4-3 桐花に魔力制御
自信を覗かせるつくしに高倉はイラッとして軽く地団太を踏む。
「魔力を明石さんから頂いたとしても無駄よ。それくらいで美香紗と戦えるとは思わないで」
「思わないよ。美香紗はきっと僕よりも才能があって、さらに実戦をしてきた。でも恋愛魔法に懸けた時間、思いは負けていない自信がある。それを美香紗に見せれると思うとワクワクしてきたんだ」
「ふんっ。つまらないことね。見せる間もなく終わらせてやるわ」
つくしには圧倒的な弱点があった。それは魔力が回復できないということだ。
それを補うために桐花から膨大な魔力をもらったわけだけれど、通常の相手なら回復できないハンデがなくなるどころか、優位になるほどの魔力量がある。
しかし高倉の場合は優位にはならない。高倉の魔力は桐花に届かないがそれでも桐花の2/3の総量を持っている。さらに回復力も高いとなれば、つくしが魔力回復できないことがついにハンデになってしまう。
実力で劣っているのにさらにハンデを背負うつくしに勝ち目は低い。桐花と協力して戦えば勝機が見えるかもしれないが、桐花の相手も簡単ではない。入佐ツインズ以上の力を持つ敷島に短時間で勝利できるとは思えない。だがつくしは魔力回復ができないというハンデをなくすために高倉が回復する間を与えない短期決戦を挑まなければならない。もしくは桐花か美香紗の体に触れて魔力を回復する方法もあるが、それは高倉がさせてくれないだろう。
つくしの思惑通り、高倉はつくしに身動きをさせないようにするため綱状の攻撃を繰り出す。
タコの足のように一気に飛び出す攻撃につくしは光球を発し、綱のひとつひとつに命中させていく。しかしその綱状の攻撃はひとつひとつに意志を持ったようにつくしの攻撃を躱していく。
綱の一本だけでも十分に手強い武器となるのに、それを四本も扱うのだから今までの相手とは比べる事が出来ない実力を持っている。十年に一人の逸材は伊達じゃない。宇治のブーメラン以上の魔力濃度を持ち、その四本を完璧にコントロールしている。魔力による制御なら感知能力で攻撃を予測できるのだけれど、さすがに四本もあれば予測したところで逃げ場を作ってはくれないし、感知されにくいように高倉は綱を不可視に近くしている。
隙の無い攻撃。しかし一本でも体に撒きつけられれば負けてしまいそうな威圧感がある。
つくしは仕方ないと手に貯めこんだ魔力で光球を作り、四本が一番近づいた瞬間に光球を持つ両手を合わせ爆発を起こした。
打ち上げ花火の爆発音のようなすさまじい音が響いた後、四本の綱は消えていた。
「どうだ美香紗。俺だって少しはやるだろう?」
「確かにこの攻撃を躱したのはつくしが初めてかも。でも今のでタイムリミットが1/3くらいになった」
圧倒的な力の差に笑うしかなかった。早く桐花が来てくれればと相手の攻撃の一手目から願ってしまった。
敷島大和は痛感していた。才能というものを。
桐花の努力だけでは決してない魔力量と回復の速さ。そして感知能力。
きっと一生鍛錬を積んでも桐花のような能力を身に付けることは敷島には無理だ。
敷島が才能という壁を初めて感じたのは入佐ツインズや宇治と争っていた頃だった。
梓の内面魔法、由美の外見魔法、宇治の戦闘魔法はどれも才能を持つ者だけが得られる領域で、敷島はそこへ踏み入れることが出来なかった。しかし才能を持たない物が得られる最高の能力を得るために鍛錬を重ねたために、その天才たちと対等に渡り合うことができた。
しかし高倉美香紗と出会い、本当の天才というものを敷島は知った。
高倉の持つ戦闘、内面、外見、感知、そのどれもが天才だと思っていた者たちを凌駕していた。しかもそれを二歳も年下で去年まで中学生だった子が持っているのだから敷島は思った。平等などこの世にはない、神様なんていないと。いるなら高倉美香紗だと。それくらい心酔した。
そして敷島は高倉の駒となった。必要とされるだけで十分だった。
駒としての役目。それを果たすことだけが敷島の喜びであり、幸せであった。
それができないことは存在価値を無くすことにつながる。
それくらい必死に敷島は桐花に対し戦闘していたが、どうにもできそうになかった。
敷島は桐花をつくしに近づけないことで手いっぱいだった。
この路地裏に来る前までは敷島の方が主導権を持っていた。しかし桐花をつくしに近づけないように追いかけっこをしていた時とは明らかに違うと敷島は感じていた。魔力のコントロールが段違いに良くなっている。もしかしてここに来るまでは手を抜いていたのだろうか? いや、桐花にその様子は見れない。意識的にコントロールをよくしている傾向もない。完全に無意識。そのきっかけはどこにあったのか敷島は考える。
「どうしたのシキシマさん? ここに来るまでの勢いないじゃないですか」
桐花は敷島の投げる鎖を避けながら余裕の笑みを見せる。
「どうしたとはこっちのセリフだ。どうして突然魔力制御できるようになった?」
「わかんないけど、わかってても教えないっての」
桐花はチラリとつくしの様子を見る。綱状の攻撃を避ける様は敗戦ギリギリの防戦一方だった。敷島の能力を見極めている時間はない。桐花は勝負に出ることにした。
今の自分にならできるかもしれない。そんな自信を抱きながら。
敷島は桐花の動きを封じようと鎖を投げつけた。そして桐花が避けようとする直前に二又に分ける。それでも桐花は避ける。むしろ避けて当然だ。桐花は魔力の八割を感知に割いていたのだから。
「どうした? そんなにわたしを見たって何もないぞ」
「それはシキシマさんだからでしょ。一緒にしないで」
避け続ける桐花に不信を抱きつつも抱いたところでどう対処すればいいかわからない敷島は三又の鎖を桐花に向け、四又にした時だった。
後ずさりしていた桐花は四股にした瞬間に鎖に向かって微量な魔力をまとった手で手刀を繰り出した。すると鎖は簡単に千切れ、さらに消滅した。
あんなに攻撃力のない技でどうしてと戸惑っている間に桐花は三つの光球を手から発して敷島に向けた。またほとんど魔力を持ってない攻撃で初心者でもはじけそうなくらいだ。挑発が目的と思われても仕方がない、それくらいひどい攻撃だった。
直接当たってもダメージなんてないと判断し、敷島は攻撃を仕掛けようと再び鎖をつくるために魔力を溜める。そして桐花の放った光球は敷島の肩辺りに当たった。
一つ目と二つ目は猫パンチ程度のダメージと言えないようなものだったが、三つ目は違った。
スイッチが切られたかのように急に魔力を失い、敷島が気づいたときには桐花の高魔力の光球を腹にくらっていた。徐々に敷島の瞳は紫から深い茶色に変わっていく。戸惑いの中で。
「どう……して? いったい何をしたの?」
「教えてあげなーい。と言いたいところだけど、種明かししたところで防ぎようないから手短に教えたげる。魔法にも魔法使いにも穴はあるってこと」
「そ、そんな、そんな話聞いたことない」
信じられないといった感じで力なく言う敷島に桐花はウインクをして背を向けた。
ありえない、でももしかすると、ありえないもしもが魔力制御を身につけた桐花ならやってしまうかもしれないという恐怖感が敷島を襲う。
「美香紗さん、明石に気を付けて!」
「だから気を付けようがないんだって」




