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恋愛魔法はじめました。  作者: 奈屋一郎
入佐ツインズ
13/36

2-6 勝敗

 いざ最終ラウンド。

 桐花と太秦は最大の集中力を持ってジッとつくしを見つめる。桐花と太秦の顔は強張っていた。太秦に最初の頃の余裕などなかった。この戦いに負けると都落ちし、最悪は入佐会を脱会しなければならなくなる。何より明石桐花という路傍の石に負けるなんてダイヤの原石と自負する太秦青海としてのプライドが許さない。だが可能性が徐々に増していっている。そしてつくしに対する恋心の減少も気がかりだった。

 桐花は太秦とは違った緊張だった。不安からではなく、自分に対する期待。限界値まで貯めた魔力でどれだけつくしを魅了させられるだろうか、という力みからの緊張。

 二人の発する緊張感に思わず息を飲み普段以上に開始の合図まで間を取ってしまう竜田。

 ぽりぽりと顔をかいて何もない中空をみつめる常陸。

 まだですか? の「ま」をつくしが発声すると同時に竜田の凛と張った「はじめ」が教室内に響いた。

 待ってましたと言わんばかりに早速声を発したのは太秦だった。「はじめ」の「め」と少し被るくらい食い気味でつくしに訊ねた。

「つくしってさ、どういう女の子がタイプ?」

「それを探るのが恋愛魔法使いじゃないですか」

 呆れた様子でつくしは返した。そんな答えを予想していたのか太秦は動じず微笑を浮かべる。

「わかっていてもつくしの口から聞きたいのよ。本当の気持ちと言葉は違うでしょ」

「面白そう。つくしの言葉は気になる。時間ないから早く言って」

「ええ? 桐花さんも乗っかるの? えっと、えっとですね」

 アドリブの利かないつくしに桐花は早く答えを出せと揺さぶる。

「じゃ、顔と性格どっち?」

「顔かな?」

 すかさず太秦の目が紫に変わる。つくしの好きな目を感知魔法を使い、つり目よりもたれ目と感知し、外見魔法でほんのわずか、一ミリにも満たないくらいの角度をつける。

 しかし桐花は何の魔力も使わずただつくしを見つめるだけだった。自信に満ちた表情で。

「明石はあれだけ魔力貯めてたのに出し惜しみ?」

「馬鹿言わないでよ。素のあたしの顔ならあんたの外見魔法を使った顔面に勝てるから何もしてないだけよ」

「確かに桐花さんの方がかわいいです」

 うんうんとつくしは納得しながら首を振る。負けていられないと太秦はすぐに質問を繰り出す

「じゃ、じゃあさ胸は、胸はどっち!?」

「おっぱいはできれば大きい方が良いですけどおしりのが興味あります」

 太秦は桐花の体をちらりと見て微笑んだ。

「残念ね明石。バストとヒップ共にあんたの程度の低い外魔じゃどうあがいてもあたしのナイスプロポーションには勝てないわ」

「その顔面じゃ宝の持ち腐れよ」

「はあ? そんあ貧相な体じゃ男と間違われるんじゃない?」

「こんなかわいい男いんのか!」

 桐花はそう言いながらも劇画チックに顔をゆがませながら、球体の戦闘魔法を繰り出し大ぶりで振りかぶって太秦に投げつけた。溜めた魔力の半分を消費したそこそこ本気な攻撃。イライラの限界を超えついついやってしまった大技。

 それは太秦の右横。人二人分くらい外れて消滅した。

 全くの暴投。制御という言葉を知らない、ただ全力で投げただけの攻撃。当たれば御の字だが、当たらなければ馬鹿な浪費だ。

 肩で息をする桐花をみて太秦はほくそ笑む。

「つくづく馬鹿ね。明石の戦魔の成績ってBでしょ。それでこんな近くにいて当てられないなんてありえない。やっぱ外部審査の点数なんて参考程度と考えた方がよさそうね」

「うるさいわね。ちょっと外しただけで何言ってんのよ」

「それでちょっとと言えるなんてすごいノーコンね」

 すっかり二人だけの世界に入り込んでおざなりにされたつくしは、寂しそうにうつむく。

 つくしを取り合っているのにそのつくしが暇を持て余すなんてありえない状況を見かねて、竜田は声を上げた。

「青海! 集中して。今がアタックチャンスよ」

 その言葉を聞いて太秦は集中しなおす。今はいくら腹が立とうが桐花と言い争っている場合ではない。桐花から目をそらし、つくしを見つめたまま太秦はゆっくりとつくしに近づく。

