食べられた
わたしは恐竜に食べられた。恐竜はわたしをぱくりと口に入れ、胃に収めると、イギリスの管楽器のような声で自己紹介をした。
こんにちは。ぼくは恐竜です。ティラノサウルスという種類です。ベジタリアンではありません。主に肉を食べます。走るのは遅いです。体が重いからです。性別は雄です。生まれて一年の若者です。あなたは美しい。愛しています。
わたしは最後の言葉に仰天して尋ねる。
愛しているなら何故わたしを食べるの?
恐竜の姿形は見えない。ここは暗く湿った胃袋の中。わたしを愛しているならこんなところに閉じ込めて、溶かしたりはしないはずだ。
恐竜は答える。
ぼくはティラノサウルス以外の物を愛すると食べてしまいます。美しい花、美しい草、美しい草食恐竜。皆、素晴らしい。ぼくは食べるものに妥協しません。素晴らしくないものは口にしたくないのです。ぼくは芸術家なのです。
わたしは困惑する。
あなたが芸術家なら、どうしてわたしはこんなに汚い場所で溶けていくの?あなたは愛するものが排泄物になるのを許せるの?
恐竜は笑う。
排泄物になる? あなたの一部はそうでしょう。しかしあなたの大切な部分はぼくの体になります。ぼくは素晴らしいもので体を構成されるのですよ。こんなに嬉しいことはない。
わたしは訊く。
わたしを助ける気はないの? こんなに悲しく辛い思いをしているのに。
恐竜は答える。
いいえ。ぼくは芸術家ですから、美しい物に感銘を受けても同情をしたりはしません。だってぼくは恐竜なんです。優しい恐竜なんかがいたら、彼はきっと生きていけないでしょうね。
わたしは口ごもる。恐竜が訊く。
どうしたんです?
わたしは答えられない。わたしは溶けて、溶けて、形がなくなっている。口がないのだ。答えられるはずがない。
どうして、どうして、とわたしは声もなく思い続けている。
《了》




