211話 ユージンは、再会する
「ゆーくん! そろそろ飛行船の到着時刻だよ! ギリギリだよー!」
スミレに手を引かれながら、俺は迷宮都市の飛空船発着場へ向かう。
「悪い、スミレ。リリーとの訓練が長引いてしまって……」
さっきまでリリーの剣の修行に付き合っていて、遅くなってしまった。
その言葉にスミレがちょっと不機嫌な顔になる。
「ねー、ゆーくんさー。ちょっと、リリーちゃんに甘くない? どんな時でも付き合うよね? 恋人より一緒にいる時間が長くないー?」
「あー、それは……俺が前にリリーとの約束をすっぽかしたから……」
赤い竜との再戦の前日。
俺はリリーと会う約束をしていた。
その約束を破ってしまった。
赤い竜との死闘の翌日だったし、俺は魔王になってしまって身体の調子がよくなかったし、スミレやエリーの相手はあったし、サラやアイリは本国から再三の帰還命令があったりと、ずっとバタバタしていた。
……というのは言い訳だろう。
約束は守らなければ意味がない。
だから「あらあら、帝国の聖原家の男は、約束の一つも守れないのね?」とリリーに言われてしまうと、俺はあいつの呼び出しに応じざるを得ない。
「でも、それ二年も前の約束よね?」
「まぁ……な」
赤い竜との戦いは二年前の話だ。
あれから色々とあった。
アイリは帝国へ戻り。
サラも聖国へ帰還した。
そして、俺は直接関わっていないが遠い西の大陸では大魔王が倒されるという大きな事件もあった。
南の大陸での戦争は起こっていない。
世界は平和だった。
「はぁ……リリーちゃんもいい加減、告白すればいいのに」
「スミレ? 何か言ったか?」
「何でもありませんー! ほら、いくよ。白い飛空船が見えてる! あれにサラちゃんが乗ってるよね!」
スミレが指さすほうには、点のような影がうっすら視える。
(千里眼)
目を凝らす。
魔王になった体質で、俺は常人よりも遥かに遠くのものが見えるようになった。
が、その俺ですらギリギリそれが飛空船であることを認識できる距離だ。
色などさっぱりわからない。
「スミレ……よくあれが見えるな」
「えっ? ゆーくんは見えないの?」
きょとんと首をかしげるスミレ。
炎の神人族であるスミレの身体能力は、いよいよ人間離れしている。
魔王以上に。
見た目はただの可愛い女の子なのにな。
俺とスミレは人混みの露店街を急ぎ足で歩く。
迷宮都市は今日も混雑している。
ただ、ここ数日は大きな行事を控えており、それもあって迷宮都市は全体的に落ち着きがない。
また迷宮都市を訪れる探索者の数は、年々増えている。
探索者増加の理由は『天頂の塔』では、上層に行くほど『歳を取るのが遅くなる』という魔法のせいだ。
もともとは赤い竜と戦う準備のために『迷宮主』がかけた迷宮魔法であるが、それは赤い竜を撃退したあとであっても残っている。
そして、それをユーサー学園長は南の大陸で大々的に喧伝した。
帝国では次期皇帝、聖国の次期聖女も宣伝には一役買ってくれたらしい。
宣伝効果は絶大で、最近では別の大陸から天頂の塔へ訪れる者までいるとか。
探索者が増えれば、競争も活発になる。
というわけで、現在は記録更新者も増え『迷宮主』はホクホクらしい。
ただ、俺は迷宮主から文句を言われることが多く。
「あんた、迷宮攻略サボってるでしょ! さっさと500階層より上を目指しなさいよ!」
という言葉だ。
「アイリとサラが不在なんだぞ。それにそもそも500階層を突破したのは、迷宮主が手伝ってくれた時だろ。今回はそうもいかないだろ」
「いいのよ、別に! あの時は智天使エリーニュスとかいう反則みたいなやつが階層主だったんだから。今挑戦したら500階層のボスはきっと迷宮主でしょうし、ユージンだったら適当に合格にしてあげるから、さっさと500階層来なさいよ!」
「それは適当過ぎだろ……」
以前の厳格な迷宮主はどこにいった?
以前と今で、方針が変わりすぎだ。
とはいえ、なんとか上層攻略者を増やしていきたいのだろう。
(また、本腰を入れて探索するか)
と街を歩きながら、考えていた。
「ねー、ゆーくん。今、アネモイちゃんのこと考えていたでしょ」
スミレが俺の顔を覗き込んできた。
「な、なんでわかった?」
「だって、天頂の塔の方を見上げてるなら、そう思うよ」
バレバレだった。
「最近、探索をサボってるって文句を言われてるからな。また、記録更新を目指すよ」
「…………アネモイちゃんもゆーくん狙ってるっぽいし、まずいなー」
「スミレ?」
「なんでもないよー」
そんな会話をしているうちに、俺たちは飛空船発着場に到着した。
ちょうど、大きな白い飛行船がゆっくりと着陸するところだった。
飛空船には緑の弓の紋章が描かれている。
神聖同盟に所属する証だ。
ゴウン……ゴウン……
と低い動力音が空気を震わせる。
ズン…………
と地面を揺らしながら、巨大な飛空船が着陸した。
「あの飛空船にサラちゃんが乗ってるんだよね!」
「だと思うけど、人の下船にはまだ時間がかかりそうだな」
飛空船には取り付け式の階段がかけられようとしている。
サラが何番目に降りてくるかわからないが、乗り込んでいる人は多そうだ。
行列になっている。
「しばらく待つか」
「そうだね。何か飲み物買ってくるね」
「だったら俺が……」
女の子一人で買い物に行かせるのは悪いと思ったのだが。
「いいから、いいから! サラちゃんだってゆーくんを見つける方が嬉しいだろうし! ゆーくんはここでサラちゃんを探しててね!」
と言われ、俺は待つことにした。
白い飛空船から降りてくるのは、白地の衣類に身を包んだものが多い。
司祭やシスターも多く、聖国の人で間違いなさそうだ。
それはその中に見知った元『英雄科』のクラスメイトの顔がないかを探していたら。
「ユウ!!!!」
後ろから誰かに抱きつかれた。
(なっ! 気配を感じなかった!)
