第1巻 第6章:結び目の点
星が3日後に消えると聞き、私は1日半の旅に出ることにした。
初日の半分は家族と過ごす。次に旅に出て、残りの時間でどれだけ遠くまで行けるか確かめる。計画は、荒廃した街で少し時間を過ごし、3日目に家族の元へ戻ることだった。
少し考えて気づいた。この短い物語は――人生そのものだ。1日目は誕生、2日目は旅、3日目は死。
誰も独りで死にたくない。おそらくだから、人々はそんなに焦ってパートナーを探すんだ。いつも成功するわけじゃないけど。
運命の赤い糸が、結ばれるべき相手とつなぐなら…結ばれない相手とはどんな色の糸でつながるんだろう? 見えればどれだけ楽か。
もしかして、私たちは赤い糸しか見えないから、他の人とは何もつながってない? そうじゃないといいけど。
これは、最近ユリエルと話したことだ。彼がそんな質問をするなんて変だと思った。でも、彼は子どもがそんな状況でどうするかを知りたかったって。ほんと、彼は時々めっちゃ変だよ。
でも、魔法の事件の後じゃ、彼を責められない。
能力を得ても、すぐに使いこなそうとは思わなかった。優先すべきことがたくさんあったから。例えば、歩くことや話すこと。1歳半でようやく最初の成果が出た。
半年後、足がようやく強くなり、支えなしで歩けるようになった。長くは持たないけど。前世の知識は、赤ちゃんの体の成長速度に影響しなかった。
でも、言葉は順調だった。毎日、一人で発音練習をしてた。難しかったけど、効果的。特に英語やドイツ語の言葉――前世で苦手だったやつ。「scissors」「rhythm」「sprechen」「Dach」みたいの。これらが難しい音を鍛えてくれた。
クイントとエミリアにそれを見られたときは、相当な光景だった。最初はびっくりして、笑い出したあと、私が独自の赤ちゃん語を作ったんだって思ったみたい。
正直、当たってる。どっちみち、無駄なスキルだよ。この世界じゃ誰も必要としてないものを半生かけて学んだんだ。こんな未来を計画してたわけじゃないけど…
まあ、いいか。
読むのも書くのも、まだできなかった。言葉の知識は、地元のぐちゃぐちゃした文字を理解する助けにならなかった。だから、本とかはまだいいや。
あとでやるよ。明後日とか。もう一日、考える時間を残して。
言葉にしにくい考えが、舌の先に集まった。そのとき思い出した――糸。記憶が正しければ、あの女の子は、糸が魔法に直接依存しないって言ってた。
ベッドに座り、足を組んで楽な姿勢を取った。軽い風が髪を揺らし、瞑想に深く入りやすくした。
どれだけ集中しても、あのときの感覚を捉えられなかった。心臓の音、息の音、お腹の鳴る音しか聞こえなかった。
まるで、あの女の子が魔法のマニュアルを残してくれても、今のページは空白みたいだ。
ため息をついたことに気づいた。
足の裏がチクチクした。何かが足から体に染み込み、手首に向かうのを感じた。私はゆっくり…
ぐぅ。
「ストップ、ストップ、ストップ! ダメ! ダメ! ダメ!」私は勢いよく立ち上がり、首を振った。
頰を叩いて目を大きく見開いた。指を見て――あった。小さくて、かろうじて見える。
大声で勝利の叫びを上げてジャンプした。足がしびれてたせいで間違いだった。ベッドに転がったけど、顔の笑顔は消えなかった。
「なんて無邪気な笑顔だ。君らしくないね。何かいいことあった?」
笑顔が凍りつき、息が止まった。全身の神経がピンと張った。
ユリエルが笑った。私の反応が面白かったみたい。
すぐに冷静を取り戻した。糸がまだ飛び出してる髪に手を入れ、もう片方の手で前を振った。
「な、なに…はは…いや…はは…なんで…ここに?」
ユリエルはまだ笑っていた。私が必死に手を振りながら後頭部を掻く様子が、めっちゃおかしいみたい。
その笑い声で、私は縮こまって頭を下げた。
「ああ、いいよ。クイントを見なかった? まあ…近くにいたら、そんなに喜ばないよね」
ユリエルはうなずいて、去ろうとした…けど、急に止まった。手のひらをドア枠に押し、振り返って、いつもの軽い笑みを浮かべた。
「知ってる? 魔法ってのは想像力なんだ…」
その言葉が、一瞬、部屋の外に連れていった。あの女の子の唇が、彼の唇に重なるみたいに。彼女の声と共に。肩が震えた。目尻に涙が溜まった気がして、素早く拭った。
彼女は、この世界じゃ魔法はグリモアのページに書かれたものだって信じてるって言ってたのに。なんで? なんで彼がそんなこと言ったの? なんで彼の言葉に君の声が聞こえた?
