クレーマーキラー
カスハラだとかなんだとか世間では取沙汰されているが、いまいち納得がいかない。
こっちは税金差し引かれた少ない給料から絞り出したなけなしの金を払ってものやサービスを買ってんだ。
むしろ、クレーム入れてやってるだけありがたいと思えよな。
俺が言わなきゃ、お前らのその三流以下のサービスや商品は永遠にそのままなんだぞ?
グローバルなご時世だ。そんなんだから日本の国力は上がらないし、出生率もGDPも上がらない。
甘えたヤツらがたくさんいるせいだ。
だから、俺は今日もクレームの電話をかける。カスハラなんかと一緒にされちゃ困るぞ? 俺は世のためにやってんだ。
「この通話はサービス向上のため録音されています」
最近はこれだ。ハラスメント対策なんだろうが、俺には関係ない。俺が正しいから。
「こんにちは。どのようなご用件でしょうか?」
「あのなー! あんたんとこの飯屋の店員、教育がぜんっぜんなってねえぞ?」
「は、はあ」
「注文は間違えるわ、出すのは遅いわ、舐めた態度取ってくるわの三拍子だ! こっちは大切な人との食事を楽しもうとしてたのに、台無しだ!」
「それは……」
「なにか文句でもあるのか?」
「……」
「店でも直接言ってやったし、アンケートにも記入したけどなあ! 本社はここだろ? 元が腐ってるからあんなんが出てくるんだ! しっかりやってくれ!」
「……」
「聞いてんのか? しかも、返金は受け付けないって言われたんだ。こっちの寛大な気持ちを踏みにじりやがってよ! どうしてくれるんだ?」
「……」
「どうしてくれるのかって聞いてんだけど? どういう補償があるんだ? まさかないのか? なければSNSにこの内容を公開する。俺みたいな被害者を増やさないための注意喚起だ」
「……もういいかな」
「は?」
「山田雄大62歳」
「……え?」
なぜ俺の名前を?
「東京都品川区の……あれ? もしかして違うとこから繋がってる?」
俺の住所!?
違うとこ? 何を言ってるやがる?
「あー……はいはいはい。なるほどね。転移座標はここか。たまにいんのよあんたみたいなの。ご愁傷様」
女がそう言うと、電話はプッと切れた。「この野郎……舐めてるな」
いいだろう。この店のことをすべてネットに晒してやる。ちょっと盛れば炎上するだろう。後悔するがいい!
俺はPCのある机に向かうべく、振り返った。
「ん?」
なんの変哲もない俺のアパートの部屋。その見慣れた空間に、縦に亀裂が入っていた。
青白い光を発して、それは佇んでいた。
「なっ、なっ……!?」
唖然としていると、そこから何か、腕が伸びてきた。
腕は巨大で、毛深く、丸太のよう。まさに剛腕。手には長く太く尖った爪が生えている。一目見ただけで本能が震えあがった。
虎のいる檻の中に放り込まれたような……そんな気分だった。
やがて顔や足も出てきて、その全貌が露になった。
真っ黒な目が六つある仁王像。そんな生物が……生物なのかもわからないが、天井に頭をぶつけながら、俺を見下ろしている。
「た、助け――」
懇願すると、そいつの両手が伸び、俺は掴まれた。小動物でも持ち上げるみたいに。
「うっ」
凄まじい力が込められ、内臓が圧で潰れ、骨という骨が砕けた。
信じがたい激痛が走ったが、俺の意識はかすかに残っていた。
六つ目の仁王はそのまま、青白い光を放つ亀裂へと向かった。
「や……やめろ……」
亀裂に入ると、青い光に包まれた。中はドロドロした海中トンネルを進んでいるような景色だった。俺は運ばれ続け、逃れる術はなかった。
どこへ行くんだ?
俺が悪かったから、もうしないから。
許してくれ。頼む。お願いだ。




