平成二五年三月三日(日)一八時
妹は今日、高校を卒業した。
姉は妹に一緒にお風呂に入ろう、といった。それは姉が春休みに福岡の実家に帰ってくる時はいつもすることだった。
「お姉ちゃん、なんか面白い話、してよ。」
風呂の中で体を洗いながら妹は言った。姉は考えた。妹と姉が共通して面白いと思える話。個人的に面白い発見はこの一年何個かあった。しかし、それを妹が面白がるとは到底思えなかった。
「そう言えば、お母さんから聞いたけど、お姉ちゃん、新しい彼氏できたの?」
母は相変わらず妹になんでも言ってしまう。姉はそうだよ、と事も無げに言った。新しい彼氏ができるという事は前の男とは縁を切るということで、それはとても辛かった、ということを姉は妹に分からせたかった。だが、妹にそんなことを言っても、たぶんよくわからないだろう。
妹はつまらなさそうに体を洗っていた。ついこの間まで、ほんの三年くらい前まで、妹は痩せっぽちで、色黒で、しかしそんなことも気にせず日々ただ元気一杯で、姉に面白い話をねだる前に沢山の「おもしろい」話を勝手にした。多くは姉にとってくだらないも話だ。でもそれが楽しかった。
今の妹は胸もあって、手足の毛も剃って色は白くなって、ご丁寧に洗顔ネット迄使って顔を洗って、これじゃあまるでただの女みたいだ。と姉は湯船につかりながらひとしきり思った。
「お姉ちゃん、勉強はどうなの?」
べんきょう、と言えば司法試験に向けた勉強に決まっている。それを聞かれるのは正直辛かった。というのも姉は最近まじめに勉強して居なかった。特に半年前から。
姉は東京の大学に三年前から進学していた。一人で勉強するのは辛かった。そのうち、男を家に呼んで一緒に勉強するようになった。男はいつの間にか家に住み着き、姉の成績を追い越した上で、半年前に姉と別れてしまった。姉には無気力感だけが残った。それ以来姉は勉強があまり好きではない。
妹はつまらなそうに髪についた泡を流していた。姉はそれが自分のせいのような気がした。妹を笑わせたかった。そこで姉は、勉強の話の代わりに、上京して出会った自分の周りの女がいかに阿呆かを妹に面白く喋ってみることにした。姉にとっては割りと面白い話だった。
飲み会で潰れる女、彼氏が同時に三人いた女、勉強しているよ!という呟きを一日中SNSに投稿する女。キャプテンを彼氏にした瞬間にそのサークルを辞めたサークルクラッシャー。漫画に出てくるようなくだらない女なんて、東京には吐いて捨てるほどいた。姉にはそれが新鮮だった。
話をしている最中、妹は姉にあの言葉を、言った。