1話 出会い
「お見合い!?」
年の瀬も押し迫った十二月のある日。
仕事終わりにスマホを見ると、母からメールが届いていた。
『年末年始、こっちに帰ってくるんでしょ?ついでにお見合いしなさいね 母』
どこからツッコミを入れるべきか分からない。
震える指先で、画面をタップ。
スマホから、のんきな母の声が響いてきた。
「お母さん、お見合いってなに?勝手に決めないでよ」
「あら、一穂。決まった相手いたっけ?」
ぐっ。
いません。
杉野一穂、「彼氏いない歴=年齢」を更新中です。
「最近は、ネットで相手を探すらしいじゃない。お見合いと変わらないでしょ?」
「いやいや。マッチングアプリは、お互いのプロフィールを見たり、やり取りをした後に会うんだよ」
「やけに詳しいわね。大丈夫よ。経歴は教えてもらってるし、ちゃんとした人よ」
どこがどうちゃんとしてるのか、教えてほしい。
けれど、そうたずねれば、乗り気だと勘違いされかねない。
「わたし、仕事辞めるつもりないし、そっちの人とお見合いなんて……」
「お相手も、東京で働いている人なのよ。お互い帰省した時にどうかって、誘われたの。家にいても、食っちゃ寝してるだけなんだし。会ってみて嫌なら、断ればいいのよ」
「そんな……」
言葉を続けようとした瞬間、電話の向こうで実家のインターホンが鳴った。
「あら、誰かしら?じゃあね」
ツーツーツー……
「ああ、もう!」
乱暴にスマホをポケットにしまって歩き出す。
色とりどりのライトが街路樹を彩る。
今年のクリスマスも一人かと、今朝まで気持ちが塞いでいた。
けれど、いざこうなってみると、全く嬉しくない。
私は誰かと生きていくのは無理っぽい。
二十九歳で極論すぎると言われるかもしれない。
けれど、これには根拠があるのだ。
後輩に勧められて、マチアプを始め、会うことになったけれど話は弾まず。
昼食代を半分支払って帰る。
そんなことが三度も続いたのだから。
今年分の勇気はすでに尽きた。
とはいえ、時々、マチアプを覗いてみている。
きっぱりと「一人で生きていく」と決めきれない、往生際の悪さ。
だったらなぜ、もっと早くに動き出さなかったのか……。
今更になって悔やまれる。
「帰省したくないな。でも新幹線のチケット取っちゃったし……」
憂鬱な気持ちに追い打ちをかけるように、びゅーと北風が吹く。
気分転換しようと、髪を短く切ってしまったせいで、冷たい風が首元に直撃。
寒さから逃れるように、目についた通りの本屋に足を踏み入れる。
暖められた空気と、本の匂い。
そう言えば、本屋なんて久しぶり。
一人暮らしをするようになって以来、漫画アプリでしか読まなくなった。
引っ越すとき荷物になる、という理由から始めたけれど、
年を重ねるごとに、漫画ばかり読んでいる自分を隠すためのものとなっていた。
アプリのMy本棚には、ちゃんと小説も並んでいるのよと、言い訳がましく思ってみる。
ふと目に入った少女コミックの表紙。
更新日を待ちわびている作品だ。
実物はこんな感じだったんだと、小さな感動が胸に湧きあがる。
スマホの小さな画面で見たときよりも、きらきらと輝いて見える。
どうしよう。
買っちゃう?
そう悩んでいた時、誰かの腕が背中をかすめた。
「すみません」
低い声が短く響く。
「いえ」
そう言って、振り返る。
通り過ぎた相手の腕には、大量のコミック本。
チラリとみえた表紙には、マントを翻すヒーロー。
こてこての少年漫画を、堂々と大人買いするなんて……。
「勇者だ」
本音が口から漏れた。
どう見ても私より年上。
ピシッとしたスーツ姿に、ビジネスバッグ。
迷いのない足取りでレジに向かう男性。
もし取引先の社員だったら好印象の部類。
羨望の眼差しを向けたと言っても、「私も!」とは思えず……。
書店おすすめの小説を一冊手に取ると、会計の列に並ぶ。
あと一人で自分の番だという時。
勇者はずっしりと重そうな紙袋を下げて、こちらに向かってきた。
先ほど、好印象だと思ったことを撤回しなければならない。
彼の顔面は、死線を潜り抜けた殺し屋のように鋭かったのだから。
お読みいただき、ありがとうございます。
全4話の短編です。
本日から、毎日21時10分に更新します。
※追記:9月21日 予定の4話を越えて更新中です。




