

 いるとすれば、その立地条件を上手く利用し、身を隠しているている『蒼の騎士団』のメンツぐらいだ。


「さて、予定通りこの娘をさらってくる事に成功はしたが……」


『蒼の騎士団』幹部、水竹杉乃はバレないようにこっそりとため息をついた。

 確かに当初の予定は完璧と言っていいほど完遂できた。おそらく追っ手も来ないだろう。あとはこの娘を使い、アレ(・・)を復活させるだけ。

 が、水竹が心配しているのはもっと別の、予定外の接触だった。


「(まさか、あちらにも我々と同類がいたとは……)」


同類、つまりは旧人類。

魔術都市側にも旧人類が流れて行っているのは、彼らの世界ではよく知られた話しだ。

 だが、いくら世界広しと言え、まさか捕獲対象の知り合いに旧人類がいたのは、水竹にとっては悩みの種でもあった。

 いくら水竹が未知の技術(科学)を使用して、敵を混乱させても、その対処方法を知っている可能性があるだけで、作戦を変更を余儀なくされる事態もあり得るかもしれない。

 実際過去にもそのような事態があったという噂もあったぐらいだ。作戦を考える際は相当練って立てないと、イレギュラーのせいで頓挫してしまう。

 もちろん今回の作戦も事前の情報収集を行い、徹底的に調べつくしたが、今回はいきなり割り込んできたのだ、仕方がないと言われれば仕方がないのかもしれない。

 さて、と水竹はぐるりと周囲を見渡す。

 水竹の部下は着々とシステムの構築、オカルト用語を用いれば儀式、と似たようなものを作成している。

 少女を中心にルーン文字が刻みこまれた魔法円が書かれているのが、世界を構成しているシステムにつなげるためのシステムとなるのだ。

 これは現代の技術を用いている。

 仕組みは不透明でよく分からないが、旧人類が行う能力演算を、魔法円を用いてより大規模なものにしたもの、としか知らされていない。


「……まさかここにきて、オカルトの技術を持ちいらなければならないとは。科学を信じてきた者にとってはこれ以上ない驚きだよ」


 世界にはまだまだ不思議なものがあるものだな、と水竹は手元にあるデザートイーグルを片手で回す。

 能力と魔術は同一のものなのだが、そこまで解析されていないということは、彼は知らない。

 逆を言えば、科学を信じきっているはずなのに、今ではオカルトという科目を認めている、といった何とも言えない矛盾が起こっている。

 が、それはもうどうでもいいことだった。


「(このくそったれな世界を元に戻し、誰もが笑って過ごせる世界にする。それだけだ)」


 水竹は何度目かすら分からない、家族に誓った約束を口にする。

 彼もかつて、過去の時代を生き、半永久的人体冷却装置(SHBC)により生き延びた人の一人だ。

 そしてこの時代を彷徨い、途方に暮れていた水竹達に、居場所を与え、世界を変えるための力を与えてくれてのは、『蒼の騎士団』の現リーダーだった。

 いくつもの町を行き、世界を知った。

 いくつもの人に会い、今の人類を知った。

 いくつもの光景を見て、この世界の残酷さを知った。

 だから、変える。

 どんだけこの手が汚れてしまっても、世界を変えると。

 

「隊長! システムの構築、完成しました。いつでも行けます」

「……ん、ああ、今行く」


 水竹の部下の一人が、敬礼とともに今回の作戦の最終段階の準備ができたという報告を受け、水竹は思考を過去から現在に戻した。

 

「それで、代価品の状態は?」

「精神状態は極めて安定しています。抵抗もしないですし、このままいけば予定時刻には儀式は開始できるそうです」

「まるで、全てを(・・・)受け入れて(・・・・・)いるような(・・・・・)感じ、か。この時代の住人はよくわからんな」

「そうですね。普通に考えれば抵抗の一つや二つがあってもおかしくないですもんね」


水竹は魔法円前まで来ると、儀式の準備中であったヘストイと目が合った。

彼は現地工作員としてこの街に潜伏している。

彼以外にも、この世界を変えたいという意思を持った人々が『蒼の騎士団』に入っている。

このことから、『蒼の騎士団』がどれだけ有名な組織かということが分かる。

ヘストイは水竹に一礼した。


「儀式の準備中は整いました。いつでも『神呼びの儀式』を行うことができます」

「成功確率は?」

「今の状態が続けばほぼ確実と言っても過言ではないでしょう」


よし、水竹は頷いたが、ヘストイが少し不安そうな顔をしていたので、水竹は不思議に思い尋ねた。


「何か心配なことでも?」

「いえ、まあ、儀式には直接関係ないのでずが……」


ヘストイが言葉を濁らせていたので、「別に言ってもいいぞ」と水竹は優しく言った。


「ここに来る途中に使った下水道から敵が侵入して来ないでしょうか?」

「それはない。ここは人払いの結界を張っているし、万が一にもそれが破られても、下水道内に土の壁をいくつも張って通路を塞いでおいたから問題ない」


だからこそ、気づかなかった。



誰かが何かを話しているのが聞こえてきた。

自分の周りに何かがあるのかが見えた。

自分はこれからどうなるかわからなかった。

助けが来ないかななんて考えはとっくに捨てた。

いや、もうそんなことはどうでもよかった。

どうせもう終わってしまう人生。

もう、何もしなくてもいいや。

思い返せば、いろいろなことがあったな。

かつて住んでいたところを捨て、違法ながらこの街に住み続けた。

古代語が得意だったので、それが最大限発揮できる役所からスカウトもされた。

そこでであった子とは友達にもなれた。

学校にも行って、皆んなといっぱい話しをした。

決して幸せとは言えなかったけど、それでも楽しかった。満足するぐらいに、後悔なんてする……はずが……ない、のに。

あれ?どうしてだろう?

私は目から滴り落ちる涙を見て、不思議に思ってしまった。

何で、泣いているのかが、分からなかった。

いや、分かっていたはずなのに、それを認めようとはしなかった。

私は、まだまだしたいことがあった。

もっと、皆んなと居たかったのかな……?


だからこそ、気が付いた。



過去を望むものと、未来を望むもの。

目指している方向は真逆なのに、考えは同じ。

だが、見ている方向は違う。

過去を望むものは、前を見れなかった。

だが、未来を望むものは、前を見ることができた。

前を、つまりは未来。

明日は良くなるとは限らない。

だが、人は明日を目指し、昨日よりも明日をもっと幸せにしようと努力した。

例えば、この少年も……



突如、廃れきった廃工場に、ドンと鈍い音が響いた。

ある人は目を大きく開け、ある人は宙を舞い、またある人は全力で人を殴っていた。

一瞬、水竹には何が起こったのかわからなかった。想像すらできなかった。

完全な不意打ち。これ以上なく反則技。だが、決定的なほどに効いた、たった一発の拳。

その元凶、自分を殴った人物を見て、水竹は声すらも出なかった。

何故なら、決してそこに居ないはずの、いてはいけない人物だったから。

その人物は、倒れたままこちらを見る水竹にこう言った。


「てめえがどこの誰で、何をしようとしているかは知らねえが、もしてめえがしていることが正しいなんて思っているならば、そんなくそったれな考えをぶっ潰してやる!!」


その人物、レイ・ギルティは己の拳を握りながらそう言った。

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