第18話―龍と精霊・2
彼のその言葉に、答える声は無く、この空間に何度目とも分からない沈黙が走る。
「……あの――」
「――正直」
耐え切られなくなったその時、沈黙を破る控えめなその声は、ウルからのもの。しかし、雰囲気が違う。
「……正直。そこに辿り着く一人目が貴方だとは思っていませんでした。辿り着くのも、まだ先の事だと」
そう言いながら眼を開け、父親を見つめるその眼は――金色の瞳。
「心外だな。俺が何も考えてねぇとでも思ってたか?」
「貴方よりも頭が切れる者がいるではないですか」
そう言いながら、ウルシアことティタルニア王が僕へ視線を向ける。
シュタリウス王も釣られるようにチラッとこちらを見るなり、困惑混じりの苦笑を零す。
「……フハッ。たしかにな。だがまあ、精霊達と関わり始めたのは俺のが先だったからな。こと精霊に関しては俺の方が知ってるってこった。とはいえ、ほぼ知らねぇも同然だがな」
「どうやら、そのようです」
ウルとは違い、相変わらず、感情の見えない淡々とした声だ。
「んじゃ、早速説明してもらおうか。龍ってのは何なのか。それと、精霊についてもな」
「……逃れるのは不可能なようで。承知いたしました。ですが、その前に――」
言葉の途中で、彼女は鬼人の二人へ眼を向ける。
「お初にお目にかかります。〝原初の島〟の主殿、そしてその伴侶殿。“精霊界エニスィテューレ”が現精霊王、ティタルニアと申します。以後、お見知り置きを」
そう言って、彼女は優雅に一礼する。その礼に対して、返すように二人も凛とした姿勢で腰を曲げる。
「これは丁寧に。いかにも拙者、蒼月島が現代当主、御剣千羅と申す。横の者が我が妻、蓮那だ。……しかし、その身体は人族の王たる彼の者の娘のモノではないか?」
自己紹介の後、何かを見極めようとするかのように眼を細めながら、至極尤もな疑問を述べるセンラ殿。控えめに、しかししっかりと頷き、ティタルニア王は答える。
「仰る通りでございます。彼女の身体に根付いた〚精霊王の巫女〛。その権能にて、この子の身体をお借りして顕現しております」
彼女の言葉に納得したようで、先程とは逆にセンラ殿が逆に頷く。
「なるほど。承知した。さて、彼の人族の王の疑問も尤もであろう。拙者のことよりも、彼に答える方が先決だ」
「……ええ。では、まず龍とは何なのか、についてです」
先刻のシュタリウス王のように、彼女は龍の棲まう龍桜山を見据えながら言う。
「前提として、その正体は魔族でも、精霊でもない」
「と、言いますと……?」
続く彼女の言葉は、二人を除いて、誰にも理解し得ることは無いモノだった。
「彼の存在、それは――神、とでも言うべきモノです」
「神……、ですか……?」
周りを見ると、レナ殿とセンラ殿以外、皆困惑した表情を浮かべている。
「生きとし生けるものだけでなく、この世を構成する万物を統べ、管理する存在。ただし、何人たりともその存在を知覚することはできないモノ。それが神です」
「でもさ、龍は神なんでしょ?何で俺らは……いやまあ見たことは無いんだけど、知覚できているんだい?」
「それに、万物を統べるというのも解らないわね。結局、その龍は、それと神というのは何が出来るの?」
「落ち着いて下さい。一つずつ答えていきましょう」
次々と捲し立てられる疑問は、アリオスとメロウ殿のものだ。
二人を少し窘めると、少し間をおいてから再び話し始める。
「まず、知覚できる理由です。これは、彼の者が、〝神とでも言うべき存在〟――すなわち、神のような存在だからです」
「「え?」」「ん?」「は?」
彼女の言葉に、皆が異口同音に困惑の声を上げる。
「……なるほど、言葉遊びみたいですね」
「ヴァイ殿、どういうことだ?」
唯一僕が理解していることに気づいたのか、ラグナ殿も解らないといった表情のまま僕に問う。
「簡単な話ですよ。〝神のような存在〟ですから、神ではないのです。神に近しい存在ではあるものの、神ではない。だから、僕達でも見えるんです」
「ああ……」
納得したのか、各々から溜息混じりの呆れ声ようなものが聞こえてくる。
そして僕の答えが正解だったようで、ティタルニア王が頷く。
「そして、メロウさんの問いに対しての答えですが……“何でも”、という言葉が正しいのでしょうか」
「「「…………」」」
再び、理解し難い言葉。
またも訪れる沈黙は、しかしすぐにティタルニア王によって破られる。
「神というのは、一柱ではありません。例えば、生命を司る神もいれば、刀を、魔剣を司る神もいる。自らが司るモノにおいて、全てを能う力を持っています」
続けて、彼女はその金色の瞳に、白菫色の魔法陣――“想創の霊王眼”を浮かべる。
「そして、神という存在を認識できる、唯一の種族が、我ら精霊です」




