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プロローグ

 鍛冶国家ロームの南西部に位置する町、アステラ。ロスト砂漠、ポテシア湖、魔王領デルタの三大魔境のいずれからも離れた穏やかな地域である。そんなところにロスト砂漠でしかみられない場違いな魔獣、サンドウルフが出没していた。

「くそっ、助けてくれえ」

「何でこんな場所に…」

「王都からの応援はまだか!?」

 平穏であるはずのアステラでは新人の経験が少ない衛兵が多く、不意な夜襲であったこともあり、パニック状態に陥っていた。

 サンドウルフは、砂漠の獲物をとらえるため、砂と似たような色の毛色をしている。砂漠に棲む大きな魔獣を、2メートルを越える巨大な体にふさわしい、大きな鉤爪を以て狩りをする。衛兵たちはその大きな鉤爪に対応することが出来ずに死傷者を増やし続けている。

 もちろん衛兵の方もただ指をくわえて見ているのではない。衛兵の魔術師が下位魔術、火球をはなった。火炎魔術のもっとも基本的な魔術である。しかし、サンドウルフの、本来砂漠の魔獣の攻撃を防ぐためにある、厚手すぎる毛皮によって霧散してしまう。

 下位とはいえ強力な魔術が牽制にもならなかったためか、周りの衛兵たちがよりパニックになる。

 そんな危機的状況に、薄汚れたローブを着て、フードを目深にかぶった10才くらいの少年が現れ、一人の衛兵に声をかけた。

「ここ、通っていい?」

 守らなければならない子供が現れ、勝てそうにないサンドウルフが暴れているところを通ろうとしているのだ。少年を守らなければならないという義務感と恐怖と疑問で、より混乱を極めた衛兵は、言葉も発せずにいる。

 少年は呆れたようにため息をつき、恐れる様子もなくサンドウルフに近づいていく。衛兵はやっとのことで我に返って叫んだ。

「あ、危ないぞ!」

 少年は構わず、なにやらぶつぶつ言いながら、ゆっくりと、一直線に進んでいく。

「黴鐵鬣黶鬣璽癭兤兤鬣黶齧…」

「詠唱、魔術師か?」

 そこにいた魔術師がそれが詠唱であることに気がつくと同時に、少年の周りに10ばかりの火球が現れる。次の瞬間一斉に火球が放たれ、太陽を直視したかのような閃光を撒き散らしながら、すべてのサンドウルフにあたった。

 先ほどの魔術師が放った魔術と全く同じであったにも関わらず、火球はあっさりと毛皮を焼いた。サンドウルフたちが無残にただれた毛皮を見せつけるかのようにして、その場に倒れこんだ。

 火球を放った風圧でフードがとれた少年は、衛兵の方を振り返り、

「通るよ?」

 と、何事もなかったかのように振り返ってつぶやく。火球によって炎上する炎によって、少年の青のような紫のような色がかかった黒髪と、無表情であどけない素顔があらわになる。

 再び歩きだしたと思ったら、何かを思い出したように振り返った。

「あとはよろしくね?」

 その言葉に少し遅れて、サンドウルフが数体立ち上がり、衛兵に向かっていった。

 だが、動きが鈍くなり、ただれた明確な弱点のあるサンドウルフは新人でも対応することが出来るほどに弱体化していた。そのため、難なくサンドウルフを全滅させることに成功した。

 気付けば少年の姿は闇夜に消えていた。

 その場の誰も気付くことはなかったが、少年はあえてサンドウルフを全滅させなかったのである。彼は衛兵を助けたのではなく、自らが下手に怪しまれずその場を通れるようにサンドウルフを時間稼ぎに残したのである。

 冷静さを取り戻した衛兵たちが少年の正体に気づいた。

「あれが魔術学院を最年少で卒業した天才、ヤマトか…」

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