れっつ、ぶんかさい Ⅲ
「ごめんなさいってー」
半泣きの声で耳元で叫ぶな。鼓膜が振動する。って、当たり前か。
「あっち向いてホイとか、もはや運じゃないですかー。あれで全勝するのは、皐さんと睦くんくらいですってー。ごめんなさいー」
「だから、もうどうでもいいから。ちょっと運が足りなかったんでしょ、普段の行いのせいで。それくらい百も承知」
「あ、普段の行いが悪いのか。なるほど。どこを直したらいいですかねー」
知るか、私に聞くな。というか、その反応は素直すぎるでしょう。
「まあ、結果一等賞だったし。その景品は私の大好きなアニメのポスターだったし」
「よかったですねー」
「うん。……そっちは、何でそれを選んだの」
一等だからと、景品は全部の中から好きなものを選ぶ形式だった。それで、私はポスターを二等のところから発見したんだけど、この人が選んだのは、一等のところにあった、明らかに手作りのブレスレット。しかも、淡いピンク色。
「だって、一年生の子たちが一生懸命作ったものでしょう? 他のどんなものより、輝いて見えたんです。そうしたら、欲しくなってしまって。……あ、でも、一番いい景品は、皐さんの選んだものだと思いますよ」
……やっぱり、いい奴。つくづく思うけど、どんだけいい人間なのか。
「あ、次はどこに行きましょうか」
そう、こういう気遣いも、ごく自然にやってのける。
「行きたいところ、ないの」
いつもより、ほんの少しだけれど、優しい声になる。でもまあ、今までの経験上すぐに戻る。
「いえ、ありますけど」
「じゃあそこ行こう」
「でも、皐さん、きっと嫌がると思って」
「……そんなに変な出し物をやっているところがあるの?」
「場違いなものは、一つもありませんけれど」
「だったら何で?」
「きっと、きっと怒るんじゃないかなあ、と」
「……もう、どこでもいいから」
「本当に?」
「遠くないなら」
「絶対に怒りませんか?」
「いいって言っているの」
「本当に、ですか?」
「早く」
「ごめんなさい分かりました、こっちです」
と言って私の手をぐいぐい引くのはいいんだけどさ、痛い。地味に痛いよ、これ。でも、まあ、今は気分がいいから、許してやる。
そうして着いたのは、突き当りの教室。二年一組か。一体どんな出し物をしている……え?
「皐さんと、来たかったんですよ。ありがとうございます」
「いや、何でですか」
「それは何でですか」
「こっちが聞いているから。私が典型的な女の子だと思った?」
「いえ、違います。ただ、その、ドSの人って、実は怖がりっていうのが付き物だと思っているので。大丈夫、なんですか?」
そういう問題じゃないでしょ。
「じゃあ、どういう問題なんですか?」
何も言っていないから。
「ああ、そうか」
「だから、何も言ってはいないから。何で私が嫌がるの。むしろ好きだけど。ほら、こういうのに出てくるお化けとかって、無様な死に方をした人とかっていう設定でしょ。想像するだけで笑えてくる」
「え、じゃあ、血とか、グロいのは……?」
「え、何。今すぐ見せてくれるの」
「謹んでご辞退させていただきます」
「遠慮しなくていいよ。……それで。さっきの『それは何でですか』の意味は?」
「えーっと? あー、はい。皐さんが丁寧語を使ったので、驚いたと言いますか、はい。驚きました」
「……まあ、何でもいいや。さっさと入ろう。時間が無くなる」
「そうですね!」
「うきうきした声を出すな。気分を害する」
「はっ、申し訳ないでしたですっ」




