告白
わたしは、わたしの告白にすら無反応の諏訪さんに、続けて語りかけた。
「………もし蹴人くんがわたしの願いをかなえてくれたら、きっと諏訪さんは、意識が戻ったあと、……浅香さんと幸せになるんですよね」
それは、わたしが願ったことだ。
正確には、わたしが蹴人くんにお願いしたのは ”大切な人の幸せ” だけど、諏訪さんの幸せなんて、浅香さんとの結婚に決まってるもの。
わたしはそれを覚悟して蹴人くんに頼んだのだから。
「……そうなったら、もうお二人の邪魔をしたりしません。でも今なら……、まだわたしの気持ちを伝えても、許してもらえますよね……?」
わたしは、諏訪さんにもっと近付いて、その手に触れた。
両手で握り、そこに温もりがあることに安堵し、はじめてつないだ諏訪さんの手に、思っていた以上のたくましさを感じた。
わたしが握っているのに、諏訪さんに包まれているようにさえ感じてしまう。確かにそんな大きさがあった。
意識がない状態にもかかわらず、それでも諏訪さんは、わたしが片想いしていた、頼りがいがある先輩の面影を残しているのだ。
「諏訪さん……、わたし、諏訪さんが好きです」
手を握ったまま、もう一度告げる。
眠っている諏訪さんに聞こえている確証はないけれど。
でも、今なら気持ちを伝えられると思ったから。
今打ち明けられたら、そこはかとなくはびこる後悔を、払拭できるような気がしたから。
「好きですよ、諏訪さん……。………大好き」
何度めかの『好き』を口にした、そのときだ。
「――――っ?!」
わたしは喫驚のあまり、ヒッ、と息を逆流させてしまった。
そしてそのままじっとして、様子をうかがう。
「………す、…諏訪さん?」
恐る恐る名前を呼ぶも、ベッドからの返事はなくて。
でも確かに、確かにわたしの手の中で、諏訪さんの、指が、動いたのだ。
それは、動いたというよりも、震えた、くらいの微かな動作だったかもしれない。
けれど間違いなく、わたしの手のひらは感じたのだ。
諏訪さんの指の動きを。
「諏訪さん……?」
もう一度、その整った顔を注意深く見つめながら名前を呼んでみた。
すると、
…………ツン、と、やっぱりわたしの手に刺激があったのだ。
「諏訪さん?!」
わたしは今度は手の方に意識を変え、じっと見ながら諏訪さんに語りかけた。
「諏訪さん、もう一度!もう一度動かしてください!」
ものすごい速度で急く心を窘めつつ、でも早く早くと焦りながら。
わたしの勘違いなんかではないことを確かめなくちゃ。
この目で見て、確信して…………
「諏訪さん?お願いです、さっきみたいに指を動かしてください」
静かだった病室に、わたしの懇願が広がっていく。
「―――――――諏訪さんってば!」
期待と焦りで気持ちが走ってしまったわたしは、大きな声で求めていた。
諏訪さんを。
けれど、諏訪さんからは何の反応もなくて。
………………そうよね、そんな急に意識が戻るなんて、あるわけないわよね。
やっぱりわたしの勘違いだったのかと、高まっていた鼓動を落ち着かせようと諏訪さんの手を離そうとした、その瞬間―――――――――
「ん…………」
声とも吐息とも感じられるものが、ベッドから聞こえてきたのだった。




