逃亡後の一夜。告白の始まり
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
星も見えない夜だった。
雨上がりの野営地、草の匂いが濃くて、火を焚いても冷え切った土の湿気がまとわりついていた。
森の奥深く。街道を外れた、誰も使わない廃村の端。焚火を囲んで、俺たちは黙っていた。
ラセルは、岩に腰を下ろし、空を見上げていた。金の髪は湿って、肩に張りついている。何も言わず、ただ焚火を見ていた。
その肩が、すこし震えていたのを、俺は気づかないふりをした。
レオナルトは、薪を割っていた。
正確な動作。淡々とした手つき。でも、それが“感情を閉じ込めるため”の動作だと、今はわかる。
俺は――何をすればいいのかわからなくて、何もできなかった。
「……俺が呼ばれた理由、ほんとは“世界の運命を変えるため”じゃないのかもしれない」
火の明かりを見つめながら、俺は言った。
「でもさ、目の前の誰かが苦しんでるなら、助けたいって思うよ。好きとか嫌いとかの前に、さ」
レオナルトが斧を置いた。
「それが“召喚者の義務”だと思ってるのか?」
「違う。俺の“性分”だよ」
ラセルが小さく笑った。
「……やっぱり、君を呼んでよかった」
その笑いは、少しだけ泣いていた。
「ねえ、レオナルト」
ラセルが、静かに言った。
「一つだけ、わがままを言ってもいい?」
「なんだ」
「名前を……もう一度、呼んで」
沈黙。
けれどレオナルトは、ゆっくりと、目を閉じて言った。
「……ラセル」
「……ありがとう。それだけで、俺は……」
言葉の続きを、ラセルは言わなかった。
俺は、焚火の向こうで、ラセルの目から静かに涙がこぼれるのを見た。
肩を震わせながら、声もなく泣いていた。
(……俺、どうすればよかった?)
俺は自問する。
(ラセルが泣いているのは――俺の存在のせいなのに)
ふと、レオナルトが俺を見ているのに気づいた。いつもと違う、まっすぐな眼差しだった。
「シリル。お前は、俺のことをどう思っている?」
「……え?」
空気が止まった。
ラセルのいる前で、それを聞く? ラセル、今、泣いてるのに。レオナルトへの恋が実らない苦しさと悲しさに泣いているのに。
でも、それを言う余裕なんてなかった。
レオナルトの目が、本気だったから。そう。今は、一刻の猶予もないんだ。いつ何時、追手がくるかもしれないし、いつまた、離れ離れになるか、わからない。命だって、わからない。離れ離れになったら再会できる保証はないのだ。今しか、言うときはない。今を逃したら、永遠に本音を伝える機会はないかもしれない。
転生前、伝えずにしまったことがたくさんあった……。
「俺は……」
言葉が詰まった。
「俺は、お前が好きだよ」
焚火が、はぜた。
俺の声が、夜に溶けていく。
「“推し”とか、そんなの、もう越えてた。レオナルトが傷つくのが嫌で、笑ってるのが嬉しくて、あなたが俺を見てくれると、胸が痛くなるんだ」
焚火の炎が揺れる。レオナルトの顔が、焚火に照らされている。
「……だから、俺は、好きだよ。あなたが、レオナルトだから、好きなんだ」
静寂。
でも、その沈黙は苦しくなかった。焚火の音だけが、俺の告白をあたためてくれていた。
レオナルトは、目を伏せて――ふっと、笑った。
「やっと……本音で話したな」
その瞬間、俺の目からも、涙がこぼれた。
止まらなかった。
安心と、恥ずかしさと、喜びと、全部が一緒になって、ぐちゃぐちゃだった。
レオナルトがそっと、俺の頬に手を伸ばした。
「泣くな。せっかくいい顔だったのに」
「だって……!」
「……ありがとう」
ラセルがそっと立ち上がり、二人に背を向けたまま、言った。
「行ってくる。見張りの交代」
焚火の向こうの背中は、もう泣いていなかった。
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