「つくし。わたしって本当に明石よりイケてないかしら?」

 その言葉に吸い寄せられるように視線は口元に移す。

 健康的な赤さ、甘い果実のような弾力があり柔らかさも兼ね備えていそうなふくらみ、湿っていて艶やかで今にも奪ってほしそうに突き出されている。そんな唇を見てつくしは息をのむ。

 触れてみたい。重ねあってみたいという感情が頭を支配する。

「容姿なんて関係ありません。太秦さんの唇は芸術品でむしろおっぱいよりもおしりなんかよりも性的だ」

 その言葉を引き出せたことに満足して太秦は微笑む。そして首をくいっと少し動かしただけの軽い投げキッスをして後ろに下がってつくしから距離を置いた。

 感知魔法で軽くつくしの親愛度を確認する。八対二で太秦に寄っていることを確認し、安堵の息を太秦は漏らした。

「決闘が終えて勝ったらちゃんとした投げキッスしてあげる。だからちゃんと見てて。わたしの全力」

 やはり桐花を叩きのめしたいという感情、そして残り一分もない状況を考え、このまま戦闘魔法で桐花のアピールタイムを与えないことが勝率を上げると考えた太秦はすぐに攻撃を繰り出した。

 青いレーザー光線状の攻撃を両手から操出し、桐花に向ける。しかし桐花はその攻撃を難なく避ける。レーザーと言っても速度は八十キロほどだ。避けれない速度ではない。それにいつも高倉の攻撃を向けられているのだから段違いにレベルの差がある太秦の様子見の攻撃なんて怖くもなんともなかった。

「時間稼ぎのつもり? そんなヌルイの当たるわけないじゃん。当たれば痛そうだけど」

 速度が遅い分攻撃力を高めているのか、かなり硬度が高そうだと桐花は見積もる。

 外れたレーザー光線状の攻撃は二メートルほどの長さを残して桐花の左右の壁に突き刺さったままで消滅しない。外した攻撃を残したままにしておくとその分魔力を消費してしまう。ということはこの攻撃は無価値になったわけではなく、まだ使い道はあると太秦は思っているのだろう。これにいい予感がしない桐花はこちらからも仕掛けようとしたが、太秦はすかさず攻撃を繰り出してきた。

 今度は一回だけではない。連続でレーザー状の攻撃を繰り出す。今度は桐花に向かってではなく、桐花の左右と頭上をめがけていた。そのレーザー状のものは桐花の左右上に刺さり、桐花の行動の自由を奪う。

 前になら進めると勢いよくダッシュしたが、桐花の視界の右側からレーザー状の攻撃が飛び出してきたので急ブレーキをかける。が、止まった瞬間にそのレーザー状の攻撃は横向きのまま桐花に向かってきた。桐花の首に当たりそのまま壁際まで引きずられる。更に同じように横向きのレーザー状のものが桐花の肘と膝の辺りにきて、桐花の動きを固定する。

 桐花は当たった衝撃で喉が痛く咳をしたいがそれすらもできないほどに締め付けられ顔をゆがめる。魔力を発するのに効率がいい手と指を封じられ、息も苦しい。さらに残り時間は四十五秒とかなり少ない。体と声を封じられたこの状況は絶望的だ。

 だからといって太秦も決して余裕などしない。

 全部で十本のレーザー状、ではなく硬度のある棒状の戦闘魔法を維持するにはかなりの魔力を消費する。桐花の拘束に無駄な部分はそぎ落とす。少しでも魔力の消費を抑えるために十本の攻撃に最大の集中力を注ぐ。

 桐花のうめき声と時計の秒針だけが教室内に響く。

 過ぎていく時間の中、桐花は苦しみながらも拘束から逃れようと手足をバタつかせるも、抜け出せる雰囲気は全く感じない。

 あまりにも苦しそうな桐花の様子を見て、つくしは桐花の状況が気になり、太秦に背を向ける。恋愛魔法を使えないと桐花の置かれた状況がわからないため、瞳を紫に変えた。そして桐花の拘束された状況を確認すると目を伏せるようにして瞳を元の色に戻した。ずっとは見ていられなかった。苦しそうな状況の桐花を見ることすら嫌なのに、その原因である魔法まで見るとさらに辛くなってしまう。

 こんなものは拷問だ。

 つくしは怒りをにじませる。真剣勝負だからやりすぎることもあるだろう。だからと言ってここまで苦しめる必要はあるのだろうか。恋愛魔法を使えるとむやみに知られてはいけないという桐花の助言を思い出し、助けるための魔法を使うことはもちろん、太秦に攻撃を緩めるようにとも言えない。

