ファミア
あれは一人じゃ無理だ。リスクが大きすぎる。勝てない。そもそもこの街には協力してくれる人はいるか?いや、ダメ元でも頼まないと。
何あの真っ黒な子。あの子ならもしかしたら。とにかく頼んでみるしかない!
「お願いです、助けてください!」
ヤマトは不意に、白髪の、ワンピースと言うにはみすぼらしい、真っ白な上下一体の服を着た少女に跪かれていた。周囲の人が思わず二度見するほど異様な光景であったが、ヤマトは気にもせず問いかけた。
「好きな魔術は?」
「え、えっと、うん?今?」
「うん!」
やはりヤマトは何にも流されない性格をしていた。想定のナナメ上の反応をされた彼女は困惑する。
「うーん、好きって言われると難しい…得意なのは火魔術なんですけど。」
「それなら間違いないな!よし!何でも手伝ってやろう」
「えっ、いいんですか?まだ何も説明してないのに。」
「いろいろ試させて」
ヤマトは理由はどうあれ彼女を気に入ったらしく、玩具をもらった赤子のように目を輝かせていた。
「なんか怖…」
彼女は若干恐怖を覚えたが、話を進めた。
「ま、まあいっか。とりあえず私の名前はファミア。13歳です。あなたは?」
「ヤマト、10歳」
「若っ。よろしく。とりあえず王都に向かわないといけないから、歩きながら話してもいいですか。何か不都合があれば待つので。」
「すぐ行こう」
「いいんですか!?」
「いこ」
ファミアは(なんかトントン拍子過ぎて怖いなあ)と思いながらも、疑っても何もないと思って歩き出すのだった。
「私からのお願いは悪魔の討伐です。」
「悪魔とな!?」
「は、はい。王都に出没しているんですが、まだ私しか気付いてないんですよ。というより、向こうから私に接触して来たんです。それで王都の住人に忠告したんですが、ただでさえ悪魔が珍しい上に私の信用度がなくて…」
「炎妖族だから?」
「やはり分かりますか…」
炎妖族とは古くから、それこそ王都ができる前から王都周辺に住む民族である。真っ白な服を身にまとった特徴的な格好をしており、王都では有名な種族である。邪悪な妖怪に祟られた人間として忌避される民族であった。
また、悪魔は魔境で少数しか出現しないと言われており、少なくとも三大魔境のいずれからも遠いロームとは無縁であった。
王都の住人からすれば、ファミアが嘘をついていると考えるのが普通なのである。
「今思えば、狡猾な悪魔のことですから、あえて私に姿を見せて愉しんでいるのかもしれないですね。信じて頂けますか?」
「悪魔か…会ってみたいな!」
「あ、あっさり信じてくれるんですね。ありがとうございます。ですが、あまり油断しない方が良いと思います。」
「敬語はいい」
「えっと、あ、はい。じゃあ遠慮なく。おそらくあの悪魔は私の本気でもかなう相手じゃないと」
「ふーん」
「ふーんて。深刻に考えてるのが馬鹿みたいじゃない…」
二人の会話はどこか噛み合っていなかったが、ヤマトからすればいつも通りだったようだ。
「えーと、報酬はどうする?今お金がそこまで無くて、命のかかるものだから、何年かかっても払おうと思ってるけど…」
「…終わってから考える」
ファミアは一般的にはかなり無理な依頼をしていたため、ヤマトあっさりとした反応に戸惑いを覚えていたが、とりあえず取引が成立したため、胸を撫で下ろした。
追加で詳細に情報交換していたが、会話が止まるとヤマトが体内魔力増幅魔術の詠唱を始めた。
「体内魔力増幅魔術?使ってる人は珍しいね。ああ、止めなくていいよ、一詠唱終わったらでいいから。」
そう言っていると、ファミアは違和感に気づいた。
(待って?10歳で、ヤマトで、魔術師で、なんかぶつぶつ言ってて気味が悪い?)
