32話のサイドストーリー:牧原係長
牧原係長 視点の物語です。
32話内、一穂たちとのやり取りのあとの姿です。
長谷川さんの背中を見つめながら、一歩も動けず立ち尽くした。
「部長じゃなくても……か……」
あの子の言う通り。
結婚は地位や年収でするものではない。
私は、いつからこんな嫌な女になったの?
「いっそ、清々しいわね……」
そう呟いたそばから、視界が潤み始めた。
本降りになった雪のおかげで、私を気に留める人もいない。
とぼとぼと歩いていると、「牧原係長?」と聞き慣れた声が耳に入る。
顔を上げると、私の頭上に傘を差し出す村瀬君が不思議そうな表情を浮かべていた。
「村瀬君……。あ、私、システム部の人と接触するなって……」
「あはは、係長は真面目だな。プライベートな時間なんで大丈夫ですよ」
「……へ?」
思わぬ答えに気の抜けた声を出す私を前に、村瀬君は深々と頭を下げた。
「先日はご迷惑をおかけしました」
「……いえ、一人で空回りして、ごめんなさい」
「俺がいけないんです。部長の用意してくれたファイルに目を通していれば、牧原さんが会社に来る必要もなかったんですから」
こんなに責任感の強い子だったなんて……。
私は、何も見えていなかったのね。
「ありがとう。私……どうかしてたのよ」
「いえ、日ごろからクライアントと接してる営業さんだからですよ。それにあの時、電話をかけたことだって無駄じゃなかったんです。クライアントから、対応が手厚いという意見もいただいたんですよ」
「え……うそ……」
村瀬君は、フッと柔らかく笑った。
「一番最初に契約を取って来てくれるのは、いつも牧原さんです。だから、クライアントが何を求めてるか、分かったんですよね。
俺、営業さんたちの努力を無駄にしないように、気合を入れ直しました!
これからも、よろしくお願いいたします!引き留めてすみませんでした。この傘、使ってください。じゃあ、お疲れ様でした」
去っていく村瀬君の背中を見送りながら、呆然と立ち尽くす。
渡された傘の柄を持つ指先に目が留まる。
剥げたネイルと、かさかさとささくれだらけの手。
「こんなの……全然私らしくない……」
どうしてこれほど、長谷川さんに執着したの?
自分の中に、何かに縋りたいという甘えがあったのだろう。
鉄の心なんて、存在しなかった。
誰かに張られたレッテルのせいで、本来の自分を見失っていたのかもしれない。
弱くたっていいのよ。
縋りたいって思ったっていい。
これが私なんだから!
シャンと背筋を伸ばして、口角を上げた。
「よし!この不始末を挽回して、もう一度、出世を目指すわよ!!婚活だって、やってやるんだから!」
きゅっと拳を握り締めて、力強く歩き出した。
読者の皆様の応援のおかげで、ここまで書き切ることが出来ました。
「勇者とお見合い」を皆様と一緒に作り上げることができたことを、心から感謝しております!
幸せな時間を、本当に本当にありがとうございました!
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さて現在、新作ラブコメの執筆中に入っております。
準備でき次第、公開いたします。
またお会いできる日を、心から楽しみにしております!
夏生たえ




