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下手の横好き  作者: クラッシー
第一章 鍛冶国家ローム編
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第二ラウンド

 悪魔の使役する魔獣の猛攻により、ヤマトの障壁が崩れ、魔獣の群れが一斉に雪崩れ込んで来る。


 どこからどう見ても絶体絶命だ。

 それなのにヤマトは、満面の笑みで叫んだ。


「第二ラウンド開始(スタート)だ!」


 かくして王都辺境の森にて、悪魔との戦闘の第二ラウンドが始まった。




 障壁が瓦解して、全方位から魔獣が攻め込んでくる。

 まるで収束する壁に取り囲まれるようだ。


 なんとかして包囲網から脱出しなければ、このままではやられてしまう。


 ファミアはその中の一点、サンドウルフだけで構成されている所に目を付けた。


「――烈炎――」


 炎舞『烈炎(れつえん)

 炎纏を発動した状態でのシンプルな突き技だ。


 炎舞の技はすべて、他の技から流れるように繰り出せるように作られている。

 ゆえに炎舞の一番の利点は、技の後の隙を最小限に抑えられることであるとも言えた。


 ファミアの剣を纏っていた炎が霧散する。


 その代わりにファミアは、無事にサンドウルフを貫いて一点突破を成功させ、隙のなさを生かしてすぐさま走り出した。


 後ろからはサンドウルフ、レッサーサースティウルフ、デザートバードといった見慣れた魔獣はもちろん、象や虎のような魔獣も追ってきていた。


 ファミアにはそれらすべてを同時に相手取れるほど、腕に自信はない。


 それに今のファミアの役割は、ヤマトが悪魔を倒すまでの時間稼ぎだ。

 

 だから、ファミアはとにかく走った。


 それでもこちらは人間、あちらは魔獣だ。

 ただ逃げ回っているだけでは追い付かれてしまう。

 長引けばこちらの体力も持たない。


 自分一人では限界があると判断したファミアは、ヤマトと悪魔の戦場を取り囲むように駆け回った。

 それなら、いざというときにヤマトからの援護が受けられると思ったからだ。


 ファミアは状況を判断するため、追ってきている魔獣達の方を振り返る。


(思ってたより引き付けられなかったな。これじゃあヤマトの援護も期待できないかも)


 ヤマトの戦闘をチラリと見る。

 向こうはかなり苦戦模様だ。


 よそ見している間に、デザートバードの突撃が来た。 


 とっさにそれを剣で受ける。

 しかしデザートバードの一撃は速く、そして重かった。

 ファミアは想定以上に衝撃をもらい、体制を崩す。


(よそ見も許されないか……体力の限界はこっちが先に来る。このままじゃジリ貧だ。だったら!)


 ファミアは一度地面に手をついて体制を整える。

 それではすぐに魔獣の群れに追い付かれてしまうが、これでいい。


 ファミアはそのまま真上に跳び上がり、その間に下に来ていたサンドウルフの背に飛び乗った。


 ファミアが突然上に飛び上がったことで、地を駆ける魔獣達は一瞬、ファミアを見失った。

 空を飛ぶ魔獣は今は様子見に徹している。


 今この瞬間だけは攻撃は来ない。

 ファミアはその隙を見逃さなかった。


「璽贐癭璢兤轟燦韉鬣……」


 ファミアは炎纏を詠唱して剣に炎を纏おうとする。


 詠唱の途中にファミアに乗られているサンドウルフが暴れ出し、デザートバードが突撃してくる。


 ファミアはサンドウルフから飛び下りてデザートバードの攻撃をかわす。

 ちょうどその時、炎纏の詠唱は完了した。


 目の前の虎型魔獣に、剣を胴体に押し当てて滑らせる。

 炎纏を使っていることによって、滑らせた軌跡上は見事に炎上し始めた。


 ファミアは炎上を確認して直ぐに後ろを振り向く。

 そこには突撃で勢い余って体勢を崩したデザートバードがいた。


 完全に隙を晒しているデザートバードの胴体を、左下から右上にかけてダイナミックに斬る。


「――両断――」


 炎舞『両断』

 デザートバードを斬ったその技は、対象を真っ二つにすることに特化した技であった。


 デザートバードの胴は無惨にも左右に分かれ、赤黒い血が吹き出す。

 しかしファミアは一滴も返り血を浴びていなかった。


 生まれた瞬間から白い服を着せられ、少しも汚れを付けないに生きるように強要される古い戦闘種族――

 それが炎妖族だった。

 

