幼馴染が追ってくるっ!! 5
「ど、どうして・・・っ。そのナイフを・・・?」
射抜くような目で俺を見つめるアルバートに対して俺は思わず聞き返してしまった。
それはアルバートの質問を肯定したも同然だ。これで「ローニャとは誰ですか? 人違いです。」といって逃げることは出来なくなってしまった。
アルバートはカウンターに肘をかけた姿勢で俺の方を向くと素性を説明してくれた。
「ここから西に行った町で君はオーガ退治をしたな?
しかし、オーガはもう一匹残っていた。旅の途中で町に寄った私がその一匹を倒した。
その時、聞いたんだよ。このナイフを持っていた女性のことをね。」
アルバートは手にしたナイフの柄の部分に彫られた百合の花と盾の紋章を指差していった。
「この紋章が見えるだろう?
これは私の幼馴染、ディエゴ・ヴァン・ナスレン・イザベラ・デイズの所有物のはずだ。
このデイズ家の紋章が何よりの証拠。」
ギクリ・・・っ!!
俺は自分のナイフの紋章を見せられて逃げ道が無い事を悟る。
しかもアルバートは俺が腰に差した長剣も指差して「その長剣もディエゴのものだ。デイズ家の紋章が入っている」と指摘した。
さらにアルバートは言う。
「私がここに来たのは偶然ではない。君を探していたのだ。
私の幼馴染は魔神シトリーを討伐した英雄だ。だが、奴は突然姿を消した・・・。
これほどの手柄を立てて奴が逃げ出すわけがない・・・。私にはわかる。奴は私のライバルだからね。奴の事は誰よりも私がわかっているんだ。
だから私は奴を探した。成長した私と奴で再び戦い雌雄を決するためにね。
そうして各地を転々としているうちに例の町でこのナイフの事を知った。同時に、その持ち主が今、巷を騒がしている恋多き女・ローニャであることも知ったんだ。
私は君の足取りを追ってこの町に来た。あの町から一番近いここに来るだろうと目星をつけてね。そうして君の馬の蹄の跡をこの街で見つけた。
わかったかね。君は私に見つけられたのだよ。」
なんて奴だ・・・。アルバートは英雄となった俺と決着をつけるためにワザワザ当てもない旅をしているんだ。
俺はゾッとした。
魔神シトリーを討伐した俺だが、今のアルバートとやりあえば男だったころの俺でも勝てるかどうか怪しいほど・・・いや、勝ち目はないかもしれないと思わせるほど強者のオーラに包まれていたからだ・・・。
彼は続けて言う。
「しかも君からは恐ろしいほどの呪いの力を感じる・・・。
君は何故このナイフを持っていた? 君は何者だ?」
彼から詰問するようなプレッシャーを掛けられて俺は思わず逃げ出そうとした。
しかし、逃げ出す前に彼に腕を掴まれ、強い力で抱き寄せられてしまった。
アルバートの体は大きく力は強い。俺は怖くなってしまった。
女の自分には抗う事など不可能だったのだ。
アルバートは怯える俺を抱き寄せると顔が引っ付きそうなほど近づけてさらに問い詰める。
「さぁ、言えっ! 君は何を知っている?
ディエゴは今、何処にいるっ!!」