 何もできない自分にもいら立ち、怒りを覚える。

 桐花を助けるための力があるのに環境が邪魔をする。その環境を変えられない、変えることを恐れている自分の弱さが情けない。

 魔法以外で何かできないものかと思考を巡らし、太秦に攻撃を制止させる言葉をかければいいと思いつく。単純につくしは桐花を苦しめると嫌いになるなんて言葉を思いついたが、そんな言葉をかけたところでそれは嘘なので感知魔法を使われるとすぐにばれてしまう。桐花を追い詰めた太秦の戦闘魔法につくしは惚れてしまっている面があるからだ。

 恋愛魔法は精神攻撃なので、息を止められる妄想を与えているだけで死に至る可能性は低い。だからと言って死に至らしめるような攻撃を四十秒近く与えられるのは悲惨だ。

 どうにかできないものかと無い知恵を絞りだそうとするつくしの耳にわずかな声が届いた。

「いつか……いつか…………」

 魔法に集中しているからか距離が遠いからか太秦には聞こえていないようで彼女の様子に変化はない。つくしは太秦に気づかれないように耳を澄ます。苦しみながら、それに残り僅かな時間で恋愛魔法の天才と自称する彼女が何を言うのか興味があった。

「思う存分…」

 だが口の動きと好感度の変化で桐花が話せていることに気づいた太秦は力を強め、更に首を圧迫する。

「この状態で喋れるなんてなかなかやるじゃない」

 更に顔をゆがませ言葉が詰まる桐花。それでもまた口を開く。すべての力を振り絞るようにして。

「あたしはあさひさんみたいにはならない」

「桐花さんどういうことですか」

「思う存分つくしが魔法を使えるようにしてあげたい」

 喉だけではだめだと太秦はさらに手からレーザー状のものを繰り出し桐花の腹にめがけた。

「だからあたしと一緒に、っぐ。ぐふぁ」

 腹に命中するレーザー状の攻撃を何度も何度も鐘を打つように打ち付ける。

「だまれ! お前は静かにしとけばいい!」

「やめて青海!」

 竜田が声を上げるも太秦の攻撃はやまない。攻撃すれば桐花は話ができない。話すことは好感度を上げることにつながる。内面魔法を用いられた場合逆転だってありえてしまう。攻撃こそが最大の防御。手を緩めることは敗北につながる。それがいくら残虐で非情であっても、これは決闘なのだから全力で再起不能に追い込むくらいの気持ちで挑まなければこちらもやられてしまう。

 太秦は必死だった。だがその必死さが仇となった。

「やめてってば青海! 攻撃すればするほど好感度が下がってる!」

「えっ?」

 戸惑いと共に攻撃を止めたあと、一瞬の静寂にタイムアップの「ピピピ」という機械音が教室に響いた。

 魔法が解け、壁際に力なく倒れる桐花。それを見て駆け寄るつくし。

「大丈夫ですか、桐花さん」

脱力した桐花の体は重く、顔からも生気は感じられない。

「あたしの心配はいいから。それよりも勝敗よ」

 つくしはジッと太秦をにらむように見つめて宣言するように、疲れた桐花の耳にも届くような大声で言った。

「僕は桐花さんが好きです!」

 その言葉を聞いて桐花はニヤリと笑った。

 ショックでその場に座り込む太秦を横目に、竜田はつくしに問いかけた。

「どうして途中で好感度が逆転したの? 最後の最後で攻撃すればするほど青海を嫌いになった理由を教えて? 明石さんが何か言ったの?」

「僕は太秦さんを嫌いになってなんかいません。それに桐花さんの言葉は確かに興味深いですけれど、それだけで好感度が逆転しません。桐花さんの勝因、それは巨乳声なのに貧乳だからです」

「はあ?」

 どういうことと竜田は目を見開く。

「桐花さんは外見魔法で巨乳っぽいセクシーな声に変えました。貧乳なのに巨乳な声という不憫さ、そしてズタボロにされてもなお僕を愛する健気さ。それがツボに入りました」

「桐花は感知魔法でつくしの弱点を見抜いた。この勝負はそれだけのこと」

 いきなり会話に入ってきた常陸はぶつぶつと言葉をつづける。

「桐花の恋愛魔法がウズマサンより優れていただけのこと」

 呆然として座り込む太秦はため息交じりに竜田に話しかける。

「もしかするとわざとわたしにボロボロにされたのかも」

「まさか、とは思うけれど、それが勝敗に関係しているのだからありえないとは言えないわね」

 竜田はぐっと太秦の手を持って引き上げる。

「大丈夫。私は青海から離れない。だからまた会長を目指いしていきましょう」

「夏衣、ありがとう」

 太秦と竜田は顔を上げ、明石会に一礼してから、まだ起きない敏馬を起こした時だった。

 教室の扉が勢いよく開けられ、そこには同じ顔の少女が二人立っていた。

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