「どこから…つまり…はは…は…」
それは、オフィスワーカーの海で知ったシルエットを見かけたみたいな感じ。意味のあるシルエット。人ごみの密度で、近づく努力は無駄になった。彼女の姿はますます遠ざかり、蜃気楼のように消えていくのに。彼女だったのか確信が持てない。でも、心臓は胸で暴れ続けた。
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この状況に自分が飲み込まれたことが、いろんなことを物語っていた。私の感情は、子どもの精神を凌駕していた。肩を強く握りすぎて、痛みすら感じた。
何もなかったと言えば簡単だ。分かる。でも、今起こったことをどうやって説明すればいい?
私が何をやらかしたんだ?
ユリエルは部屋のドアを閉め、深呼吸するよう勧めた。彼の言う通りに、胸が上下するのに集中した。でも、あんまり効果なかった。私の肩に手を置き、向かい合って立っていた彼も、それに気づいたみたい。
重いため息をついて、彼は前髪をかき上げ、軽く肩を叩いて私に顔を上げさせた。
「ヨリ、ちょっとこっち見て」
「え…」
期待してなかった。この時間に、この歳で、こんなものを見るなんて。彼の指先から、ゆっくりと糸が伸び始めた。私のやあの女の子のとは全然違ったけど、意味は同じだった。まるで陽光に浴するように、自由に舞い、私の周りに輝く繭を作った。
手を伸ばすと、まるで迎えるように、糸が掌に降りてきた。温かくて柔らかい。やっと太陽の光の斑を捕まえたみたいだった。
やっぱり変な子だよね。私、どんな音を出したんだ? 笑ってた?
その瞬間、自分を抑えられなかった。まるで私が困ってるのに気づいたヨリ――本当の私が――助けに駆けつけてくれたみたい。
「何が君の気分を変えたのか分からない。ただ、糸が消えるのを想像してほしいってだけ」
彼はうなずいて言葉を強調し、すると彼の糸は、急な風に吹かれた埃のようにはらりと消えた。そして、私のバカっぽい子どもの笑い声も一緒に。
「何も聞かないの?」私は半分囁くように尋ねた。
「何か話したい?」
私は黙って首を振った。ユリエルはまたうなずいた。
「やっぱりね」
前と同じで、誰かの支えがないと無力だった。さっきまで、飛び立とうとバタバタ走り回る落ち着かない鶏みたいだったのに。今は、妙に軽い気分だった。本当に飛べたみたいに。
一歩。また一歩。想像が体の内に道を描き、糸が安全に消えていくように。プーンギの音に合わせて蛇が消えるみたいに、指先で溶けた。
「何が気になってても、勝手に解決するよ。子どもでいるのは永遠じゃない。まだ行く必要のない場所に、自分を急がせないで」
彼の言葉は深すぎた――私の顔の赤みに負けないくらい。恥ずかしさと安堵が同時に来た。まるで叱られて、すぐ許されたみたいな。
魔法と想像力の話になると、彼は笑ってごまかし、逃げ出した。正直、陰謀家リストを作るなら、彼の名前は2番目だよ。まるで彼らは互いのために…いや、違う。絶対そんな意味じゃない。
まあ、いいか。
それ以来、糸も魔法も使おうとしなかった。まあ、元々使ったことないけど。
鳥は全身全霊で歌う。ある人には迷惑で、ある人には心地いい。人間と同じで、彼らは必死に自分の存在の跡を残そうとする。生きてたって証を。
いつか私も自分の歌を歌いたい。静かか、大きか…未来を知らないから、はっきりは言えないけど。今は…
ぐぅ。
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同じ気だるいメランコリーが、毎日の始まりと終わりを彩った。歳を取るごとに、それが強くなった。
もう起きてたけど、ベッドに寝たままで、負けを認めたくなかった。話すのと歩くのができるようになってから、ずっと考えてた:次は何?
