長い夜の始まり
ヤマトとファミアの二人は、ファミアが以前、悪魔と遭遇した場所に来ていた。王都は鍛冶で栄えているため、都心部は他国に比べて発展しているが、その分、稼ぎに来て職を見つけられずに王都に住み着く貧困層も多いため、スラム街も大きい。そのスラム街を抜けた、じめじめとした小さな雑木林の前に来ていた。
「私の家は貧しいわけではないんだけど、王都の連中は私達への当たりが強い。だから、私達は一族まとめてスラム街に追いやられたんだ。で、この辺を歩いていたら、悪魔を見つけてしまったわけ。」
「なるほど」
「ここからどう探そうか」
「森の中」
「なんで?」
悪魔は魔獣の一つであり、人間に危害を及ぼしかねないため、常に討伐対象になっている。王都では特にそんな騒動は起きていないため、悪魔は見たのはファミアしかいないと考えることができる。であれば、悪魔は身を潜めている可能性が高いと考えられる。
しかし、スラム街に身を潜めているとも考えられるため、ファミアは疑問に感じたのだ。
「入れば分かる」
その言葉と同時にヤマトは森に入っていった。
ファミアは、理由くらい言ってくれてもいいのに、と言いかけて、その言葉を飲み込み絶句した。森に足を踏み入れた瞬間、10箇所以上の高い魔力反応が目に入り込んできたのである。
「え?え?」
しかもそのうちのいくつかの反応がこちらに向かってきていた。
「ちょっとまってどういうこと!?」
次の瞬間、木々の合間を縫ってサンドウルフ5体が姿を表し、二人に襲いかかった。その鉤爪がヤマトの胴にあたる寸前、ヤマトが詠唱していた障壁魔術にはじかれた。
「どうやら当たりのようだな!悪魔は魔獣を使役する魔獣の支配者だ。俺はロスト砂漠に生息する魔獣にローム国で三回襲撃されているからもしかしたらと思っていたんだ!」
悪魔単体であれば、スラム街に隠れている可能性も考えられるが、使役する魔獣も隠すには森の中しかないということであった。
「言ってる場合じゃないって!」
障壁一つでは耐えられないと思ったファミアは、ヤマトの考察を制止したが、同時にヤマトが火球を詠唱し始めた。
「黴鐵鬣黶鬣璽癭兤兤鬣…」
詠唱が終わると同時に、障壁の周りに五つの火球が生じ、障壁を破壊せんとしていたサンドウルフに襲いかかった。光一つ無い真っ暗な夜には眩し過ぎるほどの閃光を容赦なく撒き散らしながら、すべての火球が正確にサンドウルフの横腹に命中した。
5体とも同時にその場に倒れ伏すと同時に、追加で3体のサンドウルフと1体のレッサーサースティウルフが障壁の逆側から姿を表し、先頭のレッサーサースティウルフがヤマトの無防備な背中に襲いかかる。が、炎を纏ったファミアの剣に阻まれる。
レッサーサースティウルフは、炎の熱量によって反射的に飛び退き、入れ替わるようにしてサンドウルフ3体が同時にファミアに襲いかかった。
「炎舞―一閃―」
その言葉とともにファミアは、大地が僅かに沈むほどに踏み込み、炎を纏った剣を一閃し、サンドウルフ3体を切り伏せた。
「障壁ドーム展開!」
ヤマトの透き通るような声が響く。ファミアとヤマトを半球状の障壁が覆う。ファミアが戦闘していた間の一瞬でヤマトは障壁を再詠唱していたのである。
レッサーサースティウルフの鉤爪は、岩すら砕くほどに鋭いが、障壁に小さな穴すら開けられず、持ち前の素早さも生かせずに立ち往生していた。ウルフはこれ以上の攻撃は無意味と理解したのか、障壁への攻撃を止めたため、戦闘が一度落ち着いた。
ファミアが息を整えると、再び静寂が夜を支配した。しかし、戦闘の余韻に浸る間もなく、森中のカラスが飛び立って、その鳴き声と飛行音が静寂を打壊した。だがファミアはその音に反応することなく、ヤマトに声をかけるのも忘れて、目の前をの大木の幹を凝視していた。いや、正確に言えば、大木の先で透過して見える、複数の大きな魔力反応を、であった。
突然大木の年輪ほどの太さの土の刺が大地から生えてきて、数十の木々に突き刺さり、そのままなぎ倒された。
細身の男のようなシルエットが木がなくなって視界が良くなった大地に現れる。月明かりに照らされて、真っ黒な髪、金色の瞳、独特の黒い羽が顕になる。紛れもなく悪魔であった。
「…ほう。例の特異魔色と炎妖族ですか。偵察に出した僕たちがことごとくやられたので、何事かと思いましたが、強いですね。幼いとは言え油断大敵。」
誰に敬意を払うでもない敬語を使っているが、言葉一つ一つに威圧感が滲み出ていた。
「大人げないとか言わないで下さいよ?」
悪魔の背後から視界が埋まるほどの魔獣が出てくる。そのすべてがサンドウルフ以上の戦闘力を持ち合わせており、レッサーサースティウルフ級も何体も混ざっていた。
「白を狙え」
悪魔の命令に従って魔獣が一斉にファミアに飛びかかったが、もちろんヤマトの障壁に阻まれた。
「固いですね。しかし本当に耐えられますか?」
障壁は何十の魔獣の猛攻に耐え切れず、ミシミシと悲鳴を上げ始めた。障壁が潰れるまでの数瞬を使って、二人作戦会議を始めた。
「おそらく魔獣はすべて悪魔の言葉に従ってるから悪魔を潰せば終わる」
「…じゃあ周りの魔獣は引き受ける。早く終わらせてね。多分全部は無理。」
「信じてるよ」
ヤマトはファミアのことなどまるで気にしていないかのように、悪魔に視線を釘付けにしながら答えた。
ファミアが呆れてため息をつく間もなく、パリンというガラスが割れるような音とともに障壁が崩れて消え去った。
「第二ラウンド開始だ!」