ファミアはこいつ完璧に噂の最年少魔術師じゃね?と思ったが、名前を聞いた時点で気付くべきだったなあと思って、そう思ったら恥ずかしくなってきたので、はじめから分かってましたよ、という感じにしようと思った。
ヤマトが詠唱を終えるとファミアはヤマトに話しかけた。
「すごいね。その詠唱は私も難しいのに。流石天才魔術師。」
これでもかと天才魔術師の部分を強調して、分かってましたよ感をだした。そんなことをヤマトが気にするわけもなく、話を続ける。
「ファミアも魔術師だから分かるか。たしかにこの魔術は言いにくいし一呼吸で30秒ほど詠唱しないといけないのに効果が薄いから使ってる人は珍しい。けど基本だから継続してる」
「…私も見習うべきなんだろうなあ」
(バレてないよかったあぁ)
ファミアは妙にプライドを気にしていた。
ファミアは、魔術の話になればヤマトの口数が多くなることに気が付いたので、この後もファミアが魔術に関する話を振って、ヤマトが興奮気味に答えるというような会話を続けた。
「……って感じで座標にあわせて指向性を持たせて操作してる」
「へぇ。でも魔力に合わせた方が……あれは私たちに向かってきてるよね?」
「うん」
二人が会話している最中、なにかに気付いて会話を止めた。二人の視線の先には鳥型魔獣と狼型魔獣が一体ずつ居た。空と陸という違いはあれど、同じ速度でまっすぐにヤマトたちに向かっていた。
「あれ?前逃がしたデザートバードじゃないか。それとおそらくレッサーサースティウルフだな。たしかサンドウルフの上位種だったか。しかしデザートバードとサンドウルフは敵対関係にあったはずだよな?」
「ちょいちょい言ってる場合じゃないって!」
ファミアの言う通り二体の魔獣は目前まで迫っていた。
「デザートバードをもらう」
「助かる」
直後、ヤマトは障壁でデザートバードの体当たりを、ファミアは剣でレッサーサースティウルフの鉤爪を受けた。
「少し距離をおいて戦おう!」
「おっけー」
ヤマトとファミアはお互いの攻撃が当たらないよう、15メートルほど距離をあけた。
それと同時にヤマトが火球の詠唱をした。
「黴鐵鬣黶鬣璽癭兤兤鬣黶齧…」
右手のまわりに7つの火球が生み出された。
「もう一回だ。本当に詠唱してるか確かめてやろう!」
その言葉と同時にヤマトは右手を突き出した。それに呼応した火球がデザートバードを追っていき、あの時の再現のような構図になる。やはり、デザートバードは一定の速度を越えた時に鳴き声をあげた。
「…ほうほう興味深い。最初の精霊祝詞をすっ飛ばして『強風』の詠唱をしているのか!というかそんなこと可能なのか?まず魔獣が実際詠唱しているのが面白い。だが本能的なものだろうな。中位魔術を使わないのも詠唱が難しいからって所か。」
火球が2、3発当たって、勝てないと悟ったデザートバードは小刻みに震えて情けない鳴き声を上げ、再び逃亡を試みた。
「えー逃げるのかあ。まあ今は逃げていいよ、また会いそうだし、その時に捕まえてあげよう。それよりも…」
ヤマトはファミアの方に視線を向けた。
ファミアは鉤爪を受けて、鉤爪を受け流して、鉤爪を受けてを繰り返していた。レッサーサースティウルフは速かった。それこそ、ファミアの反撃を許さないほどに。それに加え、レッサーサースティウルフは耳障りにも頻繁に吠えていた。
「吠えすぎじゃないか?詠唱の可能性もありそうだな!」
「…韉鬣黴璽醱贐鏽璽贐癭鼈霽鑿轟」
ファミアが苦戦しつつも詠唱を完了させた。
「炎纏か!呼吸も落ち着いているな」
ファミアが剣の腹をなぞり、剣が炎を纏って燃え出した。
先ほど同様にファミアが鉤爪を受けると、鉤爪が燃え上がった。一度動きの止まったウルフに数度切り込み、ウルフを燃やしてさらに鈍らせる。
「やっぱり固いね。じゃあ使うか。」
その言葉と同時にファミアは詠唱を始めた。
「韉鼈齧黴黴璽贐齧…」
「火の中位魔術か!流石だな!しかし気になるのは異様にレッサーサースティウルフが速かったことだな。おそらく踏み込み易いように土壌の操作をする魔術を使っていた。…土の下位魔術、沼化か。やはり此も詠唱を省いているのか?…そろそろ詠唱がおわるか」
ファミアは大量の汗を流して叫んだ。
「爆炎火球!」
その言葉に応じて人の顔より一回り大きいサイズの火の球が生み出され、レッサーサースティウルフに直撃した。球と言うにはいびつな形であったが、威力は高く、着弾と同時に連鎖的に爆発して炎上した。
「たーまやー」
ヤマトはそう言った後、汗だくのファミアのもとへすたすたと歩いて行ってとハイタッチした。
ウルフの死体は血をある程度流して洗ってから、ラスクからもらった革袋にしまった。もう日が落ちてきて、ファミアの疲労が溜まっていたのでその場で夜営することになり、ファミアの持っていた天幕を張って、その中央に簡易的な仕切りを立てた。
ご飯はファミアが全て担当した。ヤマトは絶望的なまでに食への興味がなく、パサパサで若干変色したようなパンしか持っていなかったので、ファミアは残飯に群がるハエを思い浮かべて引いていた。ファミアは疲弊した体に鞭を打ってご飯を作った。
ファミアは寝るときに詠唱してるのかこいつはぁと思ったくらいが、ファミアは寝つきがよかったのでほとんど気にならなかったのでラスクのようにはならなかったらしい。
翌日以降は魔獣による襲撃もなく、王都へ向かっていき、順調に進んだので3日ほどで着いた。
「ここが王都か!」
ヤマトは新たな魔術を前に目を輝かせていた。