読み書きを覚える? 筋トレ? それともこの世界についてもっと知る?
うん、いつか、絶対。今は、疲れと怠惰が雪の厚い層みたいに私を覆ってた。その下は居心地良すぎて、抜け出したくなかった。
太陽がガラス越しに眩しく、時間を思い出させた。カーテンを閉めたけど、ダメだった。
静かだな。窓に背を向けて寝ながら、そう思った。また季節がゆっくり、でも確実に終わっていく。戻れない日は増え、待ってる日は減っていく。
時の流れに抗うのは無理だ。魔法も、もっとすごい何かでも――そんなものがあるなら――変えられない。
また寝ても何も変わらない。世界はただ進むだけ。
ぐぅ。
「はい、起きなさい!」
突然、ドアが壁にバンと当たり、飛び起きた。震える手で毛布の端を握り、入口を見た。この男のエネルギーは家中の電気を賄えそうだけど、娘を驚かせるのに使ってるみたい。
「何?」イラついて尋ねた。
「ん? 父親をそんな挨拶で迎えるか? やり直し! 今出て、また入るから」
私が何か言う間もなく、彼は部屋を出た。そして…
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「はい、起きなさい!」彼がまた叫び、ドアをドンと叩いた。
「おはよう」と私は歯を食いしばって唸った。
「お、起きてたのか? 意外だな!」
クイントは笑い、明らかに自分のイタズラに満足してた。心臓がキリキリした。いや、歯だったかも。よく分からない。
首を振って目を覚まそうとしたけど、ベッドに倒れ込んだ。マットレスが硬すぎて、もう寝れそうになかった。
「何?」もう一度聞いた。
「朝ごはん食べて、準備しろよ」
「どこ行くの?」
「街。エミと買い物だ。いいだろ?」
クイントの服からして、仕事から帰ったか、行くところだった。カーテン越しの陽光が彼を照らし、額に汗が光ってる気がした。外、暑いんだろうな。
「やだ」私は背を向けた。
でも、クイントに議論の余地はない。彼は毛布の下から私の足をつかみ、獲物の皮みたいに肩に担いだ。抵抗する力も気力もなかった。パジャマのまま、髪もボサボサで、快適なゾーンを強制退去させられた。
正直、エミリアと一日過ごすのは、クイントよりずっとマシだ。でも、簡単じゃない。
喋れるようになってから、私たちの関係が分からなくなった。彼女は相変わらず優しくて、気遣ってくれる。言葉なしでも通じ合えた。
でも、今は言葉がないからこそ、そうだった。
人と人を近づけるはずの言葉が、なぜか私たちを遠ざけていた。
キッチンに入ると、エミリアはいつもの席で、頬を手で支えて座ってた。視線はぼんやりして、頭の中ではまだ仕事のことで煮えてるみたいだった。
テーブルには2つの皿とマグカップ。クイントが一緒に食べる気配はなかった。
「ジャーン、登場!」クイントがいつもの大声で言った。
「おは…」エミの目が細まり、私たちを見た。「クイント、答えて。何してんの?」
クイントの肩に逆さまにぶら下がりながら、彼が震えてるのを感じた。背中がだんだん丸まり、エミの視線で私が重くなったみたい。もう少しで、ビビったダチョウみたいに頭を床に突っ込みそうだった。
「おはよう、ママ」と私は逆さまで挨拶した。
「ん、おはよう」と彼女はため息をついて元に戻り、「まあいいわ。ヨリを下ろして、遅刻する前に出てって」
クイントはうなずき、素早く私をひっくり返して、ぬいぐるみみたいに椅子に座らせた。あまりに速くて、気づく間もなかった。一瞬で逆さまの世界が元に戻り、頭がクラクラした。
「ほら、彼女、起きるの嫌がっててさ…」
「説明してって頼んだ?」エミリアがピシャリと言った。
「いいえ、マム!」
彼女は曖昧な、さよならっぽい返事をし、マグカップで紅茶を飲んだ。クイントは火事から逃げるみたいに家を飛び出した。
