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596日目の告白  作者: ゆか
夏休みも明け…
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白雪姫と王子様


 あっつー。白雪姫の衣装、重ーい。

「……あ、いた。ねえ、皐。さっき変な被害届が、しかも僕に来たんだけど」

「どの被害を届け出られたの」

「え、どれだけ人様に被害を及ぼしているの」

「さあね、私って無意識のうちに他人を傷つけているらしいから。……で? どれだって?」

「あー、あのね。一年生の、何組か忘れたけどクラス企画で一人、気を失っているんだって。しかも吐血している」

「それは、私は悪くないよ」

「どういうわけ?」

「お化け屋敷のところでしょ。口に血糊をつけていたのが取れちゃったって、客が来ているのに小さく騒いでいたから、手ごろな奴から少し抜き取って口に放り込んでやっただけ。その味に驚いてちょっと眠っているんでしょ。だから吐血はしていないはずだし、抜き取られたほうからの被害はないんだから、そんなものは受け入れられません」

「なるほど。手ごろな奴って、つまりは」

 わかっているんでしょ、睦なんだから。

「あー、やっぱり日向君かー」

「ご明察。他に代わりがいる?」

「いないねえ」

「でしょ」

「えっとじゃあ、被害者ぶられても困りますって返しておいた僕は間違っていなかったね。了解。……あ、日向君の出番だ。見て来よう」

 いってらっしゃい。

 はあ。なんか、まだ劇は始まってすぐなのに、疲れた。今日は三回目だからか。だけど、これでおしまい。そう考えると、少しはやる気が出てきたり、しない。やっぱり面倒。

「……世界で一番美しいのは、あなたではありません」

 あれ、そんなセリフだったっけ。ちょっと違うけど、まあいいか。鏡の精が男な時点でおかしいし。

「それは、白雪姫と決まっているのです。この世の摂理です」

「何を言っているのかしら、この鏡は。そんなはずないわ!」

 魔女役の明弥ちゃんのアドリブ、うますぎる。よく言えたね、それ。

「誰が見たって、どう考えたって、白雪姫の方が若いし、肌がきれいだし、優しいし、かわいいです。だから、もう……」

(ガシャーンッ)

 これは、裏のほうで誰かが流している効果音だけど、多分、あんなことを言われたお妃様だったか義理の母だったか女装癖の抜けない奴だったか、まあ誰でもいいや。その人の心の音でもあるよね。ガラスハートだ。

「……なぜなの。確かに殺したと、そう思っていたのに。しぶとく生き残って。憎いわ、あの小娘。呪ってやる」

 とりあえず、家で地味に呪うのはやめてね。釘をカーンカーン、とかやられると困るから。一体何倍にして自分が返すのか、想像すらつかないほどだから。……あー、自分で自分が怖くなってきた。

「皐さあーん!」

「黙れ」

「はっ。……何か、すみません。お妃様にも怒られたばかりだったのに」

「何でセリフを変えたの」

「何となくです」

「何となく?」

「えっと、正直に言うと……」

「初めから正直に言えよ」

「ごめんなさい」

「もういいから。で?」

「口が勝手に動いていました」

「オカルトは信じない」

「だから正直に言わなかったんです」

「口答えするな」

「ごめんなさい」

「まあいいや。成り立ってはいるし、むしろ面白いし、私もアドリブ入れよう」

「ええっ? 相手によっては応用が利かなくて、ごたごたになりますよ」

「勝手に入れた人が言うセリフじゃないよね。それに、私が相手を選ばないわけがないでしょう。睦に対してだよ、当然」

「ですよね、よかった。……あ、出番ですよ」

 言われんでもわかる。よし、行こう。


(コンコンッ)

 小屋の扉をノックする音。これも、誰か効果音の係が出している。

「誰かしら。でも、みんなに決して出てはいけないと言われているから、出られないわ。どうしましょう」

 この口調、自分で言っていて吐き気がする。洸には似合っているって言われるけど。

「お嬢さん、良い品がありますから、どうでしょう」

「おばあさま、ごめんなさい。私、出られないわ」

「出なくてもいいの。ちょうど今、りんごを取ってきたのだけれど多すぎたから捨てようと思っていて。どうせならお嬢さんにあげたいと思って」

「でも、悪いわ。それに、人からものをもらってはいけないって言われているもの」

「じゃあ、半分こにしましょう。とてもよく熟れているから、ぜひ食べて欲しいの」

『シンデレラに断る理由はなくなりました。そしてりんごを食べた白雪姫は、そのまま倒れてしまいました』

 ナレーター、私たち兄妹にも負けない棒読みだよ。白雪姫をいたわる心はないんだね。

 ……いたっ。頭ぶつけた。床に激突した。倒れる演技、やりすぎた。

『その日の夕方』

「白雪姫ー!」

「ただい……」

「あれ?」

「どうしたのかな」

「家の前で」

「寝ているね」

「白雪姫?」

 七人の小人たち、早く来いよ、そんなことを言っている暇があるなら。思うけど言わない。現実じゃないからね。

『大変だ!』

『白雪姫が!』

『死んじゃった!』

「どうしよう」

 さて、棺に入る時がきたか。ああ、私って早死にだなあ。まだ十五歳です。

 ああ、でも。白雪姫って、七歳だっけ。ん、八歳を迎えた? まあ、どっちでもいいや。とりあえず、幼かったということで。

 それから、問題なく私の葬儀は行われた。まあ、埋めたくないとかいう小人たちの勝手なわがままで、最終的に私は天国にはいけないんだけど。

「小人さんたち、どうして泣いているんだい?」

 睦が来た。それにしても、どういう偶然だろうね。森の奥深くを通りかかるとか。

「王子様!」

「白雪姫が」

「死んじゃったんだ」

「せっかくだから」

「弔って行って」

「くれないか」

「王子様」

「これは……なんと美しい姫だろう。そうか。では、せめてお別れのキスをさせてもらおう」

 睦の顔が近づく。ああ、何でこんなにも似ているのだろう。二卵性だっていうのに、そっくりだ。もはや鏡。何でだろうなあ。

「……ぶふっ」

 睦が吹き出した。え、ちょっと。睦? アドリブ、先を越されたなあ。

「今、なぜ笑ったのですか?」

 きちんと、白雪姫らしい声で言う。

「申し訳ない。あなたの顔が、あまりにも僕に似ていたものだから」

「本当に、そうですよね。私も同じように思いました。これは……」

『運命以外の何物でもありませんね』

「王子様、結婚してくださいませんか」

「こちらこそ、お願いしたい。それでは、どうぞ後ろにお乗りください」

 睦が手を広げると、そこには馬がいた。白い画用紙をベタベタはっつけた段ボールをかぶっているのだが、それらしい出来である。

「ひ、ヒヒーン!」

 ……ああ、なるほど。中身はあの人か。ふっ、楽しくなってきた。もっと盛り上げよう。

「ところで、王子様。どちらへ?」

「……夢のかなたへ!」



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