表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/10

食べられた

 わたしは恐竜に食べられた。恐竜はわたしをぱくりと口に入れ、胃に収めると、イギリスの管楽器のような声で自己紹介をした。

 こんにちは。ぼくは恐竜です。ティラノサウルスという種類です。ベジタリアンではありません。主に肉を食べます。走るのは遅いです。体が重いからです。性別は雄です。生まれて一年の若者です。あなたは美しい。愛しています。

 わたしは最後の言葉に仰天して尋ねる。

 愛しているなら何故わたしを食べるの?

 恐竜の姿形は見えない。ここは暗く湿った胃袋の中。わたしを愛しているならこんなところに閉じ込めて、溶かしたりはしないはずだ。

 恐竜は答える。

 ぼくはティラノサウルス以外の物を愛すると食べてしまいます。美しい花、美しい草、美しい草食恐竜。皆、素晴らしい。ぼくは食べるものに妥協しません。素晴らしくないものは口にしたくないのです。ぼくは芸術家なのです。

 わたしは困惑する。

 あなたが芸術家なら、どうしてわたしはこんなに汚い場所で溶けていくの?あなたは愛するものが排泄物になるのを許せるの?

 恐竜は笑う。

 排泄物になる? あなたの一部はそうでしょう。しかしあなたの大切な部分はぼくの体になります。ぼくは素晴らしいもので体を構成されるのですよ。こんなに嬉しいことはない。

 わたしは訊く。

 わたしを助ける気はないの? こんなに悲しく辛い思いをしているのに。

 恐竜は答える。

 いいえ。ぼくは芸術家ですから、美しい物に感銘を受けても同情をしたりはしません。だってぼくは恐竜なんです。優しい恐竜なんかがいたら、彼はきっと生きていけないでしょうね。

 わたしは口ごもる。恐竜が訊く。

 どうしたんです?

 わたしは答えられない。わたしは溶けて、溶けて、形がなくなっている。口がないのだ。答えられるはずがない。

 どうして、どうして、とわたしは声もなく思い続けている。

《了》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