 完璧にデザートバードを討伐したのも束の間、サンドウルフが八方を取り囲み、鉤爪で引っ掻く攻撃を放つ。


 当たって食い込めば、その鉤爪は獲物を捕らえて離さない。

 それが8方向から同時に迫り来る。


 ファミアはとっさにそれを迎え撃つ。


「――旋嵐――」


 炎舞『旋嵐(せんらん)

 その場で二回転して広範囲を攻撃する大技だ。

 炎舞の中では技を決めた後の硬直が一番長いが、周囲を一掃する威力、範囲ともに優れた技だ。


 さらに恐ろしいのは、旋嵐は遠心力によって二回転目で威力を高めるのだ。


 使えば砂ぼこりが舞い上がるほどの風が起きることから、旋嵐という名前がついていた。


 今のファミアは炎纏を発動している。

 ファミアの剣は炎の円を描き、8体のサンドウルフをすべて斬り伏せた。


 一旦魔獣の猛攻は落ち着き、残った魔獣達は距離を置いて様子見に徹することにしたようだ。


 ゆえに、ファミアにも状況を整理する余裕が生まれたのである。


 ファミアは自分の真っ白な服を確認する。

 残念なことに、一部に砂が付着してしまっていた。


 旋嵐の風圧で砂ぼこりが舞い上がり、それが付着してしまったのである。


「あーあ。服汚れちゃったね。服汚さない舞いとか不可能じゃない?」


 剣と魔術の研鑽を積んだファミアは、代々の炎妖族の中でも上位の強さだ。


 だが真の炎妖族は、本当に埃一つ付かない舞いをすると言う。

 これ以上どうすればそんなことができるのかと疑うファミアであった。


 そうこうしていると、ウルフや虎がよろよろと起き上がってきた。


「うーん、やっぱ立ち上がってくるか。まあ、炎舞は攻撃力が高い訳じゃないからね。パワータイプは苦手だけど、時間稼ぎという目的は果たせそうかな?」


 その後もファミアは、自身の真っ白な格好と剣に纏った炎によって生まれる、美しい紅白の舞いを続け、時間稼ぎに尽力した。



 

「第二ラウンド開始だ!」


 障壁が瓦解し、魔獣の群れが流れ込んで来る。


 ――パチン。


 ヤマトは指を鳴らして自身を取り巻く炎の竜巻を起こした。


 勢いのままヤマトに向かって一直線だった魔獣たちは、詠唱の前触れもなく現れた炎の竜巻に目を見開く。

 しかし途中で速度を緩めることもできず、そのまま竜巻に突っ込んでいった。


 自ら炎に突っ込んで行く様子は、夏の虫が光を求め、自ら火に飛んで入っていく様子によく似ていた。


 魔獣の攻撃は炎の竜巻に阻まれて、ヤマトに届くことはなかった。

 ヤマトは「この手袋いいな」とか言いつつ、何者にも邪魔されることなく、ゆっくりと悪魔に歩み寄っていく。


 悪魔は魔獣が手も足も出ていないにも関わらず、眉一つ動かさず、尊大に口を開く。


「奇妙ですね。その魔術、見たところ中位魔術でしょうが、あなたに詠唱する(そんな)時間はなかったはずですが?」


 中位魔術は下位魔術よりも大幅に効果が高いが、その分詠唱時間はとても長くなる。


 ファミアがフィーロで爆炎火球を放ったときも、詠唱に30秒ほどの時間を要していた。


 しかし、つい先程までファミアと作戦会議をしていたヤマトには、詠唱する余裕などなかったはずだ。


 魔術師ならば誰でも抱くはずの疑問に対し、ヤマトはあっけらかんと答える。


「中位魔術? これ火球だけど?」


 これかきゅうだけど?


 ん? これかきゅうだけど?


