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下手の横好き

「流石特異魔色持ちですね。本当にクソですね。」

 我々悪魔や、人間の一部は、魔力を透かして見ることができます。人間は魔力が透けて見える者を教育して魔術師に育て上げるらしいですが、まあ今はどうでもいいことです。

 私も悪魔ですから、もちろん物質を無視して魔力を透かして見ることができます。魔力は紫色です。ですから私たちは、意識すれば、一面に広がる紫色の世界を通して魔力の濃淡を読み取り、魔力の流れを視認することができます。

 しかし、例外はあります。悪魔や人間には特異魔色持ちと呼ばれる、体内に紫以外の色の魔力を体内に内蔵し、それを行使する者たちがいます。

 特異魔色は大きな魔力そのものです。色によっては特殊能力を持つ者もいるようですが、とにかく特異魔色は天に恵まれた才能なので、べらぼうに強いです。特異魔色持ちは少ない努力で一瞬で強くなってしまいます。どんどん追い越されてしまいます。まるで私の努力が否定されるかのように。

 ああ、私はまた特異魔色に淘汰されるのですか。

 あの時と同じように。


 私は平和な時代に生まれました。ロスト砂漠は大国に挟まれているので、昔は侵略してくる人間たちとの戦闘が多かったらしいです。しかし、それも1000年前のこと。悪魔の寿命は300年。もうそんな時代のことを知っている悪魔は、この世にはいないでしょう。

 悪魔は皆等しく、生まれたときから魔術師です。平均的に人間よりも多くの魔力を持っています。

 悪魔は最強の魔獣と呼ばれてきました。魔術を意のままに使い、常に研鑽を続けたからです。強力な魔獣たちを、息を吸うが如く当たり前に使役してきたからです。

 ですが、世の中は平和になりました。人間があまり攻めてこなくなったので、皆戦闘を忘れ去り、魔術の研究をしなくなりました。そんなことしなくても、人間が弱くなったので、魔獣たちに戦闘を任せるだけで、ほとんどの人間を打ち負かせるようになったからです。おそらく、1000年前に悪魔の悪名が広まり過ぎて、人間はロスト砂漠の侵略をあきらめたのでしょう。

 でも、私は魔術こそが悪魔の誇りだと、生きる意味だと信じて疑いませんでした。ですから、生まれてから50年間、魔術の研鑽は怠りませんでした。

 読み物、運動、人間の文化。砂漠ながらに、生命力が高い悪魔が住んでいるだけあって、娯楽はつきませんでした。何回も何回も娯楽に、欲に目がくらみましたが、魔術の研究を続けました。誰から否定されることもありませんでしたが、理解されることもありませんでした。それはそれで辛いものもありましたが、悪魔の誇りは絶対に捨てませんでした。

 結果、王に大きな戦力として重宝されるようになりました。

 私が45歳になった頃、8歳ほどの悪魔の子供に勝負を挑まれました。私は一目見てその子供の異質さがわかりました。特異魔色持ちだったからです。紫色の世界に穴が開いたと思うほどに、その子供の特異魔色は真っ白でした。

 初めに感じたことは、「こんな子供いたか?」でした。ですが、直にそんなことがどうでもよくなるほどに彼の強さがヒシヒシと感じられました。

 私はずっと勉強し続けてきた土魔術を使って、全力で彼と戦いました。結果は惜しくも私の負け。私の土魔術は回避され続け、魔力が枯渇しかけて、魔術のキレが無くなったところに、中位魔術を打ち込まれたのです。私はその日、人生全てを否定されたように思ったのです。

 それから2年、私はその悔しさを胸に研究し続けました。毎週彼に挑み、負け続け、研究し続けているはずなのに、どんどん手も足も出なくなっていきました。

 そんな折、またも特異魔色持ちの子供が現れました。2年間、よりヒートアップさせた研究を信じていたので、他の特異魔色持ちには負けないと思っていたのですが、やはり惨敗しました。

 さらに2年間、休む時間を削って研鑽しました。周りの人には、最近疲れてないかとか、休んだほうがいいとか、子供だからって負けても気にすることないよとか、色々と言われましたが、そんなことは馬耳東風と聞き流しました。

 そして、3人目の特異魔色持ちの子供が現れたのです。私は勝つことしか考えませんでした。それはもう死にものぐるいで全力で挑みました。死闘の末、惜しくも私は負けました。

 これまでは悔しさで動いてきました。次に特異魔色持ちに出会ったときは。そう思って研究し続けました。

 ですが、3人目に負けて、熱が冷めてしまったとき、自分の人生すべてが否定されたという事実だけが浮き彫りになりました。悔しい、悔しい、悔しい、悔しい悔しい悔しい辛い辛い辛い辛い辛い辛い。まともな精神状態で生き続けられそうにもなく、私は自分の拠点に引きこもりました。

 引きこもり続けた結果、辛いという感情が増幅され、これまではかろうじて憧憬の念を抱いていた特異魔色持ちが、大嫌いになりました。

 1年後、王に東の偵察をして来いと言われました。どのくらい強いのか、どれだけ人が多いのか、物資は潤沢にあるのか。なぜ急にそんなことを命じられるのか、考えようとも思いませんでした。いま思えば、役立たずの左遷だったのかもしれません。ただそのときは、生きる指針が与えられた。それは嬉しかったのです。

