第17話⑥~天才とバカは紙一重~
レミに迸った電撃。それは観客、選手、そしてシャッフルのメンバー――観る者全ての心に、電撃以上の衝撃を走らせた。
「感電――!? まさか!!」
控え室でモニターを凝視していたみのりは、即座にメンバーへ通信を飛ばす。
「もしもし!? 剣くん、急いで工作員を見つけ出して! レミちゃんが、レミちゃんが感電して苦しんでるの!!」
『か、感電!? あの野郎、やりやがったな!!』
――ドンッ!
剣は猛スピードで管理室へとひた走る。その角を曲がった瞬間、向かい側からノートパソコンを抱えて走り去ろうとする男と正面衝突した。
「痛つぅ……危ねぇだろが、ボケェ!!」
男は床に叩きつけられ、眼鏡を歪ませて呻いている。
「――あ、剣! そいつや! ワイの追っとった奴は!!」
背後から豪樹が駆けつけ、剣と合流した。
「何ぃ!?」
剣は即座に跳ね起き、インテリ風の男を組み伏せた。
「……若気の至りが過ぎるぞ、学生」
「うるせぇ! 俺のダチが苦しんでる時に、四の五の言ってられっか!!」
「……あの娘の漏電は、運営による『事故』として処理される。せいぜい処罰の対象が変わるだけだ」
「――ちょっと、その口は慎んでもらおか?」
男の吐き捨てるような戯言に、豪樹の堪忍袋の緒が切れた。男の喉元を太い腕で締め上げ、尋問を開始する。
「さっき管理室の前にUSBのキャップが落ちとった。まさかと思うが、そこで細工したんやないよな……?」
男は黙秘を貫くが、剣が男の持ち物を探ると、豪樹が拾ったキャップと寸分違わぬ黒いUSBメモリが出てきた。
「あんたが仕込んだなら、直し方も知っとるはずや。――チートシステムを解除してもらおうか」
「お前たちに、僕を脅迫することはできない」
「……ほう、どうしてや?」
「プレイヤーには『ルール』があるはずだ。暴力で解決しようなど、人としても、競技者としても失格だ」
鼻につくような屁理屈。だが、剣は冷ややかに笑った。
「……ご尤もだ。俺も学校の先生に耳にタコができるほど言われてるよ」
――バキッ!!!
剣の怒りの鉄拳が、男の顔面に沈み込んだ。コンプライアンスなど知ったことか。
男は声も出せずに悶絶し、床をのたうち回る。剣はその胸ぐらを掴み上げ、地を這うような声で囁いた。
「御託はえぇから、さっさと元に戻せ。でないと、後ろのゴッツいおっさんが、お前を骨ごと粉々にするってよ」
豪樹が悪鬼のような形相で拳を鳴らす。男の顔から一気に血の気が引いた。
◇◇◇
一方、レミは電撃によるダメージで意識が飛びかけるのを、気合だけで繋ぎ止めていた。
「な……何なのよ、さっきのは……っ!」
「お前のゲームサーバーに少し『工夫』を施しておいた。テトリスでのダメージが電流として変換され、プレイヤーに直接フィードバックされる。威力は蓄積されたダメージに比例する」
背後から響いたのは、卑劣な罠を仕掛けた男、鳩山照雄の声だった。
「やっぱりあんたが――! まさか、負けたら命まで奪うつもり!?」
鳩山は答えず、冷徹にテトリミノを積み上げる。そして、再びレミへの集中攻撃を開始した。
レミのダメージゲージが跳ね上がる。これが頂点に達すれば、膨大な電流が彼女の体を焼き尽くすだろう。
(ヤバい、これ以上は……本当に死んじゃう……!)
必死で相殺を試みるレミ。だが、敵の猛攻は凄まじく、相殺しきれない微小な電流がチクチクと神経を逆なでする。
その時、同じブロックで戦っていた槍一郎が、サブ画面で異変を察知した。
「何だ、この異常な集中包囲は!? ――まさか、レミを狙っているのか! よし!」
槍一郎は即座にプログラム『HOMING』を発動。5箇所のターゲットを同時にロックオンし、狙い撃つ広域攻撃だ。
―――SHOOT!!
放たれたラインがレミを攻撃していたプレイヤーたちを直撃。一気に5人をノックアウトに追い込んだ。
「ブラックヘロンの仕業か! ――耐えてくれレミ、僕も加勢する!!」
続けて援護を送ろうとする槍一郎。だが――。
「邪魔が入ったか。――消え失せろ」
鳩山が手元の小型端末を操作し、改造プログラムを走らせる。槍一郎のルームにターゲットを絞り、公式には存在しないウイルスを撃ち放った。
その名は――【DELETE】。
「―――!!?」
刹那、槍一郎の蓄積ダメージが強制的にMAXへと書き換えられた。
画面下部からせり上がったブロックが、一瞬で天井まで到達する。
『おおっと、何が起こった!? 安全区域にいた天野槍一郎、まさかの即死タワーリング! 天変地異か、それとも未曾有のバグか!?』
実況の新垣の声が響く中、槍一郎は呆然と画面を見つめることしかできなかった。
(こんなことが……。僕はまだ、何も成し遂げていないのに……!)
その顔に、じわりと悔しさが滲む。
「―――ククク、ハハハハハ!!」
鳩山の不気味な笑い声が響き渡った。
「――何が可笑しいのよッ!!」
「……ゲームごときに現を抜かす輩など、消えてしまえばいい。知性も経験もない馬鹿共が、画面の中で勝っただけで英雄気取りか。反吐が出る! 私が築き上げた学歴も、経験も、社会への貢献も、この盤面の上では何の役にも立たない……! 鬱陶しいんだよ、こんな世の中はッ!」
冷酷だった鳩山が、初めて感情を剥き出しにして叫んだ。
「だが今はどうだ? 我が組織の前に、政府は指をくわえて見ていることしかできない。所詮、ゲームバカが本物の天才に太刀打ちできるはずがないんだよ!」
「……そんなこと……っ!」
レミは激しさを増す攻撃を凌ぐだけで精一杯だった。
「お前のような小娘が、たかがゲームで殿堂入りしていい気になるなど片腹痛い。これで分かっただろう、ガキの玩具で天下を取った奴がどれほど無力か。ゲームプレイヤーなど、この社会には必要ないんだ。
――現実を見ない馬鹿共は、ゲームワールドごと滅び死ねばいいッ!!!」
プチンッ―――!!
死闘の最中、何かが切れる音が『二つ』、重なった。
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次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