 悪魔はヤマトの言葉を反芻する。

 何を言っているのかさっぱり分からない。


 悪魔の頭は一瞬真っ白になった。


 悪魔とその周辺の魔獣も、その場でピタリと制止した。


 悪魔が近くの魔獣に与えている命令は『命令が共有され次第、随時従え』である。

 ゆえに、悪魔の思考停止も魔獣に共有される。


 したがって、魔獣も一緒になって静止してしまったを


 それによって、今が戦闘中であるとは思えないような、静かな時間が生じる。

 まるで時間が凍結したようだ。


 凍結した時間を、炎の竜巻を纏ったヤマトがトコトコと歩いていく。

 ヤマトは悪魔が止まっていることなど気にせずに詠唱を始めた。


 詠唱が耳に入ったことでやっと悪魔は我に返り、止まった時間が動き出した。


「え? いやあり得ないですよ? まあ確かに火球だとしたら詠唱の時間は足りますけど……下位魔術だけでそんな芸当はできません。というか火球の球の原型も無いじゃないですか。聞いたことないですよそんなの。例えそんなことしようと思っても、100年かかるか、200年かかるか……いずれにしろ人間の寿命では……」


 現実逃避気味にうだうだしている悪魔。

 ヤマトはしびれを切らしてパンッと手を叩いて叫んだ。


「いいから来い!」


 悪魔を「はぁ」と深くため息をつく。


 悪魔は結局、今は考えても仕方がないという結論にたどり着いた。

 それよりも目の前のヤマトを排除するのが先決だ。


 姿勢を正してヤマトに向き直る。


「いいでしょう。お前たち、行きなさい」


 悪魔は魔獣達に指示を出す。


 それに呼応して、3体のデザートバードがヤマトに突進していく。


 一度旋回して勢いを付けた上に、風魔術「強風」で強化した、高速、高威力の突進だ。

 まともに食らえば致命傷になりかねない。


 ヤマトはデザートバードを迎撃すべく、火球の詠唱を終わらせた。

 再び炎の竜巻が現れ、空中のデザートバードに襲いかかる。


 炎の猛威に晒され、デザートバードは黒焦げになって気絶してしまった。


 悪魔はヤマトの詠唱を聞いていた。

 ヤマトが詠唱したのは、確かに火球だった。


 そのはずなのに、現れたのは中位魔術相当の炎の竜巻。

 ここまでくれば認めざるを得ない。


 異常な魔術だ。

 が、悪魔は既に一度それを見ている。

 ヤマトの理不尽も折り込み済みであった。


 間髪入れず、次の魔獣を送り込み、しかし竜巻に飲み込まれる。

 悪魔は一体ずつ送り込み、飲み込まれ、送り込み、飲み込まれを繰り返していった。


 ここまで一緒だった魔獣が目の前で死んでいくのは、悪魔とはいえやはり心苦しい。


 魔獣達に心の中で哀悼の意を表する。

 決してそれを無駄にはできない。


 悪魔は魔獣達が稼いだ一瞬を利用して、詠唱を完了させていた。


 悪魔が地面に手をついて叫ぶ。


大地脈動(だいちみゃくどう)!」 

 