最近、彼女はそんな感じだった。面倒な虫を払うように、何もかも振り払ってた。でも、責められない。私も同じだった――周りの悩みを無視して、自分のことに集中してた。
私の椅子は他のより高く、食べ物に手が届くようにだ。テーブルに手を伸ばし、パンを一口。いや、鳥がつつくみたいだった。
エミリアのシンプルなトーストと卵も、いつも美味しい。でも、今は味が分からなかった。一緒にいるのが、なんか気まずかった。
エミリアの視線が私に落ち、私は軽く咳払いした。喉が締まる感じは、まるで店員の前で盗んだパンを食べてるみたいだった。彼女が紅茶のコップを差し出し、急いで飲んだ。
「お腹空いてない?」
「う、ううん…食べてるよ」
「そ」
バカで変な答えだったけど、彼女はすんなり受け入れた。
朝食は完全な静寂で終わった。エミが皿を洗いに行ったとき、食器の音だけが重苦しい雰囲気を薄めた。テーブルに突っ伏して、食べ物が体に合わなかったことに気づいた。胃が痛く鳴って、まるで石を消化しようとしてるみたい。
「じゃ、行く?」エミリアが皿洗いを終えて言った。「あ、そうだ…あのバカには頼れないわね」
私のボサボサの髪とパジャマを見て、エミリアはがっかりしたように首を振った。そっと抱き上げ、2階へ向かった。
エミリアはベッドに座り、私を膝にのせた。彼女の指が髪を優しく梳かし、櫛で整えた。櫛が頭に触れるのも感じず、まるで撫でられてるみたいだった。
クイントがこれやってたらと思うとゾッとする。絶対、この美容師にされたらハゲてたよ。しかも、仕事の代金まで請求されそう。
しばらくして、髪がやっと整った。鏡の前で頭を振って確認すると、花の飾りが目に入った。
「これ何?」彼女を振り返って聞いた。
「ヘアピン」とエミリアは素早くうなずいた。
「これなんで?」
「可愛いと思わない?」
私は顔をめっちゃしかめた。右目が勝手に細まって、エミリアが笑い出した。彼女の楽しそうな声が響くたびに、ますます落ち込んだ。本気で私を女の子っぽくしたいの? まあ、技術的には女の子だけど…うっ、複雑すぎる。
結局、ヘアピンはつけたままにした。髪に感じなかったから、すぐ忘れた。
旅は私を不安にさせたことなんてなかった。子どもの頃から何度も――引っ越し、荷造り、誰かの人生から消えること。新しさを見た分、昔のことは忘れてた。
じゃあ、なんで今、緊張してるんだ?
ドアの向こうを考えると、息が速くなった。私の知ってる世界とは全く違う。魔法、幻想的な生き物、呪文が漂う通り、空を切り裂く人々。この世界は魔法みたいだった。
いろんな意味でドキドキしてた。
でも、広場に着いたら…街は普通だった。ただ、めっちゃ古くて、埃っぽいだけ。
箒が飛ぶ代わりに、キーキー鳴る車輪の馬車。空中に魔法の渦じゃなく、魚、糞、焼いた玉ねぎの匂い。埃が鼻に詰まり、太陽が目に刺さった。唯一の奇跡は、地元民が暑さで倒れなかったこと。
そして人…どこもかしこも人でいっぱい。東京の基準でも多すぎる。
膝が震え、視線が周りをキョロキョロした。空は高く、人が高く見えて、私だけが小さく感じた。頭はいろんな考え、恐怖、祈りでいっぱい。全部がごちゃ混ぜの音になって、まるで私が呪文を唱えてるみたいだった。
「ヨリ? どうしたの?」
言葉が多すぎて、答えられなかった。エミリアは心配そうに私を抱き上げ、胸に抱いた。私は本能的に彼女を抱きしめ、顔を肩に埋めた。
地元民の不思議そうな視線で、体が震えた。私が原因でエミリアに注目が集まるなんて、めっちゃ恥ずかしかった。
「ごめん…」
彼女の深いため息で、顔を上げた。彼女は私の生まれた日と同じ、優しい笑顔だった。その瞬間、まるで真夏の水たまりみたいに、全部の不安が蒸発した。
「何で謝るの、ばか。怖がるの、恥ずかしくないよ。一人じゃないよね?」
彼女はそう言いながら、髪をくしゃくしゃにした。せっかく整えた髪が台無し。
