第26話―〝剣神〟V.S.〝剣神〟【ラグナ視点】
――進み始めて、十数分が経った。
霧のせいで見通せはしないが、先ほど感じた反応はおそらくほぼ目の前だろう。
ふと、意識が遠のいたような、そんな錯覚が私を襲った、ような気がした。
かぶりを振り、改めて〚魔力探知〛を行使すると、先刻の私の考えを裏付けるように一つの魔力反応が引っかかった。
「……この魔力」
思わず、私は呟く。
この魔力を、私は、知っている。
つい最近感じていた、研ぎ澄まされた、まさに剣とでも言うべき鋭い魔力。
半ば呟くように、私は眼前の人物を呼ぶ。
「……祖父上」
しかし、祖父上は何も言わず、緋き妖刀、彼岸刀を抜く。その切っ先と共に向けられるのは――ただひたすらに練り上げられた、純粋な殺気。
空気が張り詰める。嫌な汗が、背中を伝う。その鋭さに、生存本能が逃げろと警鐘を鳴らす。
「……なぜ……なぜ、私に剣を向けるのですか」
「抹殺せよというのが、お上からのお達しじゃからの」
そう、冷たく言い放つ。
祖父上のここまでの殺気に当てられるのは初めて故の困惑からか、上手く呼吸ができていない気がする。酸素が脳に回らず、思考が麻痺しているような感覚に陥る。
「……お上というのは?」
「言うわけがなかろう。言うたとて今のお主は信じぬじゃろうて」
そう問答をする間にも、祖父上は変わらず殺気を放ち続けている。
「話は終わりじゃ。抜け。お主も剣と共に生きる者ならば、この窮地、己が信ずる刃にて切り抜けてみせよ」
祖父上の言葉に、私は震えながらも絶龍刀を抜き、正眼に構える。
――これは、稽古じゃない。
呼吸が浅い。手が震える。切っ先が震える。
――間違いなく、命と命のやりとりだ。
「……〚神醒・鮮雷〛」
――でも。なんで。
混じり合う様々な色の雷光は、さながら私の心の中の迷いを表しているようで。
さらに、私の呼吸が浅くなる。ドクン、ドクン、と、鼓動が脳内に響く。
「……っ…………ぁぁああああッ!!!」
煩いほどに鳴り響く心臓の鼓動を掻き消すように叫びながら、我が師へ斬りかかる。
普段とは見る影もない雑な斬り下ろし。通用するはずもなく、いとも簡単に弾かれ、空いた胴へ蹴りを入れられ、吹き飛ばされる。
「かはっ……」
「彼岸刀、極致其の伍――」
木に打ち付けられた次の瞬間には、祖父上は眼前に迫っていた。
「――“緋天葬炎”」
「其の肆、“絶龍”ッ!!」
ギリギリで刀と魔力を重ね合わせ、祖父上の紅炎を下から斬り上げる形で受ける。龍が炎を絶たんと牙を剥き、炎が龍を葬らんと荒れ狂う。
しかし、その拮抗は一瞬にして崩れ去り。
私は再び木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされ、十本ほどぶち抜いて止まる。
「……なん……っ、で…………!」
激しい痛みの中立ち上がりながら、絞り出すように、叫ぶように問う。
祖父上はまたも刹那の内に私を間合いに入れると、彼岸刀と魔力を重ね合わせる。
「極致其の漆、“悲焔咲乱”」
「……なんで、貴方と殺り合わなければいけないんですか……っ!!」
絶龍刀、極致其の参、“煌々龍転”。
一呼吸の内に、青紫色の炎と輝く龍が数十回交錯し、再び鍔迫り合いになる。
心の奥から漏れ出た私の叫びに、しかし答える声は無い。
だが、相変わらず濃密な霧の中、祖父上の炎によって照らされて見えた、彼の表情。
それはとても苦しそうで。或いは、とても泣きそうな、そんな表情をしていた。
「……ッ!」
一瞬、ほんの一瞬だけ、祖父上の力が緩んだ気がした。いや、間違いなく緩んだ。
その瞬間、私は無意識で祖父上の刀を弾き返し、権能を――“術”を、行使する。
「〚極醒・虹雷〛」
私の額に、二本の鮮やかなツノが出現する。変化した私の姿を見て、祖父上が少し目を見開く。
「……ついに、成ったのじゃな」
「ええ」
もしかしたら、まだ――。そんな根拠もない、泡のような希望を抱いて、私は改めて愛刀を構える。