 悪魔の叫びに呼応して、地面が波のように脈打ち、攻撃的な刺の形に変化していく。


 刺は1本、2本、4本と徐々に数を増やしていき、ヤマトに襲いかかっていく。


 土に炎の竜巻など関係ない。

 溶けることも減速することもなく、土の刺は易々と炎を突き破った。


 竜巻の維持に集中していたヤマトは、障壁の詠唱が間に合わなかった。

 こうなれば、生身でかわしていくよりない。


 魔術師は基本的に後衛である。

 ファミアの場合は魔術剣士という、前衛と後衛をあわせ持つ特殊な位置になる。


 とはいえ魔術師は基本的に後衛である。

 守りの要たる障壁がなくなれば、なす術はない。


 ……はずだった。


 それなのにヤマトは涼しい顔で避けていた。


 土の刺をよく観察し、軌道を先読みし、軽い身のこなしでかわしていく。


 後衛とは思えない回避能力だった。


 しかし、無情にも刺はどんどん数を増やしていく。

 刺の数が10ほどにまで増えたとき、限界が来た。


 初めに腕にかすり、切り傷を作った。


 次第に頬に、肩に、足に、腕に、攻撃を受け、傷はどんどん増えていった。


 ヤマトの動きはなんと鈍ることは無かった。

 とはいえ、これ以上傷を負っては危険である。


 ヤマトは土の刺をかわしつつ、状況を打開するために詠唱していた魔術を完成させた。


「沼化」


 そう呟くと、ヤマトはなんと刺の一番鋭い部分を真っ向から手で受けた。


 このままでは刺がヤマトの手を貫くかに思えた。


 しかしそうはならなかった。


 土の刺はその場で泥と化し、ヤマトに傷一つつけることさえ叶わなかったのである。


 そのまま迫り来る刺を一つ一つ手で触って溶かしていく。

 悪魔の土の刺はどんどんと泥になって数を減らしていった。


「ははははははははははっ! 危なかったぞ! すごいなお前! ここまで土を自在に操れるとはな! まるで土が生きてるみたいだ! いくつか魔術用語を継ぎ足しているようだな。少なくとも今の俺では再現出来ないだろう!」


 ヤマトはようやく余裕が生まれ、考察する余裕が生まれた。


 特筆すべきは、悪魔が生成し続ける刺をみるみる溶かしながら話していることだ。

 それほどに余裕を感じている証拠だった。


 悪魔は異様な状況に、頬をひきつらせる。


「な、なんです? 沼化? 沼化と言いましたか? 泥だまりをつくるだけの下位も下位の土魔術だったはずでは?」


 下位土魔術『沼化』

 土を泥溜まりに変える、ただそれだけの魔術である。


 ヤマトは沼化の術式を()()()()()()、魔力濃度を高めることによって、一瞬で土の刺を溶かすまでの力に引き上げたのである。


 術式を手に張り付け、常時効果を発揮させる。


 そこまでの芸当をするには術式を完全に理解し、術式を弄る必要がある。


 それをヤマトは攻撃をかわしながら、片手間で成し遂げてしまったのである。


 ありえない。

 悪魔は怒りに燃え、それに伴って大地脈動は激しさを増していく。


 ヤマトは、それをかわして、受け流して、溶かして、かわして、受け流して、溶かしてを繰り返す。


 自分に飛んでくる土の刺を溶かすだけだったヤマトは、とうとう悪魔に迫っていった。


 悪魔はヤマトに一気に間合いを詰められた。


 そこで攻撃に、一瞬の迷いが生じてしまった。


 ヤマトがそれを見逃すはずかない。


「ここっ!」


 ヤマトが火球を放つ。


 火球は遅くなった土の刺の間を縫って、悪魔のもとにたどり着いた。


「くっ」


 悪魔は小さく呻き、大地脈動で土を盾のように盛り上げ、ギリギリで受けた。


 火球が着弾と同時に爆発する。


 火球は土の盾を貫通して悪魔にダメージを与えた。


 とっさに作った土の盾だったとはいえ、その火球は中位魔術を貫いた。


(おそらく中位の球系魔術……ということは……)


「いつの間に爆炎火球の詠唱を……」


「火球だけど?」


「だからそれ何なんですか!?」


 普通であれば、土の壁を突き抜けるほどの威力が出る魔術は、火魔術では爆炎火球以上しかあり得ない。


 ……普通であれば。


 悪魔は火球のダメージを負ったことで、大地脈動が中断された。


 今が倒すチャンスかもしれない。

 しかしヤマトは警戒して、深追いはしなかった。


 戦闘は一度落ち着き、膠着状態となった。


 それに、魔獣も大人しくなった。


 ファミアの方の戦闘も中断となったのである。

 手が空いたファミアは、ヤマトと合流した。


 悪魔は火球(?)のダメージでボロボロになってしまっているが、油断なくキリリとした表情を保っていた。


 しかし自信の魔獣と魔術が打ち破られた悪魔は、内心穏やかではいられなかった。


(何なんですかこの子供たちは!? まずい、このままでは負けてしまう……。……仕方ありません、()()を切ってみますか。フフフ、それでは時間稼ぎと洒落こみましょうか)


 ここで簡単にやられるわけにはいかない。

 そう思って、悪魔は切り札を切ることにした。


 長い夜は、まだまだ始まったばかりだ。

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