209話 剣聖
天使へと戻ったエリーはバサッ、と純白の翼を大きく羽ばたかせる。
夜空の星々のように煌めいている銀髪は、わずかに黄金の霊気を放っている。
魔王の時とは違う神聖な威圧感を放つエリーは。
「はぁ~、マジかー」
がっくりと項垂れていた。
「エリー?」
「エリーさん?」
俺とスミレが一体どうしたのか、と尋ねると。
「まだ当分は地上でダラダラするつもりだったのに……天界に戻るのか〜。一日20時間くらい寝ても誰にも起こされてない私の堕天生活が終わってしまった……シクシク」
「「…………」」
俺とスミレは顔を見合わせる。
あまり深刻な状況ではなさそうだ。
けど、気になることもある。
「エリー、天界に戻ったらもう会えないのか?」
その言葉にスミレも「はっ!」とした表情になる。
「あー……それは……」
エリーが気まずそうに頬をかく。
やっぱり天界に戻るということは、母さんと同じということだ。
つまり地上にいる俺やスミレとはもう……。
――心配はいりませんよ。ユージン・サンタフィールド。エリーさんには天頂の塔の管理者をやってもらいます。
リータさんの身体に降臨した運命の女神様から神託があった。
「「「「え?」」」」
驚きの声を上げたのは、エリーと俺とスミレと迷宮主。そして……
――な、なんで!? エリーは木の女神のところに戻ってくるんじゃないの⁉ イリア! なんの権限があってそんなことをするのです! ゆるしませんよ!
いつの間にか天使さんに降臨していたらしい木の女神様が、慌てている。
(結構、気軽に降臨されるんだな……)
「め、女神様が御二柱も降臨なさるなんて……」
サラが目を見開いている。
「珍しいのか?」
「あ、ありえないわ……」
俺がボソッと聞くと、サラが答えた。
「えっと……私は天頂の塔勤務になるってことかしら? それなら天界に戻らなくて済むし、仕事も楽だから私はありがたいけど……本当にフレイヤ様のところに戻らなくていいのかしら?」
エリーがまだ戸惑っているようだ。
――ダメです! 認めませんよ! エリーは木の女神のところに復帰させます! そんな勝手なことを誰が……
――太陽の女神大姉さまの決定です
――…………
「…………」
木の女神様とエリーが同時に黙った。
「うーむ、実に興味深いな。太陽の女神様の名前まで出てくるとは。エリーニュス殿の天界での立場が気になる。天界の様子まではこちらから観測できぬか」
少し離れた位置で話を聞いてユーサー学園長のつぶやきが聞こえた。
あれは完全に楽しんでいるな。
「なぁ、エリー。天頂の塔の管理者になるってことはリータさんと同じってことか?」
「うーん……そうみたいね。でも、ここの仕事って事務に近いから私みたいな戦闘用天使がなんで配置されるのか……」
――エリーさんには天頂の塔以外に、海底神殿にも定期訪問をしてもらいます。これは太陽の女神大姉さまからの指示です。
「え””」
運命の女神様の言葉を聞いて、はっきりとエリーの顔が青ざめた。
「エリー、大丈夫か?」
ふらっと倒れそうになったエリーを慌てて支える。
「えっと……運命の女神ちゃん……もしかして、太陽の女神様って怒ってる? あの、いくらなんでも海底神殿に行かされるのは……」
「そ、そんなに海底神殿が嫌なのか?」
恐れるものなど何もないというイメージだったエリーが震えている。
「海底神殿に封印されている古い神が問題なのよ……。私は直接会ったことは一度しかないんだけど、それはそれは……いえ、これ以上言うのはやめておくわ」
「そんなに……?」
エリーがこれほど恐れるとは。
――エリーさん。大丈夫ですよ、海底神殿には水の女神姉様もいますから。それにさすがにかの女神に新人天使を向かわせるわけにもいかず……。
「…………終わった」
エリーががっくりと地面に手をついている。
とりあえず、エリーと会えなくなってしまう事態は避けられたようだが、エリーの落ち込みっぷりが半端ない。
どう声をかけていいものやら、スミレと思案していると。
――さて、それからユージン・サンタフィールドにクロード・パーシヴァル。
「は、はい!」
「はい」
運命の女神様から俺とクロードの名前が呼ばれた。
――さきほどの赤い竜との戦いは両者、見事でした。貴方たちの力がなければ、『神の試練』の突破は難しかったでしょう。そして、……貴方たちは『あるもの』からチカラを得ていますね?