魔王になった俺の完全に死角から不意をつかれた。
もっとも相手が誰であるかはわかっている。
俺が振り向くと、明るい金髪の高貴な雰囲気を纏った女性が俺に抱きついていた。
「アイリ! 到着はもっとあとの便じゃなかったか?」
今日は皇太子であり幼馴染でもあるアイリが迷宮都市にやってくることは聞いていた。
が、時刻的にはサラの飛行船のほうがはやく、サラと合流してからアイリを待とうと思っていたのだが。
「ユウとスミレにはやく会いたいから、乗る便をはやめたのよ!」
と胸を張るアイリ。
(護衛の人、予定が変わって大変だったんじゃないかな……)
と少し同情した。
が、会いたかったのは俺も同じだ。
改めて幼馴染を眺める。
長い金髪は綺麗に結われ、首には守護魔法がかかった魔石が煌めくネックレスがかかっている。
皇族の紋章の入った軍服は、特注品だろうか。
明らかに通常のものとは異なっていた。
身につけているものは高貴になっているが、本人の様子は記憶にあるまま変わらない。
いつもの溌剌とした幼馴染が笑顔で立っていた。
「久しぶり、アイリ」
「ええ、元気そうね、ユウ」
と言って、俺はアイリを抱きしめた。
アイリも俺の背中に手を回す。
ただ、俺たち以外にも久しぶりの再会で抱き合っている人は珍しくなかった。
のだが……。
「ユーウ♡」
アイリの手が俺の頭を抱き締めるようにして、自分の顔を近づけてくる。
(いや、それは……)
やってる人あまりいないぞ。
と言う間もなく、俺は幼馴染にキスをされた。
久しぶりの再会で、それを拒否するのも違う気がして俺はなされるがままになった。
しばらく、その時間がつづく。
(んっ?)
首のあたりがチクチクする。
視線を感じる。
俺が目だけで、そちらを見ると。
(げっ)
再会を喜ぶ飛空船発着場内でもあまりいない、抱き合ってキスをしている馬鹿な二人を半眼で睨んでいるのは、スミレとサラだった。
俺は慌ててアイリの身体を離す。
「ゆーくん、ちょっと目を離したら他の女にうつつを抜かしてるんだねー」
「まったく人前ではしたないわね。これだから帝国の人間は」
刺々しい言葉が突き刺さる。
俺が何と言うべきか迷っていると。
「スミレ! サラ! 久しぶりね!!」
アイリは不機嫌そうなスミレとサラを気にせず、二人にも抱きついた。
「アイリちゃん、久しぶり」
「元気そうね、アイリ」
アイリのテンションに、スミレとサラも毒気を抜かれたようだ。
助かったな。
「サラ、ひさしぶり」
どうやらスミレと先に合流したらしいサラに俺は挨拶した。
見慣れたリュケイオン魔法学園の制服ではなく、聖国の司祭服。
ただし、腰には宝剣を差し、動きやすそうな格好なのは神聖騎士にも見える。
前に会った時よりも、落ち着いて見えた。
「久しぶりね、ユージン」
と微笑む顔は、少し運命の巫女様に似ているかもしれない。
聖女としての貫禄だろうか。
「と、こ、ろ、で。こんな場所でベタベタとさかりのついた若者じゃあるまいし」
サラに頬をつねられた。
痛い。
昔とかわってなかった。
「とりあえず、場所を変えよう。せっかく再会できたんだから」
「そうね。ここじゃ落ち着いて話せないし」
「サラの荷物を持つよ」
「ありがとう、ユージン」
「じゃあ、宿に向かいましょう!」
「ねーねー、アイリちゃんの服可愛いね」
「でしょ? 今日のために作ってもらったの」
「オーダーメイドいいなー」
俺たち四人は雑談しながら、迷宮都市の繁華街にある宿へと向かった。
後ろからアイリとサラの護衛たちがついてくるのを感じる。
口出しはしてこないらしい。
そこは元クラスメイト同士ということで信頼されているのか。
次期皇帝と次期聖女の組み合わせに、あえて近づかないようにしているのかわからない。
何にせよ邪魔は入らなかったので、俺たちは昔話に花を咲かせながら宿へと移動した。
一番の話題は赤い竜との戦いの思い出。
あとは天頂の塔の攻略の話だ。
できれば一緒に戦ったクロードもいてほしかったが、今日は立て込んでいるらしい。
明日には会う約束をしている。
そろそろ宿が見えてきたタイミングで。
「今日はサラちゃんとアイリちゃんは予定ないんだよね?」
スミレが二人に予定を確認した。
「そうね。今日はこのあとの予定はないわ。でも、明日からは……」
「忙しくなるでしょうね」
アイリとサラは答える。
その理由は俺とスミレも知っている。
そもそも次期皇帝と次期聖女という、大国の重要人物が二人同時に迷宮都市にやってきたのは理由がある。
「明日は……迷宮都市に西の大陸の王女様と勇者様がやってくるんだよね?」
スミレが言うと、サラとアイリが頷いた。
俺はスミレの言葉に補足する。
「正確には世界最強の軍事国家である西の大陸『太陽の国』の女王陛下と、大魔王を倒した救世主様の来訪だ」
それが、ここ数日迷宮都市がざわついている要因である。
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