止めようとしたけど、遅かった。髪は雷に打たれたみたいにボサボサ。目の前の前髪を吹き飛ばした。
「うわ! ごめん、ごめん」と彼女は謝りながら、髪をさらにくしゃくしゃにして笑った。
状況を和らげたかったのか、悪化させたかったのか分からない。でも、彼女が幸せなら、それが大事。
私たちは歩き続けた。人混みが濃くなるほど、エミリアのサンダルの音が小さくなった。叫び声や馬車のガタガタ音に囲まれても、もう気にならなかった。
彼女の気楽な態度のおかげで、楽になったのは否定できない。
今が話すチャンスだと思った。あとでじゃなく、今。頂上に登るのに、どれだけ努力したかなんて誰も気にしない。これで全部ハッキリする。
考えてる間に時間は止まらない。それを無視し続けた、シンプルな事実。
エミリアの肩に乗って話す内容を考えてるうちに、必要なものを買い終え、広場を離れてた。気づかなかったけど、帰る道は来た道と違った。街に詳しいわけじゃないけど、明らかに違う。
「ね、ママ、どこ行くの? 帰り道っぽくないよ」
「え、道をもう覚えたの?」彼女は笑って、肩が揺れて私も揺れた。「寺院よ。ユリエルに会いに」
「でも、荷物いっぱい! 寺院の後で買い物した方がよかったんじゃない?」
「実はね、ママ、めっちゃ強いんだから」とエミリアは誇らしげに腕を曲げた。
彼女の細い腕を疑うように見た。でも、筋肉が震えてる気配はなかった。「たぶん魔法の力だな」って結論。
寺院で何が起こるか、予想できなかった。ユリエルが一緒に帰るかも。それは嫌だった。彼が嫌いなわけじゃない。彼は風みたい――涼しさをもたらすか、計画をぶち壊すか。だから、迷わず直接聞いた。
「ママ、私のこと嫌い?」
言葉を慎重に選び、答えを予測し、心の壁を築くのに時間かけた。でも、結局これしか言えなかった。
彼女は立ち止まった。肩の上から見ると、彼女が困惑して瞬きしてるのが分かった。ふんと鼻で笑った。クイントが同じ質問したら、即「もちろん」って皮肉っただろう。
私は違う運命であってほしいと願った。
「何それ?」
「う…なんか…最近、話さなくなったから」と小さく付け加えた。
「そ、そ」と彼女はうなずいた。
「何だその答え!」って聞きたかったけど、なんとか我慢した。
少し歩いて、空いたベンチを見つけた。買い物の袋をベンチに置き、彼女は私を肩から下ろして膝に座らせた。
木陰のベンチに座り、葉擦れの音だけが、たどり着いた静寂を彩った。エミリアの心にあるものは、まだ未来の一部だった。いつものように、それが何を意味するのか、私には分からなかった。
「ね、ヨリ…時々、子ども扱いするには大人すぎる気がするの」と彼女は空を見上げた。「でも、何度見ても、やっぱり子どもなの。混乱するわ」
初夏の温かい風がそよぐ中、考えがその流れに溶け、逃げていく気がした。築いた心の壁は崩れ、蜘蛛の巣のようにはかなげに揺れていた。
「クイントが古いテレビみたいで、叩かないと動かないって言ったとき…あれ、なんだったの?」彼女は笑いながら私を見た。
その冗談は前世ならウケたかもしれないけど、今は通じなかった。言葉を口にした後で気づいた。そして今、ここにいる。
彼女はしばらく私を見つめ、私も彼女を見た。答えを期待してたとしても、彼女の好奇心を満たせる言葉はなかった。どんな説明をしても、子どもの頭にそんな考えが浮かぶわけ?って疑問が残る。
「実は、それが大事じゃないの…」私の頭にそっと触れ、彼女はため息をついた。「毎日、どんどん遠くに行っちゃうみたい。気づいたら、別れの時が来そうで…怖いわ」
彼女の手が髪の間で震えていた。彼女の顔を見ると、目尻に涙が光っていた。その光景は、受け止めるにはあまりにも破壊的だった。
「家族の絆」を完全に理解できなかった。多分、クイントとエミリアを本当の両親として受け入れてなかったからだ。私は彼らを遠ざけ、彼らもそれを感じてた。どんな絆も、きっとそうやって働く。私はただ、それに気づかなかった。
それが痛かった。
彼らだけじゃなく。
もう抑えきれなかった。心の底に沈んでたものが溢れ出した。涙が目に滲んだ。
エミリアに飛びついて、声を上げて泣いた。その瞬間、すべての壁が完全に崩れた。
「いつも…いつも…どんな…大人になっても…ママの…娘のまま!」
涙が顔を流れ、口に入り、言葉を邪魔した。言葉で表せない状態に陥った。周りのすべてが意味を失った。
ただ泣くことしかできなかった。
心の奥で、思考より大きな声が叫んでいた。小さな亀裂が広がり、私を二つに割った。感情に流されるのはバカらしいと分かってたけど、今、理性の居場所はなかった。
手の甲で目を拭い、木の方を見た。体が固まり、意識まで逃げ出したみたいだった。ショックの瞬間、頭がシャットダウンするような。
木陰に――ベンチから数インチ先に――ユリエルが静かに立っていた。
「お、終わった?」私の目を見て、彼はにっこり笑った。「こんなに素直になれるなんて、驚いたよ」
「もう来てたの? 迎えに来てくれてごめんね」とエミリアは目を拭きながら言った。
「いやいや、たまたま見かけただけ。待つつもりだったけど、好奇心が勝っちゃった。気にしないで?」
その後の会話はぼんやりとしか覚えてない。体も心も、まるで彫像になったみたいだった。
彼、見てた? いつからそこに?
真夜中のテーブルでユリエルに会っても驚かない。街から何百万マイル離れた山でだって、会いそう。それなのに、なんで驚いてる?
季節ごとの陽光みたいに、彼はいろんな感情を引き起こす。慣れるなんて無理だ。
子どもなら、こんな行動は普通だ。泣いたり、イタズラしたり、怪我したり、親を心配させる。私も違った。まあ、全部じゃないけど。私のよそよそしさが、エミリアを何度も心配させた。ユリエルは、そんなの気にしてないみたいだった。
でも、彼の登場で思った。別の方法で同じ結果を得られた? 泣かずに済んだ? 大人同士の話ができた? いや、たぶんそれじゃダメだった。
全部、願望だ。時間を戻して変えるなんて、もう無理。
「ヨリ、私を見て」
「ん?」
エミリアの手が顔の前に現れ、目が大きく開いた。透明な手袋をはめるように、彼女の手が水で覆われた。雫が指からゆっくり流れ、落ちずに空中で浮いてるみたい。
反射的に目を閉じ、まるで水をかぶるように息を吸った。
「しっ、落ち着いて、そんな慌てなくていいよ」と彼女の声は優しく、ちょっとからかうようだった。
彼女の手が頬を撫で、水が涙や汗、その他を一瞬で洗い流した。まるで余計なものが雫と一緒に溶けたみたい。
「ユリエル、ちょっと手伝って?」
「もちろん」
何するつもりか見ようと目を開けたけど、ユリエルの手が目を覆った。ガラスのレンズを通した陽光みたいな温かさが、肌に触れた。熱すぎず、心地いい。
ユリエルが手を離すと、瞬きした。
「今、何?」
「洗って、乾かした。いいでしょ?」エミリアがくすくす笑った。
二人は魔法を、ティーポットやタオルみたいに使ってた。そんな普通さが、驚くほどだった。
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「手伝おうか?」ユリエルが手を伸ばしてエミリアに言った。
「ううん、いいの」と彼女は手を振った。「みんなに見ててほしいの。愛する娘にこうさせられたって」
「もう、ママ!」
「冗談よ。あはは」
今なら、エミリアがクイントを選んだ理由が分かる気がした。いや、逆かも。ユーモアのセンスが驚くほど似てて、それが妙に安心させた。
逃げるんじゃなく、探す。無視するんじゃなく、解決しようとする。そんなの、私らしくなかった。どこに向かうか分からないけど、一つの「私」から離れて、別の「私」に近づいてる気がした。
まるで結婚式の前夜みたいだ。いや、そんな経験ないけど…ただ、ひとつの人生に別れを告げて、新しいのを始める感じ。
ユリエルはエミリアの荷物を持つと主張し、私たちは歩き出した。私はまた肩に乗せられたのに抗議したけど、いつものように彼女は笑って聞こえないふり。抵抗は無意味だった。
ふんと鼻を鳴らし、彼女の髪に顎を乗せて諦めた。ユリエルの前で肩に乗るのは…ちょっと恥ずかしい。でも、ほんの少しだけ。本当は、安心感があった。今は十分高く感じて、怖い世界もそんなに怖くなかった。
数歩進むと、期待したものが見えた――空に突き刺さるような荘厳な建物。
一見、砂の城みたいだった。海風で削られたような曲線が、不思議で生きてるような建築を作り上げていた。塔は上へ伸びる鍾乳石みたい。壁は複雑な彫刻模様で、すぐには理解できないほどだった。
ステンドグラスの色が陽光で輝き、敷石に柔らかい光の斑を落とした。奥から合唱か反響のような音が聞こえ、建物自体が歌ってるみたいだった。
どこかで子どもの笑い声。一つ、また一つ。まるでその中心にいるみたいに響いた。音の方を見ると、寺院の小さな広場で、子どもたちが走り回っていた。学校か幼稚園みたいな場所。
いろんな歳の子どもたちが、両手を前に出してボールみたいなものを追いかけてた。一人が転んだけど、笑いながらすぐ立ち上がり、気づかないふりで走り続けた。
ユリエルの子どもっぽい癖は、ここから来てるんだなって分かった。この場所じゃ、シリアスでいるなんて無理だ。
「ヨリ、ここで待ってて? 遠くに行っちゃダメよ」
「え?」
「すぐ戻るから」エミリアは笑って私を下ろした。
「うん」と私はうなずいた。
二人の影がアーチの向こうに消えると、この三人が私の知らないところで何か話してるのは初めてじゃないな、って思った。
まあ、いいか。
建物に目を戻すと、女の子たちがこっちに走ってくるのに気づいた。遠かったけど、木の陰に隠れた。
先頭の女の子は、短い足でコミカルに地面を踏み鳴らしてた。走り方が変で、ちょっとアニメっぽい。その後ろで、両手を頭上に上げた女の子たちが追いかけてた。
その走り方も同じくらい変だった。でも、なんか落ち着くものがあった。
女の子たちが円を描くように走り回るのを見て、まるで宇宙人のメッセージを地面に描いてるみたいだった。で、気づいた。私だけじゃなく、誰かが見てた。
視線を移すと、建物の階段に一人で座る女の子がいた。手を本の端に握り、目を走る子たちに追ってた。
子どもはみんな違う。サイズは似てても、性格は全然違って、見分けられる。この子を見て、気になった。エミリアは私と彼女を区別できる? 絶対できるよ。理想化じゃなく、髪の色が全然違うから。彼女は緑で、私は黒。
一見した印象と違って、彼女は分かりやすかった。他の子と遊びたかったけど、言葉が出なかった。希望を込めて見つめる彼女は、誰かに気づいてほしいって待ってた。でも、世界は小さな女の子の願いに気づくほど優しくない。
彼女に気づいたのは尼僧だけだった。たぶん、ここの先生みたいな人。
尼僧が話しかけると、彼女はすぐに本に目を戻した。唇の動きだけじゃ、何を話したか分からない。尼僧が去ると、彼女はまた他の子たちを見た。
彼女のことを考えると、ためらった。その状況が、痛いほど可哀想だった。決めつけたくなかったけど、ほかにどう表現すればいいか分からない。
手を差し伸べたかったけど、子どもの関係に首を突っ込みたくなかった。拒否されたら、自信がズタズタになるかも。
もし受け入れてくれたら? その次は?
私が去れば、彼女はまた一人。私の帰りを待つ? それが理想的だけど、たぶん害の方が大きい。
どんな関係も複雑だ。歳なんて関係ない。彼女に言える言葉はなかった。なんで私の言うこと聞くんだ?
一つだけ確か――誰かに気づかれるのを待っても、ほとんど意味ない。光に手を伸ばせば、火傷するかもしれない。でも、伸ばさなきゃ…ずっと影の中だ。
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「*****が大人になったら、めっちゃカッコよくて人気者になるよ!」
今思えばバカらしいけど、小学生のとき、そう宣言した。
それが私の夢だった。
もし小さな頃の自分に会えたとしても、きっと誇りに思ってくれないだろう。時間と私が、夢の正反対を作り上げた。
名前について…どれだけ考えても、思い出せなかった。変だなんてレベルじゃない。過去の周りの人の名前、誰一人思い出せなかった。しかも、そんなに多くなかったのに。
それが何を意味する? 私がどんどん*****じゃなく、ヨリになってるってこと? たぶん…
でも、出来事ははっきり覚えてる。すべての細部。自分がかかわった部分以外。それが…怖い。
すべては、寺院を訪れた後の夢から始まった。
「夢は記憶から作られる」って、誰かが言ってた。
たぶん、そうやって人は魔法なしで記憶の海に潜れるんだ。現実と関係ない変な夢は? きっと、過去の断片を縫い合わせて、意識が何か新しいものを作るんだ。参加者だったり、ただの観客だったりする理由は、たぶんそれだ。
その時、私は無限の闇のフィールドにいた。見覚えある状況だよね?
すべての悩みから解放されるのは、なんか心地よかった。でも、問題が一つ。闇が違った。
あまりにも濃くて深く、ホタルがいたとしても光を飲み込むくらい。で…どれだけ歩いても、完全に一人だった。
闇が私を飲み込むのを感じた。いや、比喩じゃない。手すら見えなかった。すべてが違った。私の存在そのものが、ゆっくり消えてる気がした。
首を振っても、何も変わらない。そこは完全に空っぽ。いや、満ちすぎてて、私の居場所がなかった。
歩き続けた。足音は、頭が体から何マイルも離れてるみたいに遠く聞こえた。固い地面はあったけど、本当に歩いてる? 分からない。古いビデオゲームで、キャラがテクスチャにハマる感じ。足は動くのに、進まない。
言いづらいけど、前世の人生ってこんなだった気がする。確かに歩いてたけど、前に進んでた?
「自由」を邪魔するものを捨てたとき、世界はこうなった。他人も自分も見えなかった。スクリーンがない映画館で、音だけ流れてるみたい。
今思うと、つまんない映画だ。
女の子がいなかったってことは、一つだけ意味する。孤独に二人の場所はない。
今の荒涼とした景色と、得た鮮やかな人生のコントラストがすごい。でも、否定しても無駄だ。これも私の心に存在するもの。
生き物はいつも二つに分かれる。楽しさや喜びにも、ゾクッとする風が伴う。
楽しければ楽しむほど、その後に待つものが怖くなる。順調なほど、近づく災いが恐ろしい。人生は白だけじゃなく、色とりどりすぎる。
そんな風に生まれた闇は、幸せな瞬間を遠ざける虫よけみたい。根拠のない不安が、いつもそれを邪魔した。
記憶は水みたい。注ぐほど、薄まっていく。
今、まさにそれだった。新たな一滴ごとに、水が濁っていく。
この先は?
透き通る? それとも、実際と記憶がズレるくらい汚れる?
濁るのはどれくらい早い? 今日、誰として目覚める? 明日…誰になる?
分からない。
「もう二度と、今の私たちで会えない」。認めたくないけど、恐ろしく的確な考えだった。
過去が痛まなくなっても、楽しかったことにはならない。忘れるのが正しい? ハッキリ答えられない。
気づかなかったけど、固い地面がゼリーみたいに柔らかくなってた。足がくるぶしまで沈んだ。引き抜こうと手を振り回したけど、根を張るみたいに深く沈む。
これが、昔の私のゆっくりした終わり。抵抗しなければ、時間が残る。受け入れたとき、そう思った。その物質は今日、私を飲み込む気はなかった。気づかないうちに終わるのかも。
嫌だった。でも、どうしようもない気がした。
過去がどれだけ自分に意味なかったかを示してるだけ。なのに、しがみついてた…
目が覚めると、灰色の光。カーテンの隙間から、朝陽の淡い輝きが差し込んでた。
心臓はバイクのエンジンみたいに激しく鳴り、汗は湧き水で洗ったみたいに冷たかった。
もうすぐ朝が始まる。みんなが起きる前に、落ち着かなきゃ。両親は私が夢の国の住人だと慣れてるけど、毎朝、部屋に来る。
ベッドから出て、体操でもしようかと思った。でも、正直、それのが怪しまれる。
寝返りを打った。陽光が部屋に広がり、鮮やかに染めた。血が体全体に流れ、指先がチクチクした。大きなあくびがこぼれ、一瞬、目を閉じた。
こんな夢の後で寝れるわけないと思った。でも、私には無理なんてない。
そして…
ぐぅ。