(おっと、こっちに矛先がきたか)
魔神様のつぶやきが聞こえた。
俺はクロードと顔を見合わせる。
「女神様! それには理由があって……!!」
サラが声を荒げる。
クロードは魔神様を信仰。
俺に至っては『魔王』になった。
女神様としては放っておけないというのは、理解できる。
(……どんな罰が下されるか)
ふとこっちを心配そうに見つめるスミレとアイリの視線に気づいた。
もしかすると魔王のように第七の封印牢に閉じ込められるのか? とも思ったが、あれはどうやらエリーが自分から入っていたらしい。
その話もあとで聞かないと。
そんなことを考えている間にも、女神様の言葉は続いていく。
――忘れ去られし古い神との契約。本来ならば許されざることですが、今回の赤い竜の件は、運命の女神の不備でもあります。よって、不問としましょう。
(よかった!)
ぱっと、周囲を見るとほっとした顔のクロード。
スミレやサラ、アイリも安堵の表情をしている。
――しかし……
(まだ、なにかあるのか?)
女神様の言葉が続くことに、緊張感が走る。
――あれほどの試練を突破した勇者たちに何も与えぬわけにもいかないでしょう。たとえ、古い神との契約で得たチカラでの功績であったとしても……。よって、ユージン・サンタフィールド。クロード・パーシヴァルの両名に『剣聖』の称号を与えます。女神教会の巫女より、正式に神託を授けましょう。
「「えっ!?」」
俺とクロードから同時に声がでた。
話が飛躍しすぎて、ついていけない。
俺が混乱していると、魔神様の声が聞こえた。
(どうやら、才能あるキミたちに僕が先に手を出してしまったのが、よっぽど悔しかったらしいね。魔神との契約を、女神教会からの『剣聖』の称号で上書きしたいっぽいね)
(そんなことで剣聖を名乗っていいんでしょうか?)
剣聖は世界を救った平和の象徴、だったはずだ。
(あははっ! 真面目だね、君は。この世界の支配者たる聖神族の女神サマが言ってるんだ。大人しく受け取っておきたまえ。それが大人な対応ってやつだよ)
(そう……ですか)
なんとなくモヤモヤとしたが、俺は魔神様の言葉通り大人しく従っておくことにした。
その後も、ユーサー学園長やロザリーさん、メディア部長や第一騎士さん。
赤い竜と戦った人たちへの女神様から御言葉があった。
皆にも何かしらの恩賜があるようだ。
サラは恩賜を「恐れ多いです!」と辞退していた。
スミレは、まさかの『もう一度元の世界に戻れる提案』を女神様から受けて「大丈夫です!この世界に残ります!」と言って断っていた。
アイリは「あとで決めてもいいですか?」と保留していた。
ちゃっかりしてるな。
――俺はその様子を、すこしぼんやりした頭で聞いていた。
「どうしたのよ? ぼーっとして」
落ち込みから回復したらしい、エリーが俺の肩をつつく。
「色々ありすぎて、……意識が追いついてないんだ」
昨日、みんなと一緒に未来から時間転移してきて。
今朝に赤い竜の『神の試練』が始まって。
勝つために『魔王』になって。
そして、ついさっき女神様に『剣聖』を名乗るように言われた。
これほど目まぐるしく環境が変わったのは……帝国軍士官学校の『選別試験』の時以来。
いや、あの時よりもはるかに、だった。
「別にユージンはユージンでしょ。私を落とした男なんだから、どーん!と構えておきなさいよ!」
ばしっ! と背中を叩かれた。
そう言われて、少しすっきりした。
「それも……そうだな」
やっと実感が湧いてきた。
赤い竜の試練に勝ち。
迷宮都市は崩壊しておらず。
南の大陸の戦争はきっと止められる。
あの暗い未来は回避できた。
(そっか……やり遂げたのか)
俺は共に戦ってくれた、神刀と白剣の柄を強く握り、天を見上げた。
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■感想返し:
>取り消し(強制)ってこと…?
>これは嬉しくないやつなのでは!?
→エリー的にはうれしくないですねー。
もっと地上でダラダラしていたかったので。
■作者コメント
ゼロ剣6巻のイラストキャラです。
ロベール部長、イケメンですね。サムライっぽい。
メディア部長、美人。ただし、この三人の中だと圧倒的に年上です。たしか学園に50年くらい在籍してるはず。
そして、レベッカ先輩……誰かに似てるような(すっとぼけ)
そして、次回で完結です(多分、今度こそ)
■その他
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