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予言か偶然か

放課後の教室は、少しだけ特別な空気になる。昼間のざわざわが嘘みたいに静かで、窓から入る夕方の光が机をオレンジ色に染めていた。


「ねえ、明日さ、有名人がうちの学校に来るらしいよ」


そう言ったのは、五年二組の翔太だった。特に深い意味はなかった。ただ、その日の朝に見たニュースが頭に残っていただけだ。テレビに映っていたのは、最近よく見る若い俳優で、「子どもたちに夢を与える活動」とかで、いろんな学校を訪問しているらしかった。


「え、誰?ほんとに?」


クラスメイトの美咲が身を乗り出す。


「ほら、あの人だよ、ドラマ出てる……えっと……」


名前はうろ覚えだったけど、適当にそれっぽく説明すると、みんな「あー、あの人!」と勝手に納得してくれた。


「いいなあ!サインもらえるかな」


「体育館でイベントとかあるのかな?」


話はどんどん膨らんでいく。翔太は途中で「やばい、これ完全に嘘だ」と思ったけれど、今さら「ごめん、適当だった」とは言い出せなかった。


まあ、明日になれば自然と忘れられるだろう。そう思っていた。


――次の日。


一時間目の途中、校内放送が流れた。


『本日、特別ゲストとして――』


その名前を聞いた瞬間、教室が一斉にざわついた。


「え、翔太の言ってた人じゃん!」


「ほんとに来た!」


翔太は固まった。心臓がドクン、と大きく鳴る。


(え……なんで?)


その後の授業はほとんど頭に入らなかった。体育館に全校生徒が集められ、ステージの上に現れたのは、間違いなく昨日テレビで見たあの俳優だった。


にこやかに手を振りながら、「みんな、こんにちは」と言う。その声も、仕草も、全部本物だ。


翔太は拍手をしながら、ずっと考えていた。


(たまたま……だよな?)


たしかに、その人が学校訪問をしているのはニュースで見た。でも、まさか自分の学校に来るなんて、そんな偶然あるだろうか。


(もし、俺が言ったから来た……とか?)


そんなわけない、とすぐに否定する。でも、完全には打ち消せない。


帰り道、いつもの通学路を歩きながら、翔太は空を見上げた。雲がゆっくり流れている。


「……じゃあさ」


誰もいないのに、ぽつりとつぶやく。


「明日、テストなくなったりして」


自分で言って、少し笑った。そんな都合のいいこと、起きるはずがない。


でも、ほんの少しだけ。


ほんの少しだけ、期待している自分がいた。


これはただの偶然なのか、それとも――。


答えは、まだどこにもなかった。


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