 外の人間はお世辞にも強いとは言えませんでした。手応えはないも同然でした。ただ、あの白色を忘れられた。それだけで私の心は踊り高ぶりました。

 私はふと、王に良い土産を持っていこうと、一つ大きな町を落とそうと思いました。そうすれば、理解されなかった皆に認めてもらえるかもしれない。何より、特異魔色持ちのあの3人が、すごいと言ってくれるかもしれない。私はやはり、そんな気持ちで満たされて盲目的になっていたのかも知れません。

 そこは人が多そうな町だったので、流石にあの時の私にとっても、簡単にはいかないのは明らかでした。

 まず、ここに私がいると知られてはいけませんでした。たしか信用のない種族がいたはずだと思い出し、接触して本当のことを言えば、撹乱はできると思いました。真っ白な姿を見て、あの子供を思い出しましたが、魔力は紫だったので、あの子と重なるようなこともありませんでした。

 次に、周囲に偵察に魔獣を使わし、強者を探りました。まず思い当たるのは、魔術学院のあるアステラ。ここには強者がいることが予想されました。侵略予定だったこの街からは遠かったですが、念を押すに越したことはないと思いました。次はこの街との交流が深いフィーロが思い当たりました。比較的に近いので、そこから援軍が来るというのも、なくはないと思いました。ほかの場所にも、まんべんなく魔獣を使わしました。

 そこから数日が経ちましたが、アステラとフィーロに使わした魔獣と、一部の魔獣が帰ってきませんでした。私は強者の接近の可能性が頭をよぎり、計画を早めました。

 そして、計画実行予定だった今夜。例の種族と、特異魔色持ちが私の前に現れました。私は運命だと思いました。

 もしかしたら、あの3人は悪魔だったから強かっただけかもしれない。他の人間は弱かった。ようやく報われる。ようやく解放される。ようやく自分を許すことができる。そう思わずにはいられなかったのです。

 なのにまた否定されました。おかしい。おかしい。なぜ?


「なんでそんなに強いんですか?あなたのような天才に、あなたのような特異魔色に、どうやったら勝てるのですか…?ねえ、おしえてくださいよお」

 気がついたら思ったことが口に出てしまったようだ。本当に私はどうしたらいいのでしょう。

「特異魔色?あー。それってもしかして黒に見えてるのか?」

「?…え、ええ」

 何を言っているのです?魔術師ならば自分の特異魔色の色くらいわかりますよね?

「ふふ、ふは、ははははははははは!そうかそうかおまえたちにはそう見えるのか!ファミアもそう見えているのか?」

「え、あ、うん」

「ちょうどいい教えてやろう。これは特異魔色でもなんでもない。ただの魔力だ。」

 は?理解できない。戸惑いすぎて声もでない。どういう意味だ?

「魔力は紫色らしいな。例外として特異魔色があるが俺はそんなもの持っていない。おまえたちが黒に見えているのは濃すぎて真っ黒に見える何の変哲もない紫色の魔力だ。」

 なんなんですか。ありえない。そんな魔力濃度見たこともないです。

「俺は5年間四六時中寝ている間も体内魔力増幅魔術を詠唱し続けてきた。もう一度言うぞ?そんな特異魔色なんて大層なものは持ってない」

 理解できない。体内魔力増幅魔術はトップレベルに難しい詠唱です。それを寝ている間も四六時中?どんな忍耐してるんですか?頭のネジが吹き飛んでるんですか?バカなんですか?アホなんですか?そんなんでしょうね。

 それともう一つ。

「というかあなた、魔力が見えていないのですか?」

「え?そうだよ?」

 は?それで魔術師やってるんですか?魔力見えないと不可能じゃないですか?え?うん?

 …いや、確かにそうだ。先の大地脈動の攻撃のとき、こいつはかわすだけでは受け切れなかった。魔力が見えていれば、あれだけの体裁きができればすべてかわすのも可能だったはずだ。

「うーん。どうやら特異魔色持ちじゃないとまだ信じていないようだな。じゃあやって見せよう。」

 少年が人差し指を立てて、人差し指の先に小さな魔力を出した。それは特異魔色持ちなら出しえない、紫色の魔力だった。

「ここに魔力を加えていくと…」

 そう言うと、魔力の色が真っ黒になっていった。「こ、こんなことがあり得るのですか!?……はあ……くそっ………理解はしました。」

 これを見てしまっては言い逃れはできませんね。いろいろ納得はできませんが。

「では、百歩譲って本当だとして、聞かせてください。なんでそこまでの努力ができるのですか?」

「魔術が好きだからだよ!」

 即答だった。

 …ああ、そうか。少年は特異魔色なんて才能も持っていない。魔力を見ることさえできない。魔術師なんて目指さないほうがいいことくらい、明らかだったはずです。世間には天才だと言われてきたのでしょう。でもこの子に、天からの才能なんてない。ただただ魔術が好きだという理由だけで努力を続けてきた、まさに「下手の横好き」だったのですね。

 私は、悪魔の誇りのために魔術を始めたと思っていました。ですが、思い出しました。私も魔術が好きだったから、魔術をしていたのでしたね。それが、いつしか悪魔の誇りなどと余計な理由をつけて正当化して、挙げ句の果てには、復讐まがいのことをするために魔術を研鑽するようになってしまいました。

 ああ、ありがとう。思い出させてくれて。私を救ってくれて。

「俺がなんでこんな話をしているか分かるか?おまえの時間稼ぎに付き合ってやってるんだよ。切り札があるんだろ?そろそろ整ったんだろう?ずっと待ってるんだよ!はやくしろ!」

 はい。今にもあなたに仕えたいくらいですが、分かっています。私もあなたの気持ちが手に取るように分かるようになりましたから。

「見せてあげましょう。最後の切り札を!」

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