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596日目の告白  作者: ゆか
夏休みも明け…
12/30

れっつ、ぶんかさい Ⅲ


「ごめんなさいってー」

 半泣きの声で耳元で叫ぶな。鼓膜が振動する。って、当たり前か。

「あっち向いてホイとか、もはや運じゃないですかー。あれで全勝するのは、皐さんと睦くんくらいですってー。ごめんなさいー」

「だから、もうどうでもいいから。ちょっと運が足りなかったんでしょ、普段の行いのせいで。それくらい百も承知」

「あ、普段の行いが悪いのか。なるほど。どこを直したらいいですかねー」

 知るか、私に聞くな。というか、その反応は素直すぎるでしょう。

「まあ、結果一等賞だったし。その景品は私の大好きなアニメのポスターだったし」

「よかったですねー」

「うん。……そっちは、何でそれを選んだの」

 一等だからと、景品は全部の中から好きなものを選ぶ形式だった。それで、私はポスターを二等のところから発見したんだけど、この人が選んだのは、一等のところにあった、明らかに手作りのブレスレット。しかも、淡いピンク色。

「だって、一年生の子たちが一生懸命作ったものでしょう? 他のどんなものより、輝いて見えたんです。そうしたら、欲しくなってしまって。……あ、でも、一番いい景品は、皐さんの選んだものだと思いますよ」

 ……やっぱり、いい奴。つくづく思うけど、どんだけいい人間なのか。

「あ、次はどこに行きましょうか」

 そう、こういう気遣いも、ごく自然にやってのける。

「行きたいところ、ないの」

 いつもより、ほんの少しだけれど、優しい声になる。でもまあ、今までの経験上すぐに戻る。

「いえ、ありますけど」

「じゃあそこ行こう」

「でも、皐さん、きっと嫌がると思って」

「……そんなに変な出し物をやっているところがあるの?」

「場違いなものは、一つもありませんけれど」

「だったら何で?」

「きっと、きっと怒るんじゃないかなあ、と」

「……もう、どこでもいいから」

「本当に?」

「遠くないなら」

「絶対に怒りませんか?」

「いいって言っているの」

「本当に、ですか?」

「早く」

「ごめんなさい分かりました、こっちです」

 と言って私の手をぐいぐい引くのはいいんだけどさ、痛い。地味に痛いよ、これ。でも、まあ、今は気分がいいから、許してやる。

 そうして着いたのは、突き当りの教室。二年一組か。一体どんな出し物をしている……え?

「皐さんと、来たかったんですよ。ありがとうございます」

「いや、何でですか」

「それは何でですか」

「こっちが聞いているから。私が典型的な女の子だと思った?」

「いえ、違います。ただ、その、ドSの人って、実は怖がりっていうのが付き物だと思っているので。大丈夫、なんですか?」

 そういう問題じゃないでしょ。

「じゃあ、どういう問題なんですか?」

 何も言っていないから。

「ああ、そうか」

「だから、何も言ってはいないから。何で私が嫌がるの。むしろ好きだけど。ほら、こういうのに出てくるお化けとかって、無様な死に方をした人とかっていう設定でしょ。想像するだけで笑えてくる」

「え、じゃあ、血とか、グロいのは……?」

「え、何。今すぐ見せてくれるの」

「謹んでご辞退させていただきます」

「遠慮しなくていいよ。……それで。さっきの『それは何でですか』の意味は?」

「えーっと? あー、はい。皐さんが丁寧語を使ったので、驚いたと言いますか、はい。驚きました」

「……まあ、何でもいいや。さっさと入ろう。時間が無くなる」

「そうですね!」

「うきうきした声を出すな。気分を害する」

「はっ、申し訳ないでしたですっ